富裕層コンサルプロフェッショナルへの道 vol.1

 

I 資産家の分類とその対策

 

 平成29年1月10日発行

 

1.資産家の3つのタイプとその特徴

(1)資産家の分類

 富裕層コンサルティングを実行するにわたって、資産家を分類することが肝要となります。資産家について保有する資産のタイプで区分すると、金融資産家、企業オーナー系、地主系の3つのタイプに大別できます。

①金融資産家・・・総資産のほとんどが金融資産(現預金・金融資産等)

②企業オーナー系・・・総資産のほとんどが非上場株式(自社株式)

③地主系・・・総資産のほとんどが不動産(土地・建物等)

 資産承継対策コンサルティングを実行する前提として、これら3区分を意識して考えましょう。

 

(2)金融資産家とは?

 金融資産家とは、事業売却により株式を多額の現金に転化した方、医師、弁護士、投資銀行行員などのいわゆる高収入サラリーマン、代々の資産家など、資産のほとんどを現預金などの金融資産(上場株式・債券・投資信託等)として保有する方をいいます。

 相続財産に占める金融資産の構成比率は公表されています。金融資産(現金・預貯金等や有価証券の合計)の割合について、平成23年を例にとると37.2%と過去最高の水準になっております。これはバブル崩壊後の長期にわたる地価の下落により不動産よりも金融資産を選好する傾向が強くなったということが主原因です。地価が上昇することにより、保有する土地を売却し、金融資産として運用する資産家が増加していることを表現しています。

 株価と地価の上昇は、企業のオーナー経営者だけではなく、一般の会社員にまで富裕層の仲間入りをさせたことになります。今後、さらに相続の増加によって土地や非上場株式が売却され、金融資産に転換されていくことでしょう。また、昨今の株式相場上昇傾向を考慮すると、資産家が金融資産を選択する傾向は、今後数年間は続くはずです。

 資産承継の観点からすると、金融資産は1円単位で分割可能ですから、遺産分割の問題が生じることはほとんど考えられません。また、相続した金融資産を相続税の納税原資とすればよいため、納税資金の問題も発生するとは考えにくいです。しかしながら、金融資産の相続税評価額は、市場価額と一致するため、同じ価値をもつ他の資産と比較して最も相続税負担は大きくなります。

 以上を踏まえて、金融資産家の資産承継では相続対策が一番の課題であることは言うまでもないことでしょう。この点、生前贈与対策により相続財産を極力減少させておくことが大事です。被相続人からの「相続税限界税率」と「贈与税限界税率」を比較して、生前から計画的に暦年贈与(基礎控除額110万円)を行っておくべきです。

 不動産投資による評価額の引き下げもポイントになります。金融資産は相続発生時の市場価額でそのまま課税されることになります。したがって、相続税評価額が低い不動産への組換えを検討することも肝要です。不動産投資には特有のリスクがあります。価値下落のリスク、売りたい時に売れない流動性のリスク、地震など自然災害で倒壊してしまう恐れがあるリスク等々、金融資産から転換する場合には、十分検討すべきです。

 

(3)企業オーナー系とは?

 上場企業オーナーやその創業家一族、非上場オーナー経営者、大病院の経営者などが想定されます。一般的に高所得の職業といえば、開業医、弁護士、大企業の役員などが挙げられます。これらの方々の高所得はフローの収入が大半を占めます。この高所得が長期間継続すれば、超富裕層になることが可能かもしれませんが、個人の労働時間や働く時間には限界がありますので、フロー収入のみで超富裕層のレベルに到達することはかなり困難です。企業オーナー系の富裕層とは、労働以外で、フロー収入を生み出すことができる株式というストックの価値上昇により資産を増加させた方を想定しています。これらの方々の資産承継を考える際には、自社株式の取扱いの問題が最大の課題になるといえるでしょう。

 自社株式には「経営権」と「財産権」という経営の根幹にかかわるものであり、その取扱いに関しては慎重な検討が求められることになります。企業オーナーは「経営権」の承継については敏感です。しかし「財産権」の承継対策については知識として乏しいのか、抜本的な対策を施さない傾向にあります。経営権を確保する十分な株式を後継者に承継させることが必要となりますが、会社の支配権を明確化させるためには、後継者には最低限、自社株式の過半数(できれば特別決議の決議要件である3分の2)を保有させる必要があります。しかし、後継者だけに自社株式を承継させるとすれば、遺留分の問題が必ず生じます。これは大変重要な問題になりますので、実際のコンサルティングでは十分に留意すべき事項となります。

 

 次回、この続きをお話します。

 

 

 

<執筆者>

伊藤 俊一 氏

 

税理士/伊藤俊一税理士事務所 代表税理士
1978年(昭和53年)愛知県生まれ。

 

勤務時代、都内コンサルティング会社にて某メガバンク案件に係る事業再生、事業承継、資本政策、相続税等のあらゆる税分野のコンサルティングを経験。特に、事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングは勤務時代から通算すると数百件のスキーム立案実行を経験しており、豊富な経験と実績を有する。

現在、厚生労働省ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験委員。
現在、一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程(専攻:租税法)在学中。信託法学会所属。

 

 

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