その結果、市場では、早ければ今会合で政策修正が行われるとの思惑が強まっていた。12月7日の上記の植田日銀総裁の発言を受け、10年国債利回りは大幅に上昇し、外国為替市場では一時およそ4ヵ月ぶりとなる1ドル=141円台まで円高(日本の政策金利が上昇)ドル安が進んだ。
「12月7日の国会でのやり取りとしては、今後の仕事の取り組みについて問われたので、日銀総裁として2年目にかかるところなので、一段と気を引き締めてというつもりである」と発言した。また、金融政策については、やりとりの中で「粘り強く金融緩和を継続すると述べたところである」と述べ、早期の金融政策の修正を意図した発言ではないことを明らかにした。
そのため、12月19日の東京外国為替市場は、日銀が大規模な金融緩和策の維持を決めたことを背景に、円安(日本の政策金利は▲0.1%のまま)ドル高が進み、円相場は一時、144円台まで値下がりした。
さらに、「経済自体が、インフレ率が低下するというソフトランディング的な動きを示しているということもあるかと思う」と述べた。
なお、リスク要因として資源価格の高騰やウクライナ情勢など内外経済をめぐる不確実性は高く、注視していく必要があるとした。
先行きの日本経済については、海外経済の回復ペースの鈍化による下押し圧力はあるものの「緩やかに回復していく」とした。
植田総裁は、「2%の物価安定目標の実現に向けての確度が高まってきているが、先行きの物価・賃金動向をなお見極めていく必要がある」と発言し、粘り強く金融緩和を続ける姿勢を示した。
市場では、早ければ日銀が展望レポートを公表する次回2024年1月の会合において、物価2%目標達成を見極め、金融政策の正常化に向けて動き出すとの見方もあるようである。
欧米の利上げ局面が終了し、2024 年には利下げに転じるとの見方が強まるなか、日本の金融政策の正常化の時期を見極めるにあたり、今後は、植田日銀総裁の発言に一層注目が集まるものと思われる。
※12月19日の日本銀行の植田総裁からの主なコメント(金融緩和政策を継続)
※下記の「主要国の政策金利:各国とも変更がなかったので12月号と同じです」
物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.7%減、年換算で2.9%減だった。2023年11月の速報値(前期比0.5%減、年率2.1%減)から下方修正した。個人消費などが弱含み、4四半期ぶりのマイナス成長となった。
特に、内需の落ち込み幅が広がり、全体を押し下げた。
内需の柱である個人消費は、速報値の前期比0.0%減から0.2%減に下方修正された。2四半期連続のマイナスとなった。最新の消費関連の統計を反映した結果、食品や衣服などの消費が弱含んだ。
品目別に見ると、衣服などの半耐久財は0.5%減から3.2%減に、食品などの非耐久財は0.1%減から0.3%減に下振れした。
なお、設備投資は前期比0.6%減から0.4%減に上方修正した。
財務省が12月1日に公表した7~9月期の法人企業統計などを反映した。金融・保険業を除く全産業の設備投資が季節調整済みの前期比で1.4%増えた。非製造業が持ち直した。
民間在庫の寄与度は、前期比でマイナス0.3ポイントからマイナス0.5ポイントにマイナス幅が拡大した。在庫を積み増す動きが速報値での想定より弱かった。住宅投資は0.1%減から0.5%減に落ち込んだ。公共投資は前期比0.5%減から0.8%減に下方修正した。
(1)2024年度予算案は、一般会計総額が112兆717億円と前年度から2.3兆円減
岸田首相は、「デフレからの完全脱却」に向け、賃上げや人への投資に重点を置いた。脱炭素や国内投資の喚起にも注力して持続的な成長につなげる。
(2)岸田首相は2024年夏に「物価高を上回る賃上げ」の実現を目指す
2024年度の与党税制改正大綱で、賃上げ促進税制の拡充を明記したのに加え、予算案でも企業や医療、教育現場まで幅広い業種で賃上げの原資を確保した。
「人への投資」関連では、およそ2000億円を盛り込んだ。企業には補助金などで従業員の処遇改善を後押しする。個人向けのリスキリング(学び直し)支援も拡充し生産性の高い分野への労働移動を活発にする。
政府は一連の施策で所得を増やし、物価高に賃上げが追いついていない状況の改善を目指す。国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態にし、デフレ脱却を確実なものにする狙いがある。なお、足元では、物価高はまだ続いている。
総務省が発表した2023年11月の消費者物価指数(CPI、20年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が106.4となり、前年同月比で2.5%上昇した。
(3)厚生労働省が発表した10月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)
物価を考慮した1人当たりの実質賃金は前年同月比2.3%減り、19カ月連続のマイナスとなった。
米欧の主要な株価指数が最高値圏で推移するなか、12月20日の日経平均株価も続伸し、2日間の上げ幅は900円を超えた。米国経済の軟着陸(ソフトランティング)シナリオを前提に「適温相場」が続くとの見方が強まっている。
日経平均は、前日比456円(1.4%)高の3万3675円で終えた。2023年7月につけた33年ぶりの高値まで77円あまりに迫った。その買い戻しのきっかけは、12月19日に終了した日本銀行の金融政策決定会合である。
会合前までは、日銀がマイナス金利の早期解除に動くシナリオが浮上し、一部の投資家が円高・株安に備えて株式先物を売っていた。
ところが、12月19日の日銀の会合で政策修正は見送られ、植田和男総裁も記者会見で利上げを急がない姿勢を強調した。為替は円安方向に揺り戻しとなり、株式先物売りの買い戻しを誘った。
世界の投資マネーは、一足先にリスク選好姿勢を強めていた。米国のダウ工業株30種平均は、12月19日まで9連騰を記録し、連日のように最高値を更新しているほか、ドイツ株式指数(DAX)も12月11日に最高値を付けた。中国を除く新興国も株価上昇が目立ち、インドの株価指数SENSEXは、12月15日に最高値をつけた。
12月20日の日本の株高については、「売り方の買い戻しだけでなく、新規の買いも入っている」とみる。
米国の消費は、予想外の粘り腰をみせた。米国では最近労働者の増加(失業者の減少)で賃金上昇が抑えられていて、インフレ率も減速している。FRBは景気後退を回避しながらインフレ抑止に成功すると予測している。そのため、米国の市場では、景気後退の懸念が薄らぎ、軟着陸がメインシナリオになった。
また、欧州でも物価高が落ち着き、深刻な不況を避けられるとの見方が出てきた。
これを受けて、一時5%を超えた米国の長期金利は4%を下回る水準で推移する。
金利低下と緩やかな景気拡大が続けば、世界の株式市場にとっては心地よい環境となる。
いわゆる「ゴルディロックス相場(適温相場)」への期待が、足元の世界株高を支える。
1.米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)
(5年間) 年初来の騰落率 12.4%上昇
2. アメリカドル(5年間)
3. 日経平均株価(5年間)年初来の騰落率
26.4%上昇
<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。
■■■■■ 著 作 権 な ど ■■■■■
著作権者の承諾なしにコンテンツを複製、他の電子メディアや印刷物などに再利用(転用)することは、著作権法に触れる行為となります。また、メールマガジンにより専門的アドバイスまたはサービスを提供するものではありません。貴社の事業に影響を及ぼす可能性のある一切の決定または行為を行う前に必ず資格のある専門家のアドバイスを受ける必要があります。メールマガジンにより依拠することによりメールマガジンをお読み頂いている方々が被った損失について一切責任を負わないものとします。
その他関連サービス
研修一覧:https://www.nichizei.com/nbs/seminars/