資産税の落とし穴 vol.8

不動産所有型法人のスキーム失敗例

 

 平成29年8月21日発行

 

※前回(2017年7月20日配信分)『不動産所有型法人のスキーム失敗例』の続きとなっております。
前回配信分をご覧になりたい方はこちら⇒2017年7月20日配信分

 

不動産所有型法人のスキーム失敗例(前回の続きから)

(例4)「会社の資金繰りが悪く、貸付金が増大に」

 そもそも法人の運営スキームが間違っている例です。賃料収入の設定や、管理料の設定を誤っているケースです。この場合、会社の資金繰りが悪いので、資産所有者(親)からの貸付金が莫大なものになっています。非常によくあるケースが役員報酬が未払計上されているケースなどです。この場合、相続発生時にはこの貸付金や未払金はすべて親の相続財産になりますから、相続税が多額になってしまいます。

 これは、当初の法人生成スキームの中で賃貸収入、管理料の設定、及び役員報酬の設定についてシミュレーションをし、その後継続的にモニタリングして、役員報酬額を調整することで回避できるはずです。ところがこれも上記と同様に、その後のモニタリングをしてないという怠慢から生じている問題なのです。貸付金、未払金が多く発生するのであれば、法人スキームの見直しと同時に、相続時精算課税等の制度を利用し、子にアパートを贈与すべきです。

 

(例5)「株式を分散し過ぎて相続争いの火種に」

 株式を多くの相続人に分散して、相続争いの火種になっているケースです。法人化すると、遺産は不動産から株式に転化します。そして、株式も遺産分割の対象になります。特に不動産所有法人では会社の株式=不動産ですから、その分割協議も難航することは目に見えています。

 このように、せっかく法人化して生前贈与や所得分散効果を狙ったにもかかわらず「設計ミス」「モニタリングの怠慢」により、全く生かされていない法人が現実に数多く存在します。
 不動産法人の果たすべき役割は本来下記のようなものです。すでに法人化している地主については改めてチェックしていただきたいと思います。

 

●資産税大増税時代に対抗する不動産法人の役割

 上述の問題ある法人は当初のスキーム策定上の問題といえます。さらに、これからの資産税大増税時代をにらんでこういった問題ある法人の問題点を是正するだけでなく、そういった時代にマッチした不動産法人に転化しなければならない時代になってきていると思います。具体的には下記のような要件が当てはまる不動産法人です。

 

(1)後継者等相続人に対する所得分散による節税
 親が役員報酬の総取りをしていては全く意味がありません。相続人を役員にして所得税を分散させてください。また納税資金を徐々に移転させるという効果もあります。
 こうすることにより、親にはキャッシュがたまらず、相続財産がこれ以上増加することをおさえ、相続税の節税になります。また、子の世代があまり資金が潤沢にない場合には、後継者及び相続人の生活防衛になります。

 

(2)資産経営の承継

 長寿化の進展に伴い、生前の承継は不可欠です。法人の事業承継は株式を後継者に移転すればよいので簡単です。この場合も上述の通り、株式の移転タイミングに留意する必要があります。必ず継続的なモニタリングが必須となります。

 

(3)納税対策

 不動産法人に賃料収入を一本化させることは、収入源をおさえ、一括化することができます。仮に納税資金が不足した場合には、会社に不動産を買い取らせた金額で捻出すればよいのです。

 

(4)資産の細分化の防止

 不動産のままでは円滑な遺産分割は実行できません。不動産のような分割不能な財産は必ず争族問題を引き起こす要因となります。しかし、会社形態であれば株式が遺産分割対象になりますから、不動産の細分化を防止しつつ円滑な遺産分割を可能にします。

 

(5)財産防衛

 金融危機、経済恐慌等、万が一が発生しても法人であれば柔軟に対応可能です。
 つまり法人の役割は「単なる相続税節税」といった小さな視点から「経営、納税、分割、生き金防衛」という大きな視点にシフトしているわけです。これがこれからの資産税大増税時代に対抗していくためのコツであるといえるでしょう。

 

 ちなみに、法人を設立しなくても所得分散を図る方法はあります。例えば、相続時精算課税の制度を使って収益性不動産を贈与すれば相続人に所得分散を図ることは可能です。土地は個人のままで、建物だけを相続人に贈与すれば、効果的に所得分散が可能です。サブリース契約(転貸契約・一括借り上げ契約)を締結しておけば、それを引き継ぐことにより土地の「貸家建付地」評価はできます。法人を設立し、そこに資産移転をするとなるとどうしてもその仕組みや作業が」面倒になります。要するにお金の流れがいくつにもなって直観的な管理が困難になるのです。シンプルな設計にした方がその後の変化への対応も柔軟にできます。

 

 

<執筆者>

伊藤 俊一 氏

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。
税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。

 

都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 

 

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