資産税の落とし穴 vol.16

特定の一般社団法人等の理事が死亡した場合の相続税について【前編】

 

 平成30年4月20日発行

 

 特定の一般社団法人等の理事が死亡した場合の相続税について、次のような議論があります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

A論(通達や国税庁のQ&A等)

 一般社団法人等(公益社団法人その他の一定のものを除く。)の理事である者(当該一般社団法人等の理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む。)が死亡した場合において、当該一般社団法人等が特定一般社団法人等(次に掲げる要件のいずれかを満たす一般社団法人等をいう。以下同じ。)に該当するときは、当該特定一般社団法人等が、その死亡した者(以下「被相続人」という。)の相続開始の時における当該特定一般社団法人等の純資産額をその時における同族理事の数に1を加えた数で除して計算した金額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、当該特定一般社団法人等に相続税を課する。

 

①相続開始の直前における同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超えること。
②相続開始前5年以内において、同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。

B論(先生のご意見)

(1) 「相続開始の時における当該特定一般社団法人等の純資産額をその時における同族理事の数に1を加えた数で除して計算した金額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、」とあるのだから、純資産をマイナスにしておけば実質遺贈に係る相続税は生じない。

(2) 「①相続開始の直前における同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超えること。」とあるから、理事数を増やしておけば問題ない。

 

このような小手先の解決方法は長期的視野にたったとき通用するものか。私は通用しないものと考えます。

~A論の解説~

A論 第196回国会における財務省関連法律における平成30年2月2日に国会に提出された所得税法等の一部を改正する法律案の一部抜粋

 

 A論の基となる資料は表題の通りですが、平成30年度税制改正大綱と微妙に変わっているところがあるので留意が必要です。法案中の「相続開始の時における当該特定一般社団法人等の純資産額をその時における同族理事の数に1を加えた数で除して計算した金額に相当する金額を」にあるように理事数にプラス1をするという点です。また社員要件及び監事要件については相変わらず何も触れられていません。
 A論に関しては現段階でも非常に非難が多いところです。詳細はB論でお話しますが、あまりに緊急的に立案したので一般社団法人スキームの全体像等々に関して当局の情報収集が追いつかなかったことが原因だと思われます。
 また、今回の改正は「本当に開かれた組織体」で構成される(中でも)「非営利型」の一般社団法人は救済していきましょうという趣旨が垣間見えます。ところが、本当にそうであっても理事要件で「たまたま」特定に該当してしまう法人も少なくないと思われます。そういった法人との線引きをどのようにしていくかも法案が薄くなった原因でしょう。
 今後、節税目的のみで一般社団法人スキームを策定した場合には、未だ先例はありませんがオーナー株式の無理な株式の分散をしたという事実認定からの総則6項の発動可能性は十分にあり得るところです。
 再度の改正で立法で封じ込めるか、現場の調査段階で上述の総則6項を発動させるかは判断に悩むところですが、おそらく再度の改正が入るものだと思っています。理由はB論の手法が横行するからと現時点では容易に想定できるからです。

 

 次回はB論について見ていきます。

 

 

<執筆者>

伊藤 俊一 氏

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。
税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。

 

都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 


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