日税FPメルマガ通信 第404号

Ⅰ. 日経平均株価が2月22日、約34年ぶりに最高値を更新


海外勢が日本の企業を再評価する(海外投資家の取引が約70%)


1.バブル時の1989年末に付けた当時の38,915円を上回った

日経平均は2月22日に、バブル時の1989年末に付けた終値での史上最高値である38,915円を上回った。米国の半導体大手エヌビディアの好決算が追い風となり、日経平均寄与度の高い東京エレクトロンやアドバンテストなど、半導体関連株が押し上げ役となっている。振り返ると東京エレクトロンとアドバンテストが日経平均に採用されたのは 2000年4月である。当時は日経平均採用銘柄のうち、30銘柄の大幅な入れ替えが実施された。つまり、現在の日経平均株価は「見た目」こそバブル時と同水準だが、「中身」は大きく変化している。

バブル崩壊後、多額の借り入れで株式や不動産などに投資していた企業は窮地に陥り、銀行は不良債権処理に追われた。企業は設備投資や人件費を削り、採算を改善しようとした。

今回は、生成AI(人工知能)への期待が半導体関連にマネーを呼び込んだ。株高の底流には日本企業が守りから攻めの経営に転じ、海外投資家が評価する動きがある。株高の恩恵は家計に行き渡らず、賃上げを起点とした好循環実現に課題が残る。


2.株価上昇の主な要因

(1)良好な企業業績への評価:経常利益が34年前は38兆円⇒95兆円と約2.5倍に

(2)東証改革による資本効率の改善

東京証券取引所は、2022年に市場区分を再編し、2023年春にはROEが低くPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を求めた。
海外投資家の間では、こうした取り組みで日本企業の経営改革の動きが勢いを取り戻すとの期待が広がった。東証の要請は、PBR1倍割れ企業に財務の改善や上場廃止の検討を迫り、企業活動の活発化を通じて株高に大きく貢献した。


(3)円安基調も追い風となった。主力株が牽
    引する形で、日経平均株価は再び上値を
    試す場面もありそうだ。一方、日米の主
    要企業の決算発表シーズンが一巡し、投
    資家の関心は再びマクロ経済の動向へと
    向かう見通しである。

(4)2024年1月に始まった
    「新しいNISA制度」
    :個人マネーの流入を後押しした

(5)2023年に30年ぶりの賃上げ


3.年初から、海外投資家の資金流入が相場上昇を後押ししている。

特に、中国からの資金シフトによる影響が大きい。中国の不動産市況が低迷し景気悪化懸念があるほか、米国の大統領選挙でトランプ氏が優勢との見方が強く、米中分断が一段と進む懸念が強まっている。

中国要因以外でも円資産の割安感や日本の企業統治改革の進展を海外投資家は評価している模様で、日本株買いにつながっている。


4.今後のポイント:企業の賃上げ動向に関心が移る

足元では、東証プライム市場の売買代金も高水準を維持しているほか、 指数が伸び悩む場面ではすかさず中小型株に買いが入っており、決算発表一巡で手掛かり材料に乏しい中でも投資家の物色意欲は旺盛である。

こうした中、国内では、2024年春闘の労使交渉がスタートしている。一部の企業で交渉 序盤での満額回答が見られており、他企業への波及が期待できる。今春にかけて連合が目標とする「5%以上の賃上げ」に対する確度が高まれば、日本経済が「デフレ脱却」へ一 段と近づくとの見方から、株式市場にとっても追い風となりそうである。


※実質賃金(物価を考慮)

実質賃金、昨年2.5%減 2年連続減少

厚生労働省が2月6日発表した2023年の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人あたり賃金は物価を考慮した実質で前年比2.5%減った。2年連続で減少した。マイナス幅は1.0%減だった2022年からさらに大きくなった。


実際に支払われた額を示す名目賃金はすべての月で増えたが、実質賃金は減った。
マイナス幅が広がったのは、物価の変動を示す消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)の上昇率が3.8%と42年ぶりの高水準だったことが影響した。

見た目の賃金は伸びている。基本給に残業代やボーナスなどを合わせた、名目賃金を表す現金給与総額は1人あたり平均で1.2%増の32万9859円だった。就業形態別では正社員など一般労働者が43万6849円、パートタイム労働者が10万4570円でいずれも過去最高となった。

基本給を中心とする所定内給与は1.2%増の25万1309円で、リーマン・ショック前の2005年水準まで回復した。伸び率も1996年以来の高さだった。それでも実感にはつながっていない。

2023年の名目賃金の伸び率は2022年の2.0%増から0.8ポイント低下した。新型コロナウイルス流行下での落ち込みの反動で2022年は大きく伸びたが、残業代やボーナスなどの伸びが前年に比べて鈍化したことが要因とみられる。

2023年の春季労使交渉では物価高を背景に30年ぶりの高い賃上げ率となった。一方で、基本給を底上げするベースアップ(ベア)の水準は物価上昇に追いついていない。実質賃金のマイナス幅はその差を示す。政府は2024年の春季交渉で物価上昇を上回る賃上げをめざす。

<ご参考です>

銀行の不良債権の傷痕が鮮明になった90年代前半、日本の政治は迷走した。1993年に自民党が分裂し55年体制が崩壊、野党8党による連立政権が誕生したが、翌年には自民党が政権に返り咲いた。
政治改革は必要だが、同時に人口減少下の成長戦略、財政・社会保障の持続性確保など先送りの許されない課題への政治の対処能力も問われている。
世界も89年以来の大転換期にある。ウクライナ、中東など紛争が相次ぎ、米中対立でグローバル経済はひび割れし、統合から分断の時代に戻りつつある。政府も企業も、株高に慢心せず内外の変化に目をこらし、改革を進めねばならない。

5.為替:徐々にドルの上値が重くなる見通し

FOMC議事要旨(1月30・31日 開催分)では、多くのメンバーが時期尚早な利下げに懸念を表明し、米10年国債利回りは 4.3%台に上昇した。消費者物価指数の伸び率は事前予想を上回っており(3.1%の上昇)、米国でインフレ懸念が強まるリスクには注意が必要だ。

日本の消費者物価指数(1月分、生鮮食品を除くコア)の前年比の上昇率は、日銀のインフレ目標である2%を下回る見通しである。日銀がマイナス金利政策の撤廃を決断する時期は近づいているとみるが、積極的に利上げを進める状況ではないだろう。目先は引き続き日米の金利差がドル高円安要因として意識されそうである。

FOMCの議事要旨では、「時期尚早な利下げのリスク」に対して懸念が示された。2024年年初以降の株式市場では早期の利下げ期待をやや先走って織り込んできた印象があり、当面はその反動に注意が必要となりそうである。

2024年に入り、国際通貨基金(IMF)は2024年の米経済成長率見通しを1.5%から2.1%へ上方修正した様に、足元の米国景気は想定以上の強さをみせている。

今後の経済指標の内容次第では、市場の利下げ期待が一段と後退することになろう。


6.「34年で株価10倍」142社 ゼンショー・ニトなど創業者系が上位:市場が後押し

日経平均株価が2月22日、約34年ぶりに最高値を更新した。日本株には長期低迷のイメージがつきまとってきたが、この間に株価を10倍以上に伸ばした企業も142社あった。強い成長意欲を持った創業経営者たちを海外投資家が支えた。これまで足を引っ張ってきた大企業にも変革の機運がある。新陳代謝の進展が株高の持続力を左右する。

バブル崩壊後、不良債権など負の遺産の処理に追われた。一方、しがらみのない新興企業が創業者の強力なリーダーシップで業界秩序を突き崩し、高い成長をなし遂げている。


例えば、牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーホールディングスは、小川賢太郎会長兼社長が1982年に創業し、1997年に株式を店頭登録(2年後に旧東証2部上場)した。1997年末の株価は、株式分割などを考慮した実質ベースで約27円である。そこから足元までで236倍になった。外食業界で初めて時価総額が1兆円を超えた。

ゼンショーは食材調達から製造、物流を自社でシステム化し、コストを抑える独自の仕組みを構築した。1つのシステムに牛丼やファミリーレストラン、回転ずしといった様々な業態を乗せ、スケールメリットを効かせている。人口減を見越して、国外でM&A(合併・買収)に乗りだし、海外1万店を達成した。

1989年に札幌証券取引所に上場したニトリホールディングス(76倍に)、1994年に広島証券取引所に株式を公開したファーストリテイリング(112倍に)も大きく伸ばした。株価を10倍以上にした142社をみると、日本経済がインフレからデフレへの転換後に急成長した企業が目立つ。徹底的な仕組み化とコスト競争力は、インフレ時代の再来でも強みとなっている。

Ⅱ. 米国経済


1.米国の株式市場

2月22日の米株式市場でダウ平均は前日比1.2%高の3万9069ドルで終えた。7営業日ぶりに史上最高値を更新した。エヌビディアが前日の取引時間終了後に発表した2023年11月~24年1月期決算が好調で投資家心理が改善した。

ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数も一時、2021年11月に付けた史上最高値を上回った。

注目されたエヌビディアは16%上昇した。時価総額は約1兆9400億ドル(約290兆円)と、2月21日から1日間で2770億ドルも増加した。

米国のメディアによると、1日の時価総額の増加額として過去最大という。前日発表の決算や業績見通しが市場想定を上回り、生成AI(人工知能)関連投資の勢いや広がりを裏付けた。

AI関連銘柄の業績成長への期待が改めて高まり、ハイテク全般を買い直す動きが強まった。セールスフォースやIBM、マイクロソフトなどの値上がりが目立った。

主要な半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)は5%上昇した。

2.米国の政策金利

1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録が公表されたものの、利下げに関する新たな手掛かりに乏しかった。

要人発言では米連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事が1月の消費者物価(CPI)の結果を受けて、さらにあと2カ月間の物価統計を確認する必要があると発言した。

つまり、米国では今利下げを急ぐ必要はないとしている。市場では1月CPIの結果を受けて3月利下げの予想はほぼ払拭され、6月の利下げが意識される展開となっているものの、景気の過熱感が高まりインフレが高止まり(現在は)するとの見方が台頭すれば、利下げ開始が更に後ズレする可能性もある。


Ⅲ. チャート(日米の株価と為替)2024年2月28日時点
   出所:ブルームバーグ


1.米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)
   (5年間) 年初来の騰落率 1.0%上昇



2.アメリカドル(5年間)



3.日経平均株価(5年間) 
   年初来の騰落率 6.8%上昇


以上




<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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