日税FPメルマガ通信 第399号

さらなる低コスト化へ「投資信託の二重計算問題」について解説する
2023年12月20日発行

 

岸田文雄首相は2023年9月21日、世界中の金融関係者が集まった「ニューヨーク経済クラブ」の講演のなかで、日本の資産運用業に新規参入するよう呼びかけました。

同氏は年内にも、参入障壁の是正や規制緩和といった政策の実施計画を打ち出す予定ですが、改善すべき課題の1つになっているのが「投資信託の二重計算問題」です。

今回は、この投資信託の二重計算とは何か?概要と課題について解説します。

1.投資信託の二重計算問題とは


日本では投資信託の基準価格を資産運用会社と信託銀行がそれぞれ計算し、毎日照合するという独自の慣行があります。


こうした二重計算は、投資信託および投資法人に関する法律(投信法)に帳簿書類の作成が求められていること、また資産運用会社の基準価格算出の最終的責任を負うことなどが背景にありますが、照合事務が法律で定められているわけではありません。

ただし投資家に基準価格算出の信頼性を持たせ、データの入れ間違いといった人的要因などによる基準価格算出の誤りを検出、解決するセーフティネットとして機能はしてきました。また資産運用会社や信託銀行によるシステム導入により、基準価格計算の効率化が進んでいます。

しかしながら、照合作業の多くがわずかな誤差の確認に時間を費やしている、あるいは相互の元データの相違による間違いが生じるなど、二重で計算しているが故の非効率さも指摘されていました。

2.二重計算問題の課題


欧米では顧客と資産運用会社との間の利益相反や不正防止の観点から、基準価格の計算は資産運用会社が行う一者計算が採用されています。

こうした一者計算を導入している欧米から見ると、日本の二重計算の仕組みは、「計理部門が必要になる」「システムコストが高い」などの理由から、高コストで参入しづらい市場を作り出している要因になっているのです。

これまでも日本における投資信託の一者計算に向けた試みは行われてきました。

しかし基準価格の正確性を担保するための新たな措置の導入や、システム変更などが必要になる。仮に一者計算となり資産運用会社に投信計理システムを導入した結果、公販ネットワーク※への接続の確保や接続料の懸念。販売会社の理解を得られない可能性があるといった課題から、あまり進捗がない状況です。

※公販ネットワーク…委託会社から販売会社に対して基準価格や分配金などの情報を送り、販売会社からは委託会社に日々の設定・解約などにかかる情報データ接続を行うなど、委託会社と販売会社をつなぐネットワークインフラのこと

3.一者計算を目指す各社の動き


岸田総理の発言を受け、一者計算を目指す金融機関も現れ始めています。三菱UFJ信託銀行はフィンテック企業と組んで一者計算の仕組みをつくり、肥後銀行系の運用会社が採用しました。

現状、続く事例はありませんが、一者計算にすることで信託報酬を0.1~0.3%押し下げるほどの効果を生み出せる可能性があると言われています。

三菱UFJ信託銀行の仕組みは新規参入の投資信託だけでなく、既存の投資信託向けにも導入される予定です。岸田総理の資産所得倍増計画や、新NISAの導入を追い風に資産運用業界の業務効率化がいよいよ動き始めました。

4.まとめ


岸田文雄首相が「資産運用立国」を打ち出すなか、長年慣習となっていた「投資信託の二重計算問題」を解消する動きが見られるようになりました。

新NISAの開始を見据えて、すでに投資信託の信託報酬の値下げ競争が始まっています。一者計算にすることで信託報酬を抑えられる可能性も指摘されており、今後各資産運用会社がどこまで二重計算問題の解消に踏み切れるのか要注目です。

投資信託の信託報酬が改善されれば、日本でもさらに多くの投資家の参入が期待できるのではないでしょうか?


<著者プロフィール>

福田 猛

ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役

大手証券会社を経て、2012年に金融機関から独立した立場で資産運用のアドバイスを行うIFA法人ファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。資産形成・資産運用アドバイザーとして現役活躍中。2015年楽天証券IFAサミットにて独立系アドバイザーとして総合1位を受賞。東京・横浜を中心に全国各地でセミナー講師としても活躍し、大好評の「投資信託選びの新常識セミナー」は開催数240回を超え、延べ8,000人以上が参加。新聞・経済誌等メディアでも注目を集める。著書に『投資信託 失敗の教訓』(プレジデント社)等がある。


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参考

経済金融情報メディア「F-Style」:https://fstandard.co.jp/column/

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