日税FPメルマガ通信 第406号

 

Ⅰ. 3月の金融政策決定会合でマイナス金利を解除
 「金利は経済の体温計」


1.日銀は3月18日から19日の金融政策決定会合で、大規模金融緩和策の解除を決定

マイナス金利を解除し17年ぶりに利上げを実施した。政策金利には無担保コールレートを0-0.1%で設定した。ETF及びJ-REITなどのリスク性資産の新規買い入れの終了も決定した。欧州中央銀行(ECB)やスイス国立銀行も導入したが、2022年までに解除し、主要中央銀行では日銀だけとなっていた。
市場金利の低下に伴う銀行の収益圧迫に加え、年金基金や生命保険会社の運用難などの「副作用」も指摘されていた。

2016年1月から8年間続いた異例の大規模金融緩和政策に終止符が打たれた。一方で、国債の買い入れは継続し「これまでと概ね同程度の金額」を行うとした。
今回の会合は金融政策正常化に向けての大きな歴史的転換点となり、日銀は今後の新たな政策の枠組みを模索していくことになる。

2.追加の利上げを急がない

「植田総裁は、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」とも述べ、追加の利上げを急がない考えも示唆した。
賃金と物価の好循環の強まりが確認され、物価安定目標の実現が見通せる状況に至ったと今回の決定の背景が示された。今回の会合は金融政策正常化に向けての大きな歴史的転換点となり、日銀は今後新たな政策の枠組みを模索していくことになる。



2007年2月の利上げを最後に一貫して緩和を続けてきた日銀の金融政策は正常化へ一歩、踏み出すことになる。なお、サプライズの多かった黒田前日銀総裁に比べ、植田日銀総裁は事前に地ならしを進め、市場に混乱が起こらない状態で政策修正にこぎつけている。

マイナス0.1%だった政策金利は0~0.1%に引き上げた。

植田総裁は会見で、賃金と物価の好循環が確認できたことで「2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した」と説明された。「大規模な金融緩和政策はその役割を果たした」とも指摘した。
今回の政策変更を受けて「預金金利や貸出金利が大幅に上昇するとはみていない」との認識を表明。今後の利上げペースに関して、「手元にある見通しを前提にすると、急激な上昇というのは避けられるとみている」と話した。

今後、「物価見通しがはっきり上振れる、もしくは中心見通しははっきり動かないまでも上振れリスクが高まる」ときに利上げを検討することになるとの見通しを示した。
連合が3月15日に発表した2024年の春季労使交渉の第1回集計結果では、基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率が平均5.28%となり、1991年以来33年ぶりに5%を超えた。
植田総裁は「実際の判断の大きな材料にした」と明かし、企業の賃上げが政策変更を決める決定打になったと説明した。
マイナス金利を解除した日銀が追加利上げを急がないため、当面は日米金利差が縮まりにくいとの見立てから円売り圧力が続いた。
日銀の政策転換や円安が日本株相場に与える影響も見方が交錯し、世界の金融市場に余波が広がっている。
植田総裁は、インフレの想定以上の上振れリスクが高まらない限り、追加利上げは急がないという考えをにじませた。


3.米国の政策金利

(1)3月19日と20日のFOMC
政策金利を5会合連続となる5.25-5.5%で据え置いた。
2024年の利下げ回数の予想(3回)に変更がなく市場に安心感が広がった。
経済成長率見通しの上方修正やパウエルFRB議長の会見ではQT(量的引き締め)のペースの減速が示唆され、株式市場にとっては良好な環境といえよう。バリュエーション面からは割高感が指摘されているものの、強弱感が対立するなかで底堅い展開が想定される。
米国株市場はFOMC後の会見で米景気の強さに言及したパウエル議長同様、ソフトランディングへの自信を再確認しているといえる。


(2)ハト派的な結果となったFOMCを受けて、投資家心理が改善
主要経済指標については、概ね景気の底堅さを示す内容になるとみられ、相場の支援材料となろう。好業績の半導体関連株や中小型株などは明るい見通しである。


Ⅱ. 日本の国内総生産(GDP)改定値


1.内閣府が3月11日に国内総生産(GDP)改定値を発表

2023年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.1%増、年率換算で0.4%増だった。それぞれ0.1%減、0.4%減だった速報値を上方修正し、プラス成長となった。企業の設備投資が大きく上振れした。

実質GDPの民間予測の中心値は前期比0.3%増、年率で1.1%増だった。プラス成長は23年4~6月期以来、2四半期ぶりとなる。
成長率への年率の寄与度は内需がマイナス0.2ポイント、外需がプラス0.6ポイントだった。速報値はそれぞれマイナス1.1ポイント、プラス0.7ポイントで内需の押し下げ幅が縮まり、全体を押し上げた。


2.設備投資の上振れがプラス成長への転換をけん引する

速報値の前期比0.1%減から2.0%増に上方修正した。3四半期ぶりのプラスとなる。
2023年10~12月期の法人企業統計では、金融・保険業を除く設備投資がソフトウェア込みで季節調整後に前期比で10.4%伸びた。自動車や半導体関連の生産体制強化や非製造業のソフトウェア投資が押し上げた。
GDPの過半を占める個人消費は、速報値の前期比0.2%減から0.3%減に引き下げた。エアコンや水産関連の加工食品が下押しし、3四半期連続でマイナスのままだった。
暖冬で冬物衣料も振るわず、新型コロナウイルス禍からの経済回復の一服で外食も伸び悩んだ。

品目別に見ると、家電などの耐久財は速報値の前期比6.4%増から6.1%増に伸びを縮めた。食料品などの非耐久財は0.3%減から0.5%減に下げ幅が広がった。
住宅投資は、前期比1.0%減であって、速報値から横ばいだった。
公共投資は前期比0.8%減だった。建設総合統計の結果などを反映し、速報値の0.7%減からマイナス幅が拡大した。政府最終消費支出も前期比0.2%減と速報値の0.1%減から引き下げた。
なお、輸出は前期比で2.6%増、輸入は1.7%増でいずれも横ばいだった。


Ⅲ. 3月27日 円安、90年以来の水準 一時151円97銭
  日銀の緩和維持観測で


1.1990年7月以来およそ34年ぶりの円安・ドル高水準に

2022年10月に付けた151円94銭を超えて円安・ドル高が進んだ。日銀が3月19日にマイナス金利の解除を決定した一方、早期の追加利上げ観測が後退した。円売りに安心感が強まり、幅広い通貨に対して円安が進んでいる。


2.日本銀行の田村直樹審議委員は3月27日の講演で

「ゆっくりと、しかし着実に金融政策の正常化を進め、異例の大規模金融緩和を上手に手じまいしていくために、これからの金融政策の手綱さばきは極めて重要だ」と発言された。日銀内でも金融引き締めに積極的な「タカ派」とみられていた田村氏が、想定よりも慎重な姿勢を示したとの見方から、円売り・ドル買いが膨らんだ。
鈴木俊一財務相が「行きすぎた動きにはあらゆる手段を排除せず断固たる措置をとる」と言及したと伝わった。2022年の円買い介入の際にも「断固たる措置」という言葉を用いており、政府・日銀が円安を抑えるための円買い・ドル売り介入に踏み切る確率が上がったとの見方が広がった。


3.3月19日に日銀がマイナス金利解除を発表する前は円相場は1ドル=149円台前半

2022年1月は115円台であった。なお、3月20日には米連邦準備理事会(FRB)が政策金利の据え置きを決定した。


Ⅳ. 消費者物価2月2.8%上昇 食料・宿泊高く


1.総務省が3月22日発表した2月の消費者物価指数

変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が106.5となり、前年同月比で2.8%上昇した。伸び率は4カ月ぶりに拡大した。
政府の電気・ガス代の抑制策が開始から1年がたち、統計上は前年比の物価上昇率を下げる効果が薄まった。日銀がマイナス金利解除に踏み切り今後の利上げのタイミングが注目される中、物価と賃金の好循環が生じる環境が整うかが今後の焦点である。
前年同月比では、30カ月続けての物価上昇となる。23カ月連続で日銀の物価安定目標の2%以上で推移する。


2.生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は3.2%上がった

伸び幅は6カ月連続で縮んだが、生鮮食品を除く食料は高い水準で推移している。
生鮮食品を含む総合指数は2.8%上昇した。
品目別にみると電気代は前年同月比2.5%低下し、下落幅は1月の21.0%から大きく縮んだ。都市ガス代も13.8%マイナスで、1月(22.8%低下)から下げ幅が縮小した。


3.2023年2月から政府の電気・ガス代の抑制策を反映

1年がたって前年と比べた押し下げ効果が薄まった。足元でも政府の抑制策は続いており、総務省によると生鮮食品を除いた総合指数の伸びを0.5ポイント程度抑えた。


4.インバウンド需要の回復が続き、宿泊料は33.3%の伸び

上昇幅は1月の26.9%から拡大した。2024年2月は3連休が2回あったことが影響した。中国の春節(旧正月)もあり、インバウンド(訪日外国人)需要も拡大した。
全体をモノとサービスに分けると、サービスは2.2%伸びた。上昇率は8カ月連続で2%以上だった。宿泊料に加え、一般サービスの外食が3.5%上昇と高い伸び率で推移する。


5.生鮮食品を除く食料は5.3%も上がる

伸びは2024年1月の5.9%から縮んだが、まだ高い上昇率が続く。原材料価格の高騰などを反映して2023年に値上げがあった外食のフライドチキンが19.2%上がった。また、飼料価格の上昇に加え物流コストが高まったことで牛乳は9.3%上がった。


Ⅴ. 70歳以降も働く、最多39% 将来不安「経済」が7割


1.日本経済新聞社:2023年10〜11月に郵送で世論調査をする

働き方・社会保障に関する質問で何歳まで働くつもりか尋ねたところ、70歳以上の回答が39%で、2018年の調査開始以来最も高かった。将来不安に感じることは7割が「生活資金など経済面」をあげた。

2.何歳まで働くかについて

「70〜74歳」が21%、「75歳以上」が18%である。「75歳以上」に限っても2018年調査よりも5ポイント高く、調査を始めてから最高を記録した。
「60〜64歳」は11%、「65〜69歳」は27%だった。何歳まで働くつもりかの平均値は18年(66.6歳)から1.8歳上がり68.4歳となった。


3.自分の将来のどのようなことに不安を感じるか

複数回答で聞き、「生活資金など経済面」が最多で70%に上った。2018年から2022年の調査は「健康」がトップで、入れ替わった。仕事を継続する選択にいたる背景の一つとみられる。

将来の生活に必要なお金の問題に備えてどのような取り組みをしているかも複数回答で質問した。1位は「預貯金」で61%、「保険、個人年金への加入」33%、「投資信託や株式などリスク資産への投資」22%が続いた。


4.企業は定年の廃止や定年の年齢引き上げを進める。

政府は高齢者雇用の後押しをする。70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法を2021年に施行した。
厚生労働省の2023年調査によると、定年制を廃止したり定年を65歳以上に設定したりする企業の比率は30.8%を占めた。2022年の調査に比べて1.4ポイント伸びた。シニアの就労状況はいっそう改善する見込みだ。
経済協力開発機構(OECD)は2024年1月に日本企業の定年制廃止を提言した。日本の出生率が足元の水準に近い1.3のままでは、就業者数が2100年に現状から半減する(人手不足)との推計を示した。


Ⅵ. チャート(日米の株価と為替)2024年3月27日時点
   出所:ブルームバーグ社


1.米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)
 (5年間)年初来の騰落率 5.6%上昇



2.アメリカドル(5年間)



3.日経平均株価(5年間)
 年初来の騰落率  22.2%上昇



以上




<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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