資産税の落とし穴 vol.18

相続税の納税-物納と不動産の売却-

 

 平成30年6月21日発行

 

物納の要件

 相続税の納税は、相続発生日(被相続人が死亡した日)の翌日から10ヶ月以内に現金で一括納付が原則です。しかし、相続した財産の中には、不動産のように、すぐに現金にできないものも多々含まれています。そのため、期限内に現金一括で支払えないということがしばしば起こります。下手をすれば、延滞税までかけられてしまう事態です。
 そのような場合の対処法としては、延納・物納がよく知られていますが、今回は、物納を少し詳しく説明します。
 物納とは、相続財産そのものをもって税金を納める方法です。延納によっても金銭で納税することを困難とする事由がある場合は利用できる可能性があります。物納財産は国が管理または処分をするのに適したものでなければなりません。物納に充てることができない「物納不適格財産」としては、例えば不動産の場合、次のようなものが挙げられます。

 

 ○担保権が設定されている
 ○権利の帰属について争いがある
 ○境界が明らかでない土地
 ○耐用年数を経過している建物 など

 

 つまり、分割協議の調っていない財産は物納することが出来ません。
 なお、最近では延納も物納も要件が厳しくなり、現実には利用することが難しくなってきました。国税庁のホームページにある統計を見れば一目瞭然です。とりわけ、物納に関しては、平成18年度前後を境にして激減しました。適用要件の改正が行われた年です。
 「間口が広がった分、ハードルが高くなった」とされています。
 「間口が広がった」というのは、市街化調整区域内の土地等でも物納可能になった点、延納から物納に切り換えることも可能になった点が挙げられます。
 「ハードルが高くなった」部分は、物納申請時には、測量を済ませ、越境物を撤去するなど「完成品」を提供しなければいけなくなった点、「金銭納付を困難とする理由書」が厳格化された点、利子税がかけられる点、が挙げられます。
 かつては、申請後、時間をかけて物納の整備を行ったり、売却して金銭納付に切り替えたりすることができたので、ひとまず物納しておくかといった感覚で物納を選択できたのですが、上記の改正によって事実上そのようなことが許されなくなったといえます。
 関門の一つである「金銭納付を困難とする理由書」ですが、この要件も厳しいものになっています。1ヶ月の生活費が10万円で計算されているあたり、かなり切り詰めた生活が前提ということです。この理由書の作り込みが鍵になって来るので、物納の適用を受けたい相続人は、必要以上に現金・預貯金等を相続しないなど、遺産分割の段階から配慮する必要があります。改正後の物納はかなりの専門性が求められます。

 

不動産の売却

 お金ではダメ、延納・物納も使えない・・・そんなときは不動産の売却が一つの選択肢として上がってきます。
 相続財産の不動産を売却して納税資金に充てる場合、所得税の面で有利になる特例が用意されています。不動産を売却した時に発生する所得は、「譲渡所得」ですが、まずはこの譲渡所得の仕組みを理解しましょう。
 譲渡所得の基本的な計算式は以下のようになります。

 

  収入金額 -( 取得費 + 譲渡費用 )- 特別控除 = 譲渡損益

 

 相続や遺贈により取得した財産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡している場合相続税の一部を上記算式の「取得費」に加算することができます。これが言わずと知れた取得費加算の特例です。

 

 

★7月配信以降は、『日税経営情報センター』のみの掲載になります★

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<執筆者>

伊藤 俊一 氏

 

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。
税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。

 

都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 

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