日税FPメルマガ通信 第388号

 

Ⅰ. 景気「緩やかに回復」 2023年の6月月例報告、
  雇用は判断引き上げ

政府は6月22日にまとめた6月の月例経済報告で国内の景気判断を「緩やかに回復している」で据え置きました。

個別項目では、雇用情勢の判断を「改善の動きがみられる」に引き上げました。なお、先行きは海外景気の下振れをリスクとしてあげました。

国内の個別項目をみると、総括判断のもとになる11項目のうち雇用情勢の判断だけを引き上げました。上方修正は2022年7月以来で11カ月ぶりとなります。

なお、総務省の労働力調査によりますと、
・雇用者数は、女性の正規社員を中心に増加しています。
・1人あたり賃金も緩やかに増え、先行きは春季労使交渉(春闘)の結果を反映して増加が続くとみられま
 す。
・連合の集計で春闘の賃上げ率は、6月1日時点で3.66%と30年ぶりの高水準となっています。
・個人消費や設備投資は、「持ち直している」で据え置きました。
・個人消費は、サービス消費を中心に新型コロナウイルス禍からの回復が続いています。
・半導体の供給制約の緩和を背景に、自動車の販売も増加傾向にあります。


出所:ブルームバーグ社


出所:ブルームバーグ社

Ⅱ. 日本銀行、大規模緩和を維持

日本銀行は、6月16日の金融政策決定会合で、大規模緩和の維持を決めました。企業が積極的になり始めた値上げや賃上げの持続力を見極めるのになお時間がかかるためです。

半面、人手不足を背景に物価上昇圧力は強まっております。緩和修正に向けた環境が整いつつあるとみる市場では、早期の修正観測も出てきました。

植田総裁は、日銀の想定より物価上昇圧力が強いことを認めました
インフレ退治を続ける米欧と対照的な姿勢の背景には、拙速な緩和修正が、ようやく出てきた物価と賃金上昇の好循環の芽をつぶしかねないとの懸念があります。


出所:ブルームバーグ社


日本も物価上昇の勢いは、衰えていないです。4月の消費者物価指数(総合、CPI)の前年同月比上昇率は、3.5%と政府・日銀が掲げる2%の物価安定目標を大きく上回ります。物価上昇率が2%以上で推移するのは、13カ月連続であります。

5月の東京都区部消費者物価指数(前年同月比)は+3.2%と4月の+3.5%から伸び率が鈍化しました。
政府の電気・ガス価格激変緩和対策やエネルギー輸入価格の下落によりピークアウトした可能性が高いですが、6月は大手電力料金の値上げやガソリン補助金の縮小などがあります。
また、企業の近年にはない積極的な価格転嫁の姿勢や円安の再進行などもあり、消費者物価の高い伸び率の継続が想定されます。

春闘の賃上げ率が+3.66%と高い伸びになっており賃金上昇の加速が期待されていましたが、2023年4月の現金給与総額は前年同月比+1.0%と目立った加速は見られず、実質賃金は同▲3.0%と13カ月連続のマイナスとなりました。

賃上げの反映が5月以降となる可能性もありますが、労働組合の組織されていない中小企業や管理職など非組合員の賃金上昇率が低い可能性があります。

<日本株の今後の見通し>
日本株の判断は、やや強気スタンスを継続します。直近の株価上昇ペースは速く、スピード調整リスクがある点は否めません。

しかし、日本株上昇の要因となった賃上げの進展、東京証券取引所の資本効率改善要請等への期待は大きいです。
利上げにより景気への不透明感がある欧米対比での日本株の優位性は継続していると考えます。

また、6月の米国のFOMCでは、政策金利が5.00-5.25%で据え置かれた一方、FOMC参加者の政策金利見通しは、2023年末5.625%(中央値)と前回3月の5.125%から引き上げられ、年内2回の追加利上げを示唆しました。

もっとも、パウエル議長は記者会見で利上げ到達点について「データ次第」との姿勢を繰り返しました。

Ⅲ. 米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が日本の大手商社の
 株式を購入 バフェット流の投資、永続的な競争優位性を評価

バフェット流の投資は、永続的に競争優位性をもつ企業を発掘して割安価格で株を取得し、長期保有でリターンを得るという投資スタンスです。

1.バフェット指標(指数)とは
株式市場の時価総額を名目国内総生産(GDP)で割った値のことです。

計算式は「当該国の株式時価総額 ÷ 当該国の名目GDP × 100」です。
GDPよりも株式市場の時価総額の方が、
・大きければ値が1を上回り、値が大きいほど株価の割高感が強まります。

米投資家のバフェット氏が用いているとされ、「バフェット指数」とも呼ばれます。バフェット指標が100を超えると割高とされ、株価が急落する可能性があるとみられています。

2.日米のバフェット指標の比較  日本の株式が割安、米国の株式が割高
・2023年6月26日 米国 165%    日本 149%
・2021年12月末  米国 199%    日本 133%

3.背景
(1)米国株に不安がある:インフレや金利上昇の懸念


出所:ブルームバーグ社


(2)地方銀行の信用不安
信用不安で預金流出が止まらず、株価が急落していたファースト・リパブリック・バンクが5月1日、経営破綻しました。

米銀で過去2番目の規模の破綻です。JPモルガン・チェースが同行の預金と資産の買収を発表したため、動揺の拡大は抑えられましたが、米国の銀行不安が簡単には終わらないことがわかりました。

また、3月10日にはシリコンバレー銀行、3月12日にはシグネチャー銀行の破綻で高まった米地方銀行の信用不安は、米金融当局が預金の全額保護を発表したために、一時収束しつつありました。

ただし、これで米銀の信用不安が収束すると考えるのは早計です。低金利下で放漫経営におちいっていた地方銀行の財務悪化は根が深く、簡単には解決しません。

米地方銀行の財務悪化が生じている要因は2つあります。1つ目はFRB(米連邦準備制度理事会)による急激な利上げです。これで、保有債券に巨額の含み損(金利の上昇で債券価格が下落)が発生しています。

2つ目は、米オフィス市況の下落です。金余りで貸出先が不足していた米地方銀行は、オフィスローンの残高を軒並み拡大させていたため、オフィス市況の下落で、不良債権が増加しつつあります。

米国では在宅勤務の普及で都市部の空洞化が進み、オフィス需給が悪化しています。リオープンが進んでも、その傾向に変化はありません。例えばニューヨークで、オフィス街のミッドタウンはリオープンで米景気が活況を取り戻しても閑散としたままです。いずれ、オフィスの解約が進む可能性もあります。

バフェット氏も、こうした米国の現状に懸念を抱いていると考えられます。

(3)金利:利上げが続く不安
FRBは5月3日、0.25%の利上げを発表しました。政策金利であるFF金利の誘導水準を4.75~5.00%から、5.00~5.25%に引き上げました。これで、長期金利との逆ザヤは一段と拡大し、先行き米景気を悪化させる不安が高まりました。

米長短金利(10年・2年・FF金利)推移:2021年1月4日~2023年5月5日


パウエルFRB議長は記者会見で、米銀行システムは健全であると銀行不安を否定する一方で、インフレとの戦いは続くと表明しています。

FRBがタカ派姿勢を変えていないことが、株式市場にとって不安材料となっています。ただし、今後の利上げについては、経済環境によっては停止する可能性も示しました。

4.日本の総合商社(大手5社)
2023年3月期連結決算(国際会計基準)がそろいました。大手5社の合計純利益は約4兆2000億円を超え、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が大量保有を始めた2021年3月期から4倍超に増えました。

2024年3月期は市況が一服し、一転して全社最終減益の見通しです。今後は、脱炭素やデジタルなど市況に頼らない事業の持続的な成長モデル確立が課題となります。

資源高の追い風を捉えて利益を伸ばせただけでなく、資源以外の稼ぐ力が高まってきました」。

大手5社の合計純利益は、わずか2年で4.3倍になりました。株価もバフェット氏が保有を公表した2020年8月から8割高〜3.3倍です。

代表的なバフェット銘柄の米アップルや米コカ・コーラの上昇率を大きく上回ります。


出所:ブルームバーグ社


出所:ブルームバーグ社

競争優位性の評価は投資実績をみると、2つの特徴があります。
①独自の消費・サービスをもつ企業です。
②消費者から安定した需要を見込める事業モデルを強みとする企業だ。
2022年以降、買い増しを続けている米石油・ガス大手のオキシデンタル・ペトロリアム社が、上記の2つとも当てはまります。

商社は、人々の暮らしに欠かせない資源やエネルギーなど「上流」での事業に加えて、消費者に近い「下流」で食料や医療などを扱います。

安定需要を見込める分野への投資や資産入れ替えを積極的に行う世界で類を見ない事業モデルを築いています。

バフェット氏は、商社の安定成長の潜在力を評価しているとみられます。

商社、脱炭素やデジタル分野の収益化が課題

バフェット氏は長期保有を基本としますが、期待に応えるには、持続的な成長を示す必要があります。試金石は、再生可能エネルギーなどの脱炭素やデジタル分野の育成であります。

三菱商事は、2031年3月期までに脱炭素投資2兆円を掲げ、前期までに3000億円投じました。今期以降も、既に5000億円の投資を決めました。

国内外で洋上風力発電の開発も進めており、収益に結びつけられるかが問われます。

 

脱炭素事業の質は改善しています。子会社のオランダ再エネ大手のエネコで発電資産の選択と集中をした結果、電力ソリューション事業の純利益は21年3月期比46%増の619億円になりました。

市況に左右されない非資源分野の事業の収益力向上も重要となります。

伊藤忠は、消費者ニーズを事業化につなげる「マーケットイン」戦略の下、デジタルトランスフォーメーション(DX)に注力し、非資源事業の利益が、2021年3月期の3000億円程度から6000億円規模まで増えました。


出所:ブルームバーグ社

三菱商事の天然ガス事業と金属資源事業の資源系を除いた純利益は、2021年3月期に比べて7倍以上の5708億円に増えました。

三井物産はマレーシアの病院グループIHHヘルスケアの収益力を強化し、生活産業部門の純利益が4倍超に増えました。

Ⅳ. チャート(日米の株価と為替)2023年6月29日時点 
 出所:ブルームバーグ社


1.米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)
(5年間) 年初来の騰落率2.4%上昇



2. アメリカドル(5年間)



3. 日経平均株価(5年間)
 年初来の騰落率   25.6%上昇

 

以上





<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

■■■■■ 著 作 権 な ど ■■■■■

著作権者の承諾なしにコンテンツを複製、他の電子メディアや印刷物などに再利用(転用)することは、著作権法に触れる行為となります。また、メールマガジンにより専門的アドバイスまたはサービスを提供するものではありません。貴社の事業に影響を及ぼす可能性のある一切の決定または行為を行う前に必ず資格のある専門家のアドバイスを受ける必要があります。メールマガジンにより依拠することによりメールマガジンをお読み頂いている方々が被った損失について一切責任を負わないものとします。


その他関連サービス

研修一覧:https://www.nichizei.com/nbs/seminars/


 

このページの先頭へ
  • 税理士報酬支払制度
  • 各種研修会・セミナー
  • 会員制サービス
  • コンサルティング支援サービス
  • 情報提供サービス