日税FPメルマガ通信 第392号

 

Ⅰ. 日本経済の現状

1.2023年4〜6月GDP、プラス見通しも安定成長に不安があり

内閣府が8月15日に発表しました2023年4〜6月期の国内総生産(GDP)速報値は、年率換算でプラス6.0%でありました。日本経済の強さをどうみるかの大きな判断材料となります。


今回のポイントは、下記の3点であります。
(1)プラス成長の持続が確実視される。
(2)長引く物価高で個人消費は伸び悩んでいる。
(3)輸入の減少は内需の弱さの裏返しであり、今後の安定成長には不安があり。

他の先進国では、米国は4〜6月期に2.4%増、ユーロ圏は1.1%増でありますので、日本はそれなりに強い数字となります。なお、2023年1〜3月期は前期比年率2.7%増でありました。個人消費が前期比0.5%増と4四半期連続のプラス、設備投資が1.4%増と2四半期ぶりのプラスとなりました。

輸出は、半導体市場の悪化などを受けて4.2%減でした。

内需の寄与度がプラス1.0ポイントとなり、四半期の実質成長率(0.7%増)をけん引しました。輸出から輸入を差し引いた外需の寄与度は、マイナス0.3ポイントでした。

半導体の供給制約の緩和が進んだ日本の主力産業である自動車がけん引し、また、インバウンド(訪日外国人)消費の回

もあり、輸出の予測平均は前期比2.3%増の見通しとなりました。


2.賃金上昇率は所定内給与の鈍化で減速

2023年6月の現金給与総額は、前年比で+2.3%増加したものの、伸び率は2023年5月の同+2.9%から鈍化しました。物価高による賃金の目減りが消費を押し下げました。

名目賃金にあたる1人当たりの現金給与総額は月平均32万6157円でした。なお、伸び率では1991年以来となる31年ぶりの大きさでした。新型コロナウイルス禍から経済再開へと進み、賞与の支給が大きく伸びました。この結果が今後、次第に賃金上昇率に反映されると思われます。

しかし、消費者物価が高い伸びを維持する中、物価高騰に賃金の伸びが追いつかない状況が続いています

また、毎年8月に厚生労働省から公表される春闘賃上げ率は、2022年の2.20%から大きく上昇し、3%台となることがほぼ確実となりました。

 




3.続く物価高、食品高止まり、宿泊料伸び拡大 賃上げは追いつかず

物価の上昇圧力が続いています。7月の消費者物価指数は生鮮食品とエネルギーを除く総合指数が前年同月比4.3%上昇し、伸び率は再拡大しました。

特に、食品や日用品の値上がりは家計を圧迫して、消費は伸び悩んでいます。

物価上昇と賃上げの好循環はなお遠く、景気回復の勢いも弱まりかねない状態であります。

総務省が8月18日発表した7月の消費者物価指数は、日銀が掲げる2%の物価目標を16カ月連続で上回っております。


価格が変動しやすい品目をさらに除いた指数をみると、物価上昇はむしろ勢いを増す。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は前年同月比4.3%プラスで、2カ月ぶりに伸びを拡大しました。

消費者物価は2023年度の後半にかけて鈍化するとの見方もありますが、現時点ではまだピークアウトしたとは言えない状況にあります。

最大の要因は、全体の6割を占める食料の高止まりであります。

特に、7月はハンバーガーが前年同月比で14.0%上昇しました。10%超えは13カ月連続です。また、プリンは27.5%プラスで、6月の12.6%から伸び率が拡大しました。

米欧に遅れた価格転嫁の波が続いています。

また、宿泊料は15.1%プラスと、6月から10ポイントほど伸び率を拡大しました。インバウンド(訪日外国人)の回復などによる需要が高まりました。



高い物価上昇率は、金融政策の議論にも影響を与えます。日銀は物価の安定には「まだまだ距離がある」(植田和男総裁)とみて、金融緩和を続けています。ただし、物価上昇の勢いがこのまま衰えなければ、現状の金融緩和策の見直しが焦点となります。



4. 円一時145円台前半、今年の最安値更新  米利上げ継続観測で

8月14日の外国為替市場で円相場は一時1ドル=145円台前半と約9カ月ぶりの円安・ドル高水準をつけました。

米国で物価高の根強さを示す指標が相次ぎ、年内にもう一度政策金利(現在は2023年7月26日に5.25%から5.50%)を引き上げるとの観測が浮上しました。

米金利が上昇し日本との金利差が広がり、円安につながりました。


Ⅱ. 世界経済の懸念材料

1. 中国の不動産大手会社・中国恒大が米国で破産法の申請を

中国で金融リスクの火種が膨らんでいます。経営再建中の不動産会社の中国恒大集団は8月17日、米国で連邦破産法15条の適用を申請しました。不動産などで運用し、個人や企業が投資目的で保有する信託商品の一部では償還停止が表面化しました。不動産不況を発火点に金融システムへの不安が広がっています。

破産法15条は外国籍の企業を対象とし、適用により訴訟や差し押さえを回避して米国内の資産を保護できます。6000億元(約12兆円)を超える恒大の有利子負債のうち、米ドルと香港ドル建ては27%にのぼります。

中国ではその他に、不動産最大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)が2023年1~6月期に450億~550億元の最終赤字見通しを発表するなど、開発会社が軒並み苦境に陥っています。

不動産販売上位10社に恒大を加えた11社の負債総額は、2022年末時点で10兆元を超え、中国国内総生産(GDP)の1割近くにのぼります

不動産不況の影響は金融当局の監督が、相対的に緩いシャドーバンキング(影の銀行)にも波及しました。

中国の不動産市況は中国政府が2020年夏に導入した融資規制(借りられるお金の総額の上限を規制)によって急速に悪化しました。

資金不足となった開発会社が、マンション建設を途中で放棄する事例が頻発し、消費者の住宅購買意欲が冷え込みました。また、新築販売面積は1~7月に前年同期比4.3%減と低迷が続きます。中国では、不動産不況(人口減とともに家余り時代に突入)に伴う景気減速に対応するため緩和的な金融政策を打ち出しています。今後は事実上の政策金利である最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)を引き下げる可能性が高いです。

経済の安定を重視する習近平(シー・ジンピン)指導部は、国内での法的整理を通じた抜本的な不動産開発会社の経営再建に消極的です。問題を先送りすれば水面下で不良債権を膨らませ、中国経済の将来のツケをより大きくする可能性も出てきます。

また、安全資産である米国債の期待収益率が上昇し、株式のようなリスク資産は相対的に投資妙味が薄れています。先々の利益成長を前提に株価が形成されるテクノロジー株は、金利上昇による打撃が大きかったです。テック株の比率が高いナスダック市場では、7月は2.6%安で、2022年12月以来となる3週連続の下落を記録しました。

低調な経済指標が相次ぐ中国では、景気の先行き不透明感が高まっており、米国企業や市場への波及懸念がくすぶります

2. 米国のニューヨーク株式

利上げ長期化懸念が再燃で1週間で780ドル安、中国景気も重荷に。
8月18日の米株式市場でダウ工業株30種平均は前日比25ドル高の3万4500ドルで引けた。1週間で780ドル安となりました。また、新興企業向けのナスダック市場では、8カ月ぶりに3週連続で下落しました。


 


3. 米国の住宅ローン金利、21年ぶりの高水準、長期債利回り上昇が要因で

住宅ローン金利の上昇は、米国の国民の住宅購入意欲を冷やしています。

米国連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が、下記の内容を8月17日に発表しました。

8月10〜16日の30年固定(米国では金利が頻繁に変わるので、約6割から7割が固定金利を選択されます)の住宅ローン金利は、平均で7.09%(日本のフラット35の固定金利の平均は、1.76%)となりました。

2002年以来、約21年ぶりの高水準であります。

米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締め長期化の観測で、満期までの期間が長い米国債の利回りが上昇している状況を反映しました。

住宅ローンの金利は、2022年11月に7.08%まで上昇した後は、いったん落ち着きをみせていました。
しかし、足元の長期金利上昇を受けて今春からじりじりと上昇が続いていました。住宅ローンの金利の上昇が一段と続く可能性もあると説明し、「8%に達すると住宅市場の売買が再び『凍結』する」と指摘されました。

住宅ローン金利上昇は、住宅購入意欲を冷やしています。米国で住宅市場の約9割(日本の住宅市場は、新築が約75%)を占める中古住宅物件の供給も減っており、NAR集計の中古住宅の販売件数は、直近6月分まで2年近く前年割れが続きました。

そのため、米住宅市場の不透明感が高まっています。全米不動産協会(NAR)が、8月18日発表した4月の中古住宅販売価格(中央値)は、前年同月比1.7%下落しました。

急ピッチの金利上昇の影響により、需要が落ち込みました。




Ⅲ. チャート(日米の株価と為替)2023年8月18日時点
出所:ブルームバーグ社


1.米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)
  (5年間) 年初来の騰落率6.0%上昇


2. アメリカドル(5年間)


3. 日経平均株価(5年間)
  年初来の騰落率 23.1%上昇



以上





<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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