資産税の落とし穴 vol.17

特定の一般社団法人等の理事が死亡した場合の相続税について【後編】

 

 平成30年5月21日発行

 

 特定の一般社団法人等の理事が死亡した場合の相続税について、前回はA論(通達や国税庁のQ&A等)について解説しました。
 今回は、B案について見ていきます。

~B論の解説(B論の説明と先生のご意見、結論)~

B論 平成30年度税制大綱及び所得税法等の一部を改正する法律案の一部抜粋から容易に読み取れる「特定」一般社団法人はずし

 

①「相続開始の時における当該特定一般社団法人等の純資産額をその時における同族理事の数に1を加えた数で除して計算した金額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、」とあるのだから、純資産をマイナスにしておけば実質遺贈に係る相続税は生じない。

 節税目的で一般社団法人へ移動させた財産は通常、相続税回避のための財産であることから含み益をかなりもった財産であることは容易に想像できます。一方でこちらの純資産とは、税法上の通常の考え方から相続税法22条に則り、時価純資産が想定されます。すなわち資産は含み益込みの時価純資産で計上され、それにぶつける経費をねん出しなければ純資産はマイナスにならないことになります。
 ここで容易に思いつくのは理事報酬(役員報酬、役員退職金含む定期同額給与等、税務上の取扱いも全く同じ)ということになりますが、かなりの役員報酬をつまなければならないというのは想像に難くありません。役員報酬を計上し、またそれが多額であれば、勤務実態の問題も生じます。また過大性の問題も生じてきます。
 ②の話にもつながりますが、例えば理事を「同族役員」「顧問税理士」「友人・知人」として特定を回避できたとして、役員報酬に関しては「同族役員」のみ多く計上するというのは不自然極まりないことではありませんか。現実論として他の2人の役員報酬を手厚くするということは考えにくいので。

②「① 相続開始の直前における同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超えること。」とあるから、理事数を増やしておけば問題ない。

 問題点はいくつかあります。1つ目はデットロックです。「同族役員」「顧問税理士」「友人・知人」が特定はずしのための最小の人数設計になりますが、これが今後20年から30年あとまで引き続き円滑に運営させていくだろうか、という問題があります。中小企業においてはまず無理であるというのは先生方もご実感されるところだと思います。
 代表的な問題点をいくつか列挙した上でその先の解決策を考慮しなくてはなりません。いくつか手法はありますが代表的な手法をあげますと、

 

・事業譲渡・・・法人を設立、一般社団法人の財産を売却
  ⇒売却益に法人税課税がかかるため現実的ではない
・現物出資・・・法人に一般社団法人の財産を現物趣旨
  ⇒非適格現物出資に該当、均等割の負担激増、現実的ではない
・寄附・・・一般社団法人はグループ法人税制の対象外(持分がないから)
  ⇒法人税課税、現実的ではない。

 

となります。
 そこで下記の案を中長期的視野にたって実行します。

 

・一般社団法人の解散 ⇒ 持株会社方式又は新事業承継税制にのせる

 

 これが抜本的な解決策になります。
 ただし、どちらを選択するかによって解散時の残余財産の分配方法が全く変わってきますのでご留意ください。

 

・一般社団法人⇒持株会社スキームのとき
 残余財産の分配、特に自社株は社員総会の決議によってなるべく後継者に移転させます。課税関係は一時所得となります。
・一般社団法人⇒新事業承継税制のとき
 残余財産の分配、自社株のみならず他の財産もいったん現オーナーに分配させます。次に他の財産も(遺留分等を考慮した上で)法人に入れます。そこでその株式を新事業承継税制のラインに走らせます。

 

 以上、詳細まで解説できないところも多々ありましたが、少なくとも上述のような小手先の解決方法は長期的視野にたったとき私は通用しないものと考えます。

 

 

★7月配信以降は、『日税経営情報センター』のみの掲載になります★

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<執筆者>

伊藤 俊一 氏

 

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。
税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。

 

都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 

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