資産税の落とし穴 vol.12

税務調査の素朴な疑問(1)~調査官の事情~

 

 平成29年12月20日発行

 

(1)国税通則法の改正によって調査の現場はどう変化したか~当局内部の事情とともに、時系列でご説明~

 平成23年度税制改正において、国税通則法が改正され、調査手続について従来の運用上の取扱いが法令上明確化され、平成25年1月から施行されています。
 各税務調査官が処理すべき調査件数は、年間の稼働日数から決定されます。別に罰則や賞与に特段の影響はないとはいわれますが、彼らの意識の中で「これだけの件数をこなさなくては」という気持ちが強いようです。調査の結果と1件当たりの事案に係る調査日数と増減差額(増差額)を上司に報告します。他のお手柄項目として「重加算税対象額」や「資料の収集」があります。重加算税とは悪質な納税額のごまかしに課されるペナルティで、これをたくさん課した調査官は優秀だとみなされます。一方、資料の取集は、例えばA社の資料を収集した上で取引先であるB社、C社とのやりとりの資料を収集し、それをB社、C社の調査に役立たせるわけです。
 調査官の業務の区切りは毎年7月の人事異動からスタートで12月で仮締め、3月が本締めとなります。国税庁、国税局、税務署に勤務する職員の約半分が入れ替わります(職員の同一ポストにおける任期は平均2~3年)。つまり7月から3月までが調査官の最も緊張が走っているときなのです。かつては、お盆休みが過ぎてから調査先の選定、準備調査と進み、実地調査は8月下旬ぐらいがスタートのイメージでした。今は上述の人事異動が済んだのも束の間、税務調査が本格化します。一人当たりが担当する調査件数も決まっているだろうから、早く着手するにこしたことはないのです。実地調査は改正後も変わらず2~3日ですが、調査終了の連絡が届くまでに、かなりの時間がかかっています。課税当局内部では、資料の整理などにかなりの時間が取られるからです。証拠主義となり、決まった資料としっかりとした調査内容が整理されていないと上長から了承が得られないので仕方のないことかもしれません。調査官の本音として、調査を早く終わらせたいのなら、調査官が疑問に思っている部分の資料を納税者側がすべて用意しておき、どんどん提供していくことだと言います。税務調査対応も、「受身」ではなく、先読みによる「先手」が重要と言うわけです。調査官も大変ですね。

 さて、年末に近づき、最盛期の税務調査シーズンはほぼ終盤にさしかかります。お正月前には、税務調査を終わらせたいというのが税務職員の考えているところで、そもそも長期調査を念頭に進めていなければ、何とか年内に決着をつけるようです。「お正月をゆっくり過ごしたいから・・・」という理由ではなく、年明けの課税当局の一大行事、全職員上げての対応が不可欠な確定申告に備えるためです。
 確定申告シーズンが終われば、税務署職員の関心事は一気に人事になります。いよいよ6月に近づくと、調査官は6月末までに何とか事案をまとめたいのが本音です。国税当局の人事異動は7月10日。手をつけた調査は自分で終わらせ、「引き継ぎは避けたい」と誰もが思っています。ゴタゴタした調査案件を引き継いでも、実績は上げにくいので、「迷惑をかけないで終わらせる」というのが、調査官同士の暗黙の了解のようです。もし、引き継がせてしまったら、それはそれで仲間内の評価は下がり、今後、仕事がやりにくくなってくるからです。

 

 

<執筆者>

伊藤 俊一 氏

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。
税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。

 

都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 


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