日税FPメルマガ通信 第390号

  

Ⅰ. 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用
  :昨年の収益額は約2.9兆円に

 


1.GPIF の運用成果:3期連続の黒字に
  ※日経平均株価は、2020年は+16%、2021年は+4.9% 2022年は▲9.4%


2023年7月上旬に、公的年金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」が、2022年度の運用実績を公表しました。収益額は2兆9536億円のプラス(2022年度は年率で+1.50%、運用開始の2001年度からの累計では+3.59%)となり、3期連続の黒字となりました。

年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)は、将来の年金の支払いに備え、国民から集め公的年金の保険料の積立金を運用している機関であります。
GPIFが自主運用を開始したのは2001年からで、現役世代が納付した保険料の中から年金の支払いなどに充てられなかった余剰分を将来の世代のために運用しています。

 

2.22年間の累積収益額は108兆円超(そのうちインカムゲイン収益額が約43%)

運用資産は2022年度末時点で200兆1328億円となっております。運用を開始しました2001年度以降、22年間の累積収益額は108兆3824億円に上ります。
そのうち、インカムゲイン(株式の配当金や債券の利子)での収益額は47兆527億円(約43%)となっています。

2022年のインカムゲイン収益額は、3兆7003億円と公表されており、2022年度の収益がインカムゲインによるものでした。

2022年度の日本企業の配当総額は、前期比2%増の13兆9300億円と過去最高となり、GPIFのインカムゲイン収益が増加しています。

 

3.GPIFの運用は4つの資産で運用

GPIFの運用は、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式の4つの資産で運用されています。
2022年度末時点の運用額は、国内債券が49兆6900億円(24.83%)、外国債券50兆1200億円(25.04%)、国内株式50兆3300億円(25.15%)、外国株式49兆9800億円(24.98%)と、平均して25%の構成比率(4つの資産をほぼ均等の割合で運用)となっております。

運用開始当初は債券運用(定期的に利子を受け取る)重視でありましたが、2019年度以降は25%を基準に運用配分(低金利の時代、債券では資産が増えないので)している事が分かります。

2023年4月から6月にかけて、日本株が堅調に推移しました。GPIFが運用する日本株の比率が高くなり、その結果、価格変動で資産構成上の割合が高くなった資産を売り、反対に低くなった資産を買うリバランスが実施されました。
各資産の配分が価格変動によって増減し、資産構成割合が一定の許容幅から逸脱する場合には、元の割合に戻すリバランスが行なわれる仕組みとなっています。

例えば、株価下落によって株式の構成割合が一定程度低下した場合、GPIFは割合が増加した債券を売却して株式を追加購入することになります。GPIFのこうした動きによって、一定の金額が株式市場に流入することもあり、株価の中長期的な下支え要因の一つとして、GPIFの動向は注目を集めます。
このように、GPIFの運用手法は、「短期で資産倍増」や「一攫千金」には、遠く及ばないものの、個人投資家が長期の資産運用を行なう上で、参考になると考えられます。

 

Ⅱ. 世界のマーケットの概要


1.米国 6月のCPI(消費者物価)でインフレ鈍化が鮮明

7月の当初の米国株式市場(S&P500種指数)は、FRB(米連邦準備制度理事会)高官からのタカ派的な発言が重石となったものの、6月のCPI(消費者物価)でインフレ鈍化が鮮明となったことを受け、FRBによる年内2回の追加利上げ観測が後退したことなどから、7月は堅調に推移しました。

TOPIX(東証株価指数)は、前週末の内田日銀副総裁の発言により、日銀がYCC(イールドカーブ・コントロール)を修正するとの見方が強まったことや米金利の低下を受け、円高米ドル安が進行し、7月の前半の株価は軟調に推移しました。

その後は、米CPIの鈍化を受けた米株高などが支えとなり上昇に転じたものの、7月の後半は下落となりました。
引き続き基調的な物価上昇圧力の強さが確認されれば、7月の金融政策決定会合で、日銀によるYCCの修正を後押しすると考えられます。

 

2. 米国労働省が公表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年比+3.0%

7月12日に米労働省が12日発表した6月の消費者物価指数(CPI、季節調整済み)は前年比3.0%上昇しました。5月の4.0%から鈍化し、2021年3月以来約2年ぶりの小幅な伸びとなりました。しかし、未だ米連邦準備理事会(FRB)が今月の会合で利上げを再度見送る程のペースでインフレは鎮静化しておりません。内訳では、サービスの伸びが鈍化しています。世界的な景気減速などを背景にエネルギー価格上昇が一服したことが要因です。
また、変動の大きい食料品とエネルギーを除くコアCPIについては、前年比+4.8%(前月の5月は同+5.3%)と市場予想(同+5.0%)を下回りました。
今回の結果は、年内2回の追加利上げを示唆するFRB(米連邦準備制度理事会)が引き締めペースを鈍化することを正当化する内容となりました。金融市場では追加利上げを織り込む動きがみられたものの、インフレ鈍化が鮮明となったことでCPI公表後は利下げ観測が後退しています。

 

3. 日本の金融政策 7月金融政策決定会合における政策修正への思惑が後退

10年国債利回りは、7月は当初の0.4%台後半から7月20日には0.4%台半ばに低下しました。
7月18日のG20財務相・中央銀行総裁会議(インドで開催、日本銀行が目指す持続的・安定的な2%の物価目標実現には距離がある。距離があるとの認識に変化がなければ、粘り強く金融緩和を続ける姿勢も変わらない)後の植田日銀総裁の発言がハト派的と評価され、7月金融政策決定会合における政策修正への思惑が後退しました。
日本銀行が2%の物価目標を早期に達成できないと宣言するのは、早くても来年の春闘の結果を受けてと考えられます。そのため、本格的な政策修正が年内に実施される可能性は低いと思われます。

 

4. 総務省は7月21日、6月分の全国CPI(消費者物価指数)を発表 前年比+3.3%

コアCPI(除く生鮮食品)は、前年同月比+3.3%と前月の同+3.2%をわずかに上回りましたが、既に発表されていた6月東京都区部CPIなどに基づく事前予測値とほぼ一致しました。

他方で、より基調的な動きを示すコアコアCPI(除く生鮮食品及びエネルギー)は季節調整済前月比+0.2%と2か月連続での低下、前年同月比は+4.2%と前月の同+4.3%から低下しました。

6月は、前月に大きく下がった電気代がその反動で上昇したことから、コアCPIはやや上振れたものの、コアコアCPIが示唆する基調的な物価上昇率は、緩やかに低下していることを示したと考えられます。

その背景に、食料品の値上げの勢いがやや落ちてきた可能性が考えられます。ハンバーガー、アイスクリーム、炭酸飲料、食用油、唐揚げ、アンパンなどは、引き続きCPIの前年比上昇率の押し上げに寄与していますが、生鮮を除く食料品価格の前年比上昇率は+9.2%で前月と同じ水準であります。

6月分の輸入物価(円建て)が、前年同月比で▲11.3%と2桁の下落となり、輸入原材料価格が低下する中、企業の製品価格への転嫁の動きもやや鈍ってきたと考えられます。

 

Ⅲ. 日本の貿易収支が黒字に。23カ月ぶりである

1. 6月、資源高一服で輸入額が減 なお、1~6月は6.9兆円赤字

財務省が7月20日発表した2023年6月の貿易統計速報によりますと、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は430億円の黒字でした。黒字は23カ月ぶりとなります。資源価格の高騰が一服して原油などの輸入額が減少し、半導体不足の緩和で自動車などの輸出額が増えました。輸入額は3カ月連続で前年同月を下回りました。

なお、2023年上期(1~6月)の貿易収支は、6兆9603億円の赤字でした。赤字額は前年同期比で12.9%減少しました。半期ベースの赤字は4期連続となります。自動車の生産が勢いを増し、輸出の総額が47兆3539億円と3.1%伸びました

 

 


2. 6月単月の輸入は、前年同月比で12.9%減少 エネルギーの輸入価格が落ち着く

特に、原油やLNG=液化天然ガスなどの輸入価格が下落したことで、輸入額は8兆7010億円と、去年の同じ月と比べて12.9%減りました。世界銀行によると、2023年6月のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の月平均価格は、1バレルあたり70.2ドルであります。前年同月の114.5ドルから38.7%下がっています

原油などエネルギーの輸入価格が落ち着いた一方で、自動車や食料品などの輸入が増えて、輸入額は0.7%増加しました。

 

3. 輸出は8兆7440億円 前年同月比で1.5%伸びる

輸出の増加は28カ月連続であります。自動車が49.7%増の1兆5677億円で、額は単月で過去最大となりました。輸出額は半導体の供給制約の緩和で、日本の主要産業であります自動車の輸出が増えました。さらに中国経済の回復もまだ見えてこない状況なので、順調な持ち直しは期待しづらいのが現状であります。

 

Ⅳ. チャート(日米の株価と為替)
2023年7月25日時点 出所:ブルームバーグ社


1.米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)
  (5年間) 年初来の騰落率6.3%上昇

2. アメリカドル(5年間)


3. 日経平均株価(5年間)
  年初来の騰落率23.8%上昇

 

以上





<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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