資産税の落とし穴 vol.9

企業オーナー系の相続対策 その1

 

 平成29年9月20日発行

 

 企業オーナー系の相続対策は自社株対策がキーポイントとなります。中でも財産権=自社株式の承継です。事業承継について各種スキーム等を詳細に述べていくと一冊の分厚い本になってしまいます。ここでは「そもそも事業承継とは何か?」について述べていきます。

事業承継とは何か?と後継者を誰にするか?の問題

①事業承継の本質とは?事業承継対策とは何をすることなのか?

 非上場会社の事業承継とは、本質的には「自社株式の移動」を言います。つまり創業社長である現オーナーが有している自社株式を、後継者である誰かに贈与あるいは譲渡等して移動させることが本質となります。もちろん、創業社長が一手に担っていた「社長業」を後継者に円滑に承継させることも事業承継の大きな課題の1つです。しかし、これは後継者をいかに「経営者」に育てるかという経営上の問題であり、この項では詳細は割愛させていただきます。

 

 通常、金融機関やコンサルティング会社が標榜する事業承継対策といえば、この現オーナーから後継者への自社株式の移動をその移動に係るコストを如何に低減させて、円滑に実行するかについて様々なスキームを利用し実行することを指します。また、その自社株式の移動について、税務的な論点で最も議論があるところでもあり、専門家の腕の見せ所と言えます。また、この移動コスト低減のために自社株式の評価額を下げること等、税務上有利な取り扱いを受けるための対策を総称して自社株対策といいます。

 

 

②後継者を誰にするか?

 自社株式を後継者に移動させるだけなのになぜ税務上の問題が関わってくるのでしょうか。それは移動する際の自社株式の評価額によって、税務上の取り扱いが異なってくるからです。税務上、後継者、つまり株式の贈与先、譲渡先によって株式の相当な対価(=時価)が変わってきます。従って、事業承継対策を行う場合、一番初めの決定事項は後継者の決定となります。後継者候補は現オーナーの親族、従業員等、第三者(外部売却、いわゆるM&A)の3区分に大別されます。

 

(イ)親族承継

 かつては主流でしたが、現在はそれほどではない状況です。メリットとしては、心情的に受け入れやすいこと、生前に株式を子供に贈与又は譲渡させるため、現オーナーの相続財産が減少し、相続対策を効果的に実行できるという点が挙げられます。  もちろんこの生前の株式移動に係るコスト(贈与税・所得税)を株価引下げ対策により、大きく減少させることが前提となります。

 

(ロ)従業員等

 親族承継の減少とともに増加してきているのがこの方法です。本格的にMEBOスキームを実行することから、従業員(又は役員)持株会を設立し、そこへ現オーナーの株式を集約させることなど手段はさまざまですが、メリットとしては株式移動に係るコストが親族よりもかなり低減されることが挙げられます。相続税法では、親族から全く赤の他人に株式を移動させるときは、そのときの株価を低い価格で取引してよいとあるからです(配当還元方式による価額といいます)。相続財産も通常、売却金額がそれほど高くないため、大幅に減少させることが可能です。デメリットとして、他の従業員の「見知らぬ人は受けいれがたい」という心情的な問題等の出現、現オーナーが個人保証している会社などではその保証が抜けない、従業員は通常株式を集約できるだけの資産がないことからその資金調達コストが多額になる(銀行等による借入金利息支払等)ことが考えられます。

 

次回、(ハ)第三社売却(M&A)からお話します。

 

 

<執筆者>

伊藤 俊一 氏

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。
税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。

 

都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 

 

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