資産税の落とし穴 vol.7

典型的な相続対策~賃貸不動産の取得と法人化~ その3
不動産所有型法人のスキーム失敗例

 

 平成29年7月20日発行

 

※前回(2017年6月20日配信分)『典型的な相続対策~賃貸不動産の取得と法人化~ その2』の
「不動産所有型法人スキーム」内容からの続きとなっております。
前回配信分をご覧になりたい方はこちら⇒2017年6月20日配信分

 

不動産所有型法人スキームの留意点(前回の続きから)

  •  建物を法人へ移す場合、多額の繰越欠損金を抱える既存の法人がある場合には、無償返還の届出書を提出せず、あえて税務上の借地権を発生させる方法も効果的です。この場合、個人においては、土地の相続税評価額は、借家権割合を控除した評価額になりますし、法人においては、借地権相当額の受贈益と繰越欠損金を相殺することに加えて、会計上も貸借対照表における財政状態を健全化できます。与信に有利に働きます。
  • 一般的に株式は遺産分割しやすいと言われますが、株主数が仮に増加してしまうと、株主代表訴訟など嫌がらせリスクを低減させるためにだれか1人に集約させておきたいところです。そうしないと遺産分割で争いになる可能性は高まります。
  • 未上場会社の相続税評価額と時価とは全く異なる方法で算定します。相続税評価額を基準にした遺産分割協議が成立しなかった場合、今度は時価を基準に裁判所で争うことになります。このようなケースでは、何回もシミュレーションを繰り返して綿密な計画を準備しておかないと遺言書など意味がありません。すべての相続対策が相続人たった1人の遺留分減殺請求ですべて終了してしまうわけです。
  • 個人資産管理目的の法人は未上場株式であり、換金性は全くありません。最終的に清算しなければならないということも多いのです。

 

不動産所有型法人のスキーム失敗例

 現在、前回(2017年6月20日配信分)説明したような不動産管理型法人又は不動産所有型法人なるものが流行しています。上記のスキームで解説したように、個人所有から法人所有へ不動産をシフトするのです。これにより「間違った」資産運用管理は防止できたと錯覚しがちです。というのも後述のように、せっかく法人を設立したのに、運用管理そのものを「間違った」システムにしているところが多いのです。

 具体的に、よくある「有効に機能していない法人」とは下記のようなものをいいます。

 

(例1)「役員報酬をすべて親が持っていっている」

 親(資産所有者)が社長で、役員報酬の大部分を得ている状態です。つまり相続人への報酬がないため、相続人への所得の分散ができていないことになります。これでは、生前の相続人への所得分散効果が全くできていないことになります。

 

(例2)「法人にキャッシュを蓄財しすぎている」

 法人で高い法人税を負担して、株価も高くなっている。法人税と所得税の税率差による節税をしすぎてしまった悪例です。所得税の最高税率(55%)よりも法人税の実効税率(約38%、中小企業の場合はもっと低くなります)のほうがはるかに安いため、法人で所得を出し続けているというケースです。

 しかし、法人で高い法人税を負担しているということは所得が十分に出ている状態ということです。所得水準が高いと、会社の利益水準が高く、また自己資本も蓄積された状態になるため株価は高くなります。既に法人株主が相続人であれば問題ありませんが、もし法人株主が親のままでは、親の相続財産になります。また、相続人に生前贈与するにしても高額な贈与税が発生します。

 

(例3)「株式をすべて資産所有者が持っている」

 資産経営の委譲は親の目の黒いうちに実行しなければなりません。ご自身はまだまだ現役と思っていても高齢になればなるほど判断能力も鈍ってきます。その前に何とかすべきですが、このまま親が株主のままの状態である法人が多く見受けられるということです。

 株式はすべて親が有しており、相続人に贈与していないというものです。相続発生時にはこの株式はすべて相続財産になりますから、後継者に資産移転できていないわけです。

 法人化する場合に悩ましいのは株主をだれにするかです。そこで株主が親になるというケースがあるのです。これは子に財産があまりなく、さらに法人に対して不動産購入のための銀行からの融資が望めない場合などに、借入をせず、賃貸物件を法人に現物出資して親が法人を設立してしまったパターンに多く見受けられます。

 法人の株式は親が所有したままですから、このまま相続を迎えると、親の相続財産になってしまい、生前贈与になっていません。そこで、自社株対策を行い、自社株の相続税評価額が低くなったタイミングで子に贈与又は譲渡して自社株を承継していくという作業が必要になります。これは設立後の継続的なモニタリングが必要なところになりますから、それを怠たってしまい、「役に立っていない法人」が生成されていまっているということになります。自社株の評価下げについての検討や自社株承継のタイミングについては引き続き検討しなければならない事項なので厄介です。

 法人の場合には、社長交代という事業承継が必要です。法人の役割は所得の分散だけではありません。事業の承継の役割も果たすのです。そして、資産経営の早期承継こそが本当の相続対策なのです。

 

 次回、例4からお話します。

 

 

<執筆者>

伊藤 俊一 氏

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。
税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。

 

都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 

 

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