日税FPメルマガ通信 第402号

 

Ⅰ. 2024年の先進国の政策金利の見通し

1.予想:2024年の米国政策金利は引き下げか

現在の米国の政策金利 5.25%から5.50% ⇒ 2024年末4.25%から4.50%の予想


2.大幅な米利下げを否定するFRBの当局者発言

堅調な米景気指標を受けて、市場の米利下げ期待が後退している。
具体的には、1月16日にウォラー米FRB理事は政策金利について、「秩序だって慎重に引き下げることが必要」と発言した。その背景には、1月17日公表の2023年12月の米国の小売売上高(個人消費)は、前月比で+0.6%へ加速した。米景気が堅調な一方で、中国の景気は軟調という構図は続いていることがある。


3.1月17日 公表の中国の実質GDP(10-12月)や小売売上高(12月)の伸び

市場予想を下回り、住宅不況という背景によって同国の景気が下押しされていることが確認された。


4.日欧の金融政策や2024年11月の米大統領選挙動向に注目

1月22-23日の日銀政策会合は政策金利(-0.10%)を維持した。2024年4月の会合でのマイナス金利が解除されるのか植田総裁の今後の発言に注目が必要である。
なお、欧州では1月25日のECB理事会で政策金利(4.50%)を据え置きした。


Ⅱ. 新しいNISA、円安要因に 海外株へ投資拡大、円売り2兆円増

1.2024年に入り、外国為替市場で円安が進む

そのひとつの要因として挙げられているのが、投資枠が増えた新たな少額投資非課税制度(NISA)である。

世界の株式や米国の株式などへの投資が増えて、2兆円規模(1年間で)で円売りが増えるとの見方がある。個人の海外志向が2024年の円高進行の程度を抑える可能性が出てきた。

投資信託の購入が増加して、信託銀行経由での円売り・ドル買いが目立ち始めている。新しいNISAに絡んだ外貨の需要が出ている。

2.2024年の年明け以降、円は独歩安ともいえる状態

2023年末から1月10日までに対ドルでは3.3%下落した。先進国通貨の中で下落率は突出している。1ドル=145円台と昨年末より4~5円の円安・ドル高水準で推移する。

また、1月1日の能登半島地震を受け、日銀のマイナス金利解除の時期が後にずれ込むとの観測がひとつの要因である。

もうひとつの要因が、新しいNISAによる投資の増加である。例えば、米国株への投資が増えれば、円をドルに替える動きが膨らむ。


3.新しいNISAによって年間1兆~1.8兆円の追加的な外貨需要が発生

その多くがドル資産である。外貨建て資産の購入割合が上振れすればするほど、この需要はその分だけ増えることになる。

つみたて投資枠のうち8割近くは世界株や米国株など海外に投資する投信が占めている。


4.2023年度の経常黒字は23.7兆円

円売り増加の規模は、経常黒字の1割ほどに相当する。



Ⅲ. 訪日消費、最高の5兆円 客数はコロナ前の8割回復

1.訪日客の消費が新型コロナウイルス禍前を超える

1月17日に観光庁が公表した2023年の訪日客の旅行消費額は、計5兆2923億円で過去最高だった。

2023年の訪日客数は2506万人でコロナ禍前の2019年の8割に回復した。消費の目的別では宿泊費が最も多く、買い物よりも体験を重視する傾向が強まっている。2023年10~12月期の訪日客の旅行消費額(速報値)は1兆6688億円で、2019年同期比で37.6%増えた。消費額は政府が目標として掲げていた通年5兆円を初めて突破した。

目的別では最も多かったのは、宿泊費で1兆8289億円である。買い物代が次いで1兆3954

億円であった。構成比でみると宿泊費は2019年の29.4%から2023年は34.6%に増え、買い物代は34.7%から26.4%に減った。

2. インバウンドの内容

買い物よりも宿泊や飲食、アクティビティーなど体験重視の消費に関心が高まっていると分析する。欧米を対象にした民間の調査でも、日本独自の「伝統文化」や「伝統料理」が訪日したい理由の上位に並んでいる。加えて治安の良さも訪日客をひきつけている。

ホテル各社の平均客室単価(ADR)は上昇しており、訪日支出を押し上げた。欧米やアジア圏の富裕層が中心に滞在し、さらにADRを引き上げている。

また、滞在日数が長く高単価な欧米の利用者が増えている。訪日客のADRは2019年と比べて2割上がった。


3. 円安の効果も大きい

訪日客の消費額を年間の平均レートでドルベースに直すと1ドル=140円だった2023年は380億ドル弱となる。

2019年(1ドル=108円)の440億ドル超には届いていない。外国人にとって日本への旅行は割安になっている。旅行やホテル各社は、旅行消費額が高い層を狙った取り組みを進める。

某旅行会社では、2023年10月から北海道と沖縄をめぐる17日間で1人あたり128万円のツアーを販売している。体験型の観光にも力を入れている。「三味線づくり体験」や「相撲の朝稽古の見学」も提案している。

地域も受け入れ体制の強化を進めている。さらにキャッシュレス対応も促していく方針で、少しでも(訪日客の)ストレスを軽減できることに取り組む計画である。


4.懸念点(中国からの観光客が激減)

日本にとってカギを握るのが中国の動向であるコロナ禍前の2019年は訪日客数全体の3分の1を占めていた。しかし、2023年は中国からの観光客は全体の1割にも満たない。不動産不況による中国景気の低迷が影響しているとみられるが、中国からの訪日増で消費額・客数ともさらに伸びる余地がある。

観光庁では、2024年の訪日外国人客数が3310万人と、過去最高になると予測する。政府は長期目標として2030年の旅行消費額を15兆円に設定する。


Ⅳ. 2022年の1人あたりGDP、G7で最下位に。
  円安で順位下げる日本

1.日本の2022年の1人あたりGDPはG7で最下位だった

内閣府が2023年12月25日発表した国民経済計算の年次推計によると、豊かさの目安となる日本の2022年の1人あたり名目国内総生産(GDP)は3万4064ドルとなった。イタリアに抜かれて主要7カ国(G7)で最下位だった。円安が大きく影響したが、長期的な成長力の低迷も映している。

2021年の4万34ドルから減った。経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国中でも21位と、2021年の20位から順位を落とした。21位に転落するのは、さかのぼることができる1980年以降で初めてとなる。

日本がG7で最下位となったのは2008年以来14年ぶりである。日本の順位は、中長期的に低下傾向にある。

2.2022年末にかけて急速に進んだ円安。ドル換算の1人あたりGDPを押し下げた

内閣府の試算で前提においた為替レートは、2022年は1ドル=131.4円で、2021年は 1ドル=109.8円だった。

名目GDPの総額では、日本は22年に4兆2601億ドルであった。世界のGDPに占める比率は4.2%で、米中に次いで3位は維持した。

シェアは比較できる1980年以降で最低で、2005年の10.1%から17年間で半減した。ドイツのドル換算の名目GDPは22年に4兆825億ドルでシェアが4.0%となっており、日本に肉薄する。

名目GDPはモノやサービスの価格変動を含めた指標で、国・地域の経済活動の大きさを示す。

3.日本経済の実力は円ベースのGDPに左右される

ドル建てでの国際比較は、長い目でみた「国力」の指標になる。

ドル建ての名目GDPを2005年と2022年で比べると米国は2倍ほど、ドイツは約1.4倍にそれぞれ高まった。日本は逆に12%減少した。

2023年は世界3位の地位が維持できなくなる可能性がある。

国際通貨基金(IMF)の10月の予測によれば、ドル建ての名目GDPで日本は2023年にドイツを下回って4位に転落する。1人あたりでみると3万3949ドルで、データがある190の国・地域のうち34位となる見込みだ。

4.その背景

日本銀行が金融緩和を続けていることも含め、日本経済の実力の低さが背景にある。

日本企業の稼ぐ力を賃上げや人手不足を補う投資に回し、成長と分配の好循環を促すことが必要である。

物価高に負けない賃上げのために重視するのがベースアップ(ベア)の継続である。
連合の2023年の最終集計では、定期昇給を除いたベア部分は平均で2.12%だった。
消費者物価の伸びには届かず、10月の実質賃金は前年同月に比べて2.3%減った。


厚生労働省の2023年の賃金実態調査をみると、業種別のばらつきも大きい。鉱業・採石はベア実施率がトップの77.8%、電気や運輸も60%を超えた
一方で、最も低い医療・福祉は22.5%にとどまった。教育なども20%台で低調だった。

また、厚生労働省の毎月勤労統計調査をみると、パート従業員を除いた「一般労働者」の所定内給与の前年同月比伸び率は、2023年度に入って高い月でも5月と7月の2.0%。それ以外の月は1.5%前後で推移している。

なお、パートの時給は2023年6月以降、3〜4%台の増加を続けている。一般労働者の伸びが力強さを欠くため、1人あたりの賃金は、物価上昇(2023年12月:前年比で2.3%)を考慮した実質賃金で、2023年11月まで20カ月連続で前年同月比マイナスとなっている。

Ⅴ. チャート(日米の株価)2024年1月26日時点
  出所:ブルームバーグ社


1.米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)
  (5年間) 年初来の騰落率 1.0%上昇



2.アメリカドル(5年間)



3.日経平均株価(5年間)
  年初来の騰落率 6.8%上昇



以上




<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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