富裕層コンサルプロフェッショナルへの道 vol.16

小規模宅地等の特例「家なき子」「貸付事業用宅地」

 

 平成30年4月10日発行

 

「家なき子」

 平成30年度税制改正より、小規模宅地等の特例のうち、「家なき子」について詳しく見ていきたいと思います。この特例は、居住用の宅地の評価額が、330㎡まで80%の評価減が適用されるという、大きな評価減につながる特例です。相続発生時に、取得者が配偶者の場合、要件はありませんが、配偶者以外の人が取得する場合、いくつか要件があります。同居親族の場合は、申告期限までにそこに住み続け、かつ申告期限までその宅地を所有していることが要件です。そして、今回改正の対象となった、通称「家なき子」といわれる別居親族に対しても要件があります。改正前までは、次の要件がありました。

 

1.被相続人に配偶者がいないこと、また、被相続人と同居していた法定相続人がいないこと
2.相続開始前3年以内に、日本国内にある自身の家屋や配偶者の所有する家屋に居住していないこと
3.申告期限まで、その宅地を所有していること

 

 そして今回、改正されたのは、上記2の部分です。
 相続開始前3年以内に、被相続人の3親等内の親族または、同族会社の所有する家屋に居住したことがある者は、当該規定の適用範囲から除かれます。また、相続開始時において居住していた家屋を、過去に所有していた者も適用できないこととなりました。
これは、本来の家なき子の趣旨から逸脱して、過度な節税対策として利用してきたのを防ぐための改正です。たとえば、1人暮らしの親の土地建物を相続する際、すでに自己の家を持っている場合には、小規模宅地等の特例は適用できません。そこで、家なき子を適用するため、意図的に自己の家を親族に貸し、自分は他の場所に賃貸して住むことにより、適用を受けた後に、自己の家に戻ってきたりすることもあります。また、自己の家を親族に贈与や譲渡をして、自分はそのまま賃貸でそこに住み続けたり、というようなケースもあります。形式的に「家なき子」要件を充足するために、一族で経営する法人へ自宅を売却し、社宅住まいとなり、家なき子状態を創り出すスキームもあります。
 このような状態をつくることで、宅地が80%評価減できれば、相続税の負担も相当少なくなります。今回の改正によって、家なき子に該当しなくなってしまった方は、再度相続税の試算や、別途の対策を考えなければいけないでしょう。

「貸付事業用宅地」

 次に小規模宅地等の特例のうち、「貸付事業用宅地」の改正について、見ていきます。
 この特例は、貸付事業用宅地の相続税評価額について、通常の評価をした後、200㎡まで50%の評価減が適用できる、というものです。今回の改正では、被相続人が亡くなる前3年以内に、貸付を開始した宅地等の場合には、小規模宅地等の特例の適用が、受けられなくなりました。改正前までは、相続発生時の現況により、評価減の適用を受けることができました。改正にあるような、貸付事業を開始した時期の要件はありませんでした。
 相続直前に賃貸物件(特にタワーマンション)を購入して、相続税を極端に圧縮するような節税対策を封じる、ということです。
 ただし、必ずしも、特例が適用できなくなるとは限りません。相続開始前3年以内に貸付を開始した宅地等であっても、事業的規模で賃貸業を行っている場合には、今までどおり、特例が受けられます。この事業的規模というのは、青色申告の65万円控除を適用しているということです。いわゆる5棟10室基準等を満たした場合に、事業的規模となり、65万円控除も受けられるのです。
 したがって、被相続人や生計一親族が行っていた不動産賃貸業が、事業的規模でない場合には、今回の改正の影響を受けることになります。税制改正によって、1年前までは税法上問題ない(当然グレーも含みます)とされていたスキームが突然防止されてしまうことがあります。今回の小規模宅地等の特例もその典型例でしょう。相続税は、相続の発生がいつ生じるのか誰にもわかりませんから、その時の税制がどのようなものかも当然不明です。多くの節税スキームが、税制改正でその都度防止されてきました。
 節税にばかり目を向けて、経済合理性のない取引はやめておいた方がいいのだと考えさせられた税制改正大綱でした。

 

 

 

<執筆者>

 

伊藤 俊一 氏

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。
税理士試験5科目合格。一橋大学大学院修士。

 

都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験。現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 


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