資産税の落とし穴 vol.10

企業オーナー系の相続対策 その2

 

 平成29年10月20日発行

 

※前回(2017年9月20日配信分)『企業オーナー系の相続対策 その1』の「②後継者を誰にするか?」内容からの続きとなっております。前回配信分をご覧になりたい方はこちら⇒2017年9月20日配信分

事業承継とは何か?と後継者を誰にするか?の問題(つづき)

(「②後継者を誰にするか?」のつづきから)
(ハ)第三社売却(M&A)

 親族も承継しない、従業員も経営者たる資質がない、となれば廃業か第三者売却です。 本業に力がある中小企業はやはり第三者売却を選択するでしょう。ただし、売却代金が現オーナーに入ってしまうと、相続財産が増加すること(このようにならないように対策することも事業承継対策の一環として当然考慮すべき事項です)、また、そもそも売却先がちっとも見つからないというデメリットがあります。もしこの手法を選択するなら「その分野では一番」という圧倒的な強みをもつことができるよう営業努力をすべきです。  かつては親族承継が7、8割を占めている時代もあったのですが、現在は、子供が跡を継ぎたがらないため等、後継者不在の中小企業もかなり多く見受けられます。中小企業向けのM&A仲介会社が活況を呈していることからもそれはお分かり頂けるでしょう。  とにかく事業承継対策といえばまずは「後継者を誰にするか」決定することが最初の最も大きな判断事項となります。

 

 

③事前準備

 事前準備をいつからするかという問題もあります。結論から言えば早ければ早いほど良いのです。現オーナーがご所有の自社株式は相続財産に含まれます。現オーナーはご高齢の方が多いですが、何の対策も打っていない高額の自社株式が相続財産に含まれてしまい、高額の相続税がかかってしまうことになります。一般的に自社株対策を手っ取り早く打てるのは「類似業種比準価額」です。なぜなら、「配当」「利益」はある程度、操作できるからです。これに比較して「純資産価額」は今までの自己資本の蓄積や、どうしても手放せない事業用不動産等の含み益がすべて反映されてしまうので、対策は打ちにくいといわれます。ただし、配当や利益をあまりに低くしてしまうと「比準要素数0の会社」「比準要素数1の会社」に該当してしまい、税務上の評価額の算定上、かえって高額になる恐れがあります。

 

 

④事業承継にまつわる恐ろしい実例

 典型的な失敗事例です。業績の長く、古くから所有する不動産も多く所有し、かつては業績も好調であった会社。最近は類似メーカーの新商品におされ、利益はじり貧です。従って自社株式の税務上評価額は低いものだと決めつけて生前は何も対策をしておりませんでした。いざ現オーナー様の相続が起こった時に問題になったのは①「自社株式の税務上適正な株価が思いのほか高くなってしまったため、相続税額が多額になり相続税の支払いができなくなってしまった」②「自社株式は何とか後継者に全部移動することができたが、他の相続人からの遺留分減殺請求をおこされてしまった」といった内容です。これらの問題は事業承継がうまくいかなくなった場合に非常に多く見受けられる典型例です。次回以降、なぜこのような事態が発生してしまったのか、考察してみましょう。

 

 

(次回に続く)

 

 

<執筆者>

伊藤 俊一 氏

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。
税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。

 

都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 

 

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