日税FPメルマガ通信 第396号

 

Ⅰ. IMF(国際通貨基金)から日本の経済の成長率についての
  コメント 2023年10月

◎国際通貨基金(IMF):10月25日に世界経済見通しを発表
1.2023年の日本の成長率が2.0%と昨年の1.0%を上回るとの見通しを示した

日本は超緩和的な金融政策を維持し、生活費上昇の影響を和らげるために大規模な財政支出を行って、IMFは「緩和的な政策」が成長を下支えしていると指摘した。

IMFによると、2023年の先進国の成長率は、1.5%前後と予想される。

また、2024年の日本の経済成長率については、今までの金融政策などの景気刺激策の効果がなくなるため1.0%へ鈍化すると予想した。

なお、重債務に見舞われている中国の不動産部門の急激な調整、およびそれによる経済活動の鈍化が、中国と密接な貿易関係を有する一次産品輸出国を中心に、アジア圏に波及する可能性が高い。さらに、人口高齢化と生産性の伸びの鈍化は、地経学的分断化のリスクが高まる中、中期的には中国の成長をさらに抑制し、その他のアジア諸国およびより広範な地域の見通しを圧迫するであろう。中国経済と最も密接に関連しているアジア各国の生産高が5年間で最大10%減少する可能性がある。


2.日本のGDP:ドイツに抜かれて世界第3位から4位になる見通し

◎ 日本のGDPは長期的に低迷を続けている

2023年10月23日にIMF(国際通貨基金)が公表した経済見通しで、日本のドル換算での名目GDP(国内総生産)が2023年にドイツを下回って4位に転落する可能性が大きいことが国際通貨基金(IMF)の予測で分かった。
足元の円安やドイツの高インフレによる影響も大きいが、長期的な日本経済の低迷も反映している。日本には、今後「持続的な賃上げと、企業の稼ぐ力を高めるための生産性向上が急務だ」と指摘している。

(1) 名目GDPとは
モノやサービスの価格変動を含めた指標で、国・地域の経済活動の水準を示す。一般的な経済規模を示す指標として用いられることが多い。

(2) 2023年のGDPの見通し
日本が前年比0.2%減の4兆2308億ドル(約633兆円相当)、ドイツは8.4%増の4兆4298億ドルとなる見込みである。なお、1位の米国は5.8%増の26兆9496億ドル、2位の中国は1.0%減の17兆7009億ドルの見通しである。

(3) 2000年の時点のGDP
日本の経済規模は、今より大きい4兆9683億ドルで世界2位であった。2000年初の為替相場は1ドル=105円程度であり、当時の日本のGDPはドイツの2.5倍で、中国の4.1倍だった。



(4) その主な要因
金融政策の差により円の対ドル相場が下落していることが影響しているものの、長期的には日本の成長力(イノベーションなど)の低下が背景にある。

1人当たりの名目GDPでは、日本は2023年に3万3949ドルとIMFのデータがある190の国・地域のうち34位となる見込みだ。1位はルクセンブルクの13万5605ドル。日本は英国やフランス、イタリアなどより低く、35位の韓国(3万3147ドル)に肉薄されている。

2000年時点で、日本の1人当たり名目GDPは同187カ国・地域のうちでルクセンブルクに次ぐ2位の3万9172ドルだった。2023年と2000年を比べると日本の1人当たりGDPは13.3%減っており、日本経済の低迷を映している。
内閣府は2001年3月の月例経済報告の中で、日本が緩やかなデフレにあると初めて認定した。家計が貯蓄を優先したり、企業が新たな設備投資を抑制したりして経済全体にマイナスの影響を与えると警鐘を鳴らした。

また、日本は生産年齢人口(15〜64歳)も1995年から減り続けている
※生産年齢人口(15〜64歳)について
生産活動を中心となって支える15〜64歳の人口のことである。労働の中核的な担い手として経済に活力を生み出す一方、社会保障を支える存在でもある。戦後2つのベビーブームを受け、ピークの1995年には8716万人と総人口の69.5%を占めた。
その後は少子高齢化に伴い、減少に転じている。総務省の人口推計によると2023年2月1日時点の生産年齢人口は7400万人(概算値)。総人口に占める割合は59.4%まで低下した。



Ⅱ. 世界の経済の現状

1. 米国の製造業景況感、半年ぶり50以上に10月0.2ポイント改善、経済底堅く

10月24日発表した10月の米国購買担当者景気指数(PMI:Purchasing Manager’s Inde )は、製造業が前月から0.2ポイント改善の50.0(PMIの数値が50を上回ると景気拡大、50を下回ると景気後退と判断される)であった。

好不況の分かれ目となる50に達するのは6カ月ぶりである。なお、総合(51)も50を上回って推移しており、米国経済の底堅さを反映した。
サービス業は前月比0.8ポイント改善し、50.9だった。総合も51.0と0.8ポイント上昇した。市場予想の集計では製造業(49.5)、サービス業(49.8)ともに悪化が見込まれていた。3つの指標が50以上となり、不況を示す指標はなくなった

製造業は2カ月連続で改善し「景気拡大への動きを示す心理的に重要な水準」に達した。


(1) 背景
需要の強さが景況感の改善をけん引した。新規受注は直近1年強で最も高い伸びとなり、生産前、完成品ともに在庫水準の削減が進んだ。ドル高で海外輸出は低調だったが、旺盛な国内需要が補った

サービス業も堅調さを維持され、高金利の長期化で消費者の支出は弱含んでいるものの、一部の企業で顧客数の改善が進んだ。新規採用の強化で人手不足がやわらいでいることも、サービス業の景況感の向上につながった。

一方で、先行きについては「中東情勢の緊迫化が成長に対する下振れリスクとインフレの上振れリスクを招いており、見通しに新たな不確実性をもたらしている」とも述べた。また、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織「ハマス」によるイスラエルの攻撃と、今後予想されるイスラエルによる大規模な報復攻撃は、歴史上の大事件である。鍵を握るのは原油価格の反応である。原油価格が急騰すれば、軍事衝突は単なる地政学リスクでは終わらず、金融市場及び経済に大きな打撃となる。

しかし、今のところ原油市場は冷静に事態を受け止めており、その結果、金融市場への影響もそれほど大きくない。10月7日のハマスによるイスラエルの攻撃を受けて、WTI原油先物価格は、1バレル82ドル台から86ドル台まで上昇した。

米商務省が10月26日発表した7~9月期の実質経済成長率は、4.9%と高水準だった。一方で、足元には不安材料が多く、減速ペースに焦点が移る。


1バレルは約159リットル:2023年10月27日の時点 83.5ドル/バレル


2. 米長期金利が一段と上昇(債券価格は下落)

指標となる10年物国債利回りは10月19日に一時5%台と、16年ぶりの高水準を付けた。上昇幅は直近3カ月で約1.3%に達する。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の発言で金融引き締めが長期化するとの観測が強まり、債券が売られた。

ニューヨーク市で10月19日に開かれたイベントで講演したパウエル議長は、質疑応答の中で米経済の粘り強さを踏まえ「今は引き締めが強すぎるとは思わない」と語った。FRBが高金利の状態を長期化させるとの見方が広がり、長期金利への上昇圧力が高まった。

国債の需給悪化も金利を押し上げている。バイデン政権の拡張的な財政支出により、財政赤字が膨らむ。政府が米国債の増発を打ち出し、投資家の国債売りが強まった。


3. 中国 2023年7~9月実質GDP 4.9%増 、しかし、不動産落ち込み拡大

中国国家統計局が、10月18日発表した2023年7~9月の国内総生産(GDP)は、物価の変動を調整した実質GDPは前年同期比4.9%増えた。生産に持ち直しの兆しが見える一方、不動産市場の落ち込みは拡大した。

季節要因をならした前期比の増加率は1.3%と、4~6月(0.5%)から拡大した。先進国のように前期比の伸び率を年率換算した成長率は5.3%程度となる。生活実感に近い名目GDPは前年同期から3.5%伸びた。4~6月の増加率は4.8%だった。


百貨店、スーパーの売り上げやインターネット販売を合計した1~9月の社会消費品小売総額(小売売上高)は前年同期比6.8%増加した。上海封鎖の影響がなくなったことも重なり、1~6月(8.2%増)から伸びは縮まった。

工場の建設などを示す1~9月の固定資産投資は前年同期より3.1%多かった。1~6月の3.8%増から鈍化した。収益改善が遅れ先行き不安が強い民間企業の投資が0.6%減少した。

不動産市場の低迷は長期化している。1~9月の開発投資は9.1%減った。減少率は1~6月の7.9%から一段と大きくなった。新築住宅の販売面積も6.3%落ち込み、マイナス幅が広がった。在庫の消化に時間がかかり、新たなマンション開発が増えるまでには時間がかかりそうだ。

海外との貿易では輸出の落ち込みが目立っている。7~9月はドルベースで前年同期を10%下回った。内需不振で輸入も減少したが、輸出の落ち込みが大きく、輸出から輸入を差し引いた貿易黒字は13%減った。3期ぶりのマイナスとなった。

民間企業の収益や雇用の改善が遅れ、先行き不安は根強い。国際通貨基金(IMF)は10日に公表した経済見通しで、中国の2024年の成長率を4.2%と予測した。前回7月の見通しから0.3ポイント引き下げた。中国経済への慎重な見方は多い。


Ⅲ. 日本の男女の賃金格差と実質賃金の現状

1.男女の賃金格差、先進国平均の2倍にOECD調べ、四半世紀では15ポイント改善管理職・勤続年数で差

日本の男女の賃金格差が、2022年までの四半世紀で15ポイント縮小し、21.3%の差まで縮まったことが経済協力開発機構(OECD)のデータで分かった。企業の待遇改善で差は狭まったが、なお先進国平均の約2倍ある。さらに差を縮めるには、男女が平等に働ける環境整備が欠かせない。


2023年のノーベル経済学賞の受賞が決まったクラウディア・ゴールディン氏は、10月9日の記者会見で、日本で女性の労働参加率が上昇していることを称賛しつつ「女性を労働力にするだけでは十分ではない」と課題を提起した。

OECDが男女の週当たり総収入額の差を比べた調査によると、米国では2022年で17.0%、英国は14.5%、フランスは2021年で11.6%と日本よりも差が小さかった。OECD平均は11.9%である。

2. 日本で格差が大きい要因

女性はパートなどの非正規雇用が多いことに加えて、管理職割合の低さや勤続年数の短さがある。賃金構造基本統計調査による月額ベースの賃金は、2022年は男性が34万2000円で女性は25万8900円。25年前は約12万円の差があった。格差のさらなる是正に向けては、女性管理職の割合増加が鍵になる。

労働政策研究・研修機構によると、日本の管理職に占める女性の割合は2021年に13.2%だった。スウェーデンの43.0%、米国の41.4%とは開きがある。

厚生労働省による男女間の賃金格差の分析では、女性全体でみると男性の76%弱の水準だったが、部長や課長などの役職についた女性は男性の88%弱だった。管理職になる女性が増えれば賃金格差は緩和される可能性が高い

そのためには勤続年数や労働時間の長さが、昇進や給与水準を左右する現状を見直す必要がある。
現状では女性の勤続年数は男性より短い傾向がある。男女間の平均勤続年数の差は1985年の5.1年から2022年には3.9年に縮んだが、女性には出産など特有の事情もある。

厚労省の分析では、管理職割合と勤続年数の双方で男女間格差をなくした場合、女性の賃金水準は男性の89%強に改善する。これはフランスやドイツなどと同水準である。
テレワークや時差出勤を積極導入して仕事と家庭を両立しやすい職場環境づくりを心がけている。厚労省のデータベースによると、正社員で男性社員の賃金に対する女性の割合は82.9%である。女性は時短社員や新卒社員の比率が高いことが数値の背景にある。

経団連の2023年6月の調査では、「仕事と両立しづらい職場環境」や「長時間労働や硬直的な働き方」は、男性の家事・育児参加を阻む大きな要素にもなっていた。


3. 賃上げは物価の伸びを上回るか

(1) 厚生労働省からのコメント

2023年6月の毎月勤労統計(従業員5人以上の事業所)を発表した。1人あたり賃金は物価変動を考慮した実質で、15カ月続けて前年同月を下回る公算が大きい。賃金の目減りが続けば消費を冷やし、物価にも再び下押し圧力がかかりかねない。

実質賃金の算出には、持ち家を借家と見なした場合の「帰属家賃」を除く消費者物価指数を使う。2023年6月は前年同月比3.9%プラスと、3.3%だった全体の指数の伸びより大きかった。現金給与総額の伸びが、物価上昇に届かなければ賃金は実質マイナスになる。


(2) 2023年6月の実質賃金は0.5%減

約30年ぶりの賃上げ率だった2023年の春季労使交渉の反映が進み、現金給与総額は3.5%増と5月の2.9%から上昇率を拡大するが、物価の伸びを下回る。
物価は6月からの電気料金引き上げで上昇幅を再び拡大しており、「実質賃金の減少率は5月の0.9%から拡大することもありえると考えられる。
2023年7月には、2023年度の最低賃金の目安を全国平均で時給1002円へ引き上げることも決まった。10月ごろに適用されれば非正規労働者の所得底上げが期待されるが、それだけで実質賃金のプラス転換は見通せない。

(3) 日銀の植田和男総裁のコメント

7月28日の金融政策決定会合後の記者会見で、足元では「企業の賃金・価格設定行動には変化の兆しがみえている」としつつも、2024年度以降の物価安定については、自信がないが、消費者が2024年の賃上げを意識できるかどうかがカギを握ると指摘。足元の実質賃金がマイナスでも、賃金が伸び続けるとの期待が高まれば、消費を後押しする

(4) 消費者物価指数  2023年9月は前年同月比で2.8%上昇

総務省が10月20日に発表した9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が105.7となり、前年同月比で2.8%上昇した。上昇率が3%を下回ったのは22年8月以来13カ月ぶり。政府による料金抑制策が続く電気・ガス代の低下が全体を押し下げた。

伸び率は8月の3.1%から縮小した。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.7%の上昇だった。
生鮮食品だけでなくエネルギーも除いた総合指数は4.2%上がった。6カ月連続で4%台と高い伸びが続く。生鮮以外の食料の価格上昇が一服し、伸び率は3カ月ぶりに縮小した。
生鮮食品もエネルギーも含めた総合指数は3.0%上昇だった。2カ月連続で伸びが鈍化した。


<ご参考>
岸田首相:10月23日の第212臨時国会の所信表明演説のポイント
物価高対策は所得税減税を念頭に検討を進め、ガソリンや電気・ガス料金の価格上昇を抑える補助は2024年春まで続けると表明した。

「私の頭に今あるもの、それは『変化の流れを絶対に逃さない、つかみ取る』の一点だ」と語った。「一丁目一番地は経済だ」と述べた。

人への投資や賃金、設備投資、研究開発投資が削減され、消費や投資が落ち込む悪循環を挙げ「この30年間、日本経済はコストカット最優先の対応を続けてきた」と指摘した。「コストカット型経済からの完全脱却に向けて思い切った供給力の強化を3年程度の変革期間を視野に入れて集中的に講じる」と唱えた。

賃上げ税制を強めるための減税措置を実行すると明言した。半導体や蓄電池といった戦略物資の投資・生産の負担を軽減する税制優遇なども掲げた。金融資本市場を「経済活動の基盤」と表現し資産運用業の改革を提示した。

急激な物価高に対し賃金上昇が追いつかない現状を指摘し、「税収の増加分の一部を公正かつ適正に還元する」と発言した。岸田首相は20日、与党に所得税減税を含めた国民への還元策の検討を指示した。所信表明では「デフレ完全脱却のための一時的な緩和措置」と訴えかけた。


Ⅳ. チャート(日米の株価と為替)2023年10月27日時点 
出所:ブルームバーグ社


1. 米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)(5年間) 年初来の騰落率 0.8%上昇



2. アメリカドル(5年間)



3. 日経平均株価(5年間)年初来の騰落率19.8%上昇


以上




<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

■■■■■ 著 作 権 な ど ■■■■■

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