日税FPメルマガ通信 第386号

 

Ⅰ. 日本経済コロナ後の経済再開の動き 回復期待が高まる
  株価は33年ぶりの高値

1.上場企業、逆風下の最高益 24年3月期は稼ぎ頭の業種が交代

2023年の後半は、日本企業の業績が逆風下でも拡大しそうです。2024年3月期の純利益は、前期比2%増えました。これは、3期連続で最高益を更新する見通しです。

また、資源高などの一服で前期好調だった商社や海運が落ち込み、全体の増収率も1%と前期(17%)から下がります。しかし、日本の主力産業の1つである自動車業界の生産が回復しております。


東証プライム上場企業のうち、前期と比較可能な2024年3月期の業績予想では、2023年3月期の上場企業の純利益は、前の期より2%増え、その中で製造業が8%減、非製造業が14%増でした。なお、2024年3月期は非製造業が利益横ばいの一方で、製造業は4%の増益を確保する見通しです(非製造業と製造業が逆の状況に)。

しかし、景気後退の懸念により、製造業の中でもスマートフォンやパソコン出荷が低迷し、設備投資関連業種は苦戦が続いています。また、ファナックは中国などでファクトリーオートメーション(FA)機器の受注回復が遅れている他に、東京エレクトロンも「半導体メモリーメーカー」が投資を削減して影響を受けています。


新型コロナウイルス後に需要が逼迫したことで好業績を記録した業種も、今期は需要減による価格低下が逆風となります。特に、海運大手3社はコンテナ船運賃の下落で共同出資会社の収益が落ち込み、純利益が8割前後減る見通しです。

また、前期は5社中で4社が最高益を更新した大手商社も、資源価格の下落で全社が減益となりそうであります。

2023年は、欧米中銀の利上げを引き金に主要国の景気は減速していくとみて、慎重な業績見通しを出す企業が多くなっています。

トヨタ自動車はグループ世界販売が1,138万台と過去最高を計画していて、営業利益で初の3兆円を目指し、ホンダも1兆円程度になる見通しです。

供給網の混乱が収束し、半導体などの部品が確保できるようになったことで生産が正常に戻りそうです。自動車産業は裾野が広く、多くの企業が完成車メーカーの正常化の恩恵を受けています。また、高単価のセンサーなどの出荷が伸び、デンソーは6年ぶりの最高益を計画しています。

サービス業などでは、コロナ影響は残るものの、値上げなどによる採算改善効果が寄与しています。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、最高益だった2019年3月期に対して客数は8割弱にとどまりますが、客単価を高め純利益は最高益の96%の水準に回復しそうです。

2.2023年1-3月期の日本のGDP 予想を上回った

GDP年率1.6%増 1~3月、3四半期ぶりプラス 個人消費が押し上げる

内閣府が、5月17日発表した2023年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.4%増、年率換算で1.6%増でした。プラス成長は3四半期ぶりであります。新型コロナウイルス禍からの経済の正常化で、堅調な個人消費が全体を押し上げました。

2022年10~12月期は3月の改定値では前期比0.0%増のプラスでした。国際収支統計でサービス輸入が増えたことを反映し、0.0%のマイナスに改定しました。

2022年度の実質GDPは前年度比1.2%増で、2年連続のプラスでした。

内需の中でもGDPの過半を占める個人消費は、前期比0.6%増え、4四半期連続のプラスとなりました。コロナ禍からの正常化で外食や宿泊、交通などサービス関連が幅広く伸びました。

半導体の供給制約の緩和で、自動車などの耐久財は伸び幅を拡大しました。非耐久財は物価高の影響で、食品はマイナスに寄与したものの、電気の使用量が伸び全体ではプラスに転じました。

内需のもう一つの柱の設備投資は0.9%増と、 2四半期ぶりのプラスでした。企業の社用車やトラックなど自動車への投資が伸びました。住宅投資は0.2%増で、2四半期連続のプラスでした。

公共投資は2.4%増で、4四半期連続のプラスとなりました。伸び幅は前期(0.2%)から拡大しました。2022年12月成立の2022年度第2次補正予算の執行が進んだことなどが影響しました。コロナワクチンの接種費用が減少し、政府消費は横ばいでした。


また、民間在庫変動の寄与度は0.1ポイントのプラスとなりました。輸出の減少で自動車の在庫は増えました。

輸出は4.2%減で、6四半期ぶりのマイナスでした。計算上、輸出に分類する訪日客の消費が2022年10月の入国規制の緩和で伸びたものの、世界的な半導体市況の軟化で半導体製造装置の輸出が減りました。

輸入は、コロナ感染拡大による中国の経済活動の停滞などで2.3%減りました。輸出から輸入を差し引いて計算する外需はマイナスに寄与しました。個人消費など内需が拡大し、全体ではプラス成長となりました。

国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは、前年同期比2.0%上昇し、2四半期連続のプラスでした。輸入物価の上昇が一服したのに加え、食品や生活用品など国内での価格転嫁の広がりを示します。

雇用者報酬は名目で前年同期比1.2%増えました。インフレ率の方が高く、実質賃金(実質賃金上昇率:名目賃金上昇率 ― 消費者物価上昇率)は2.2%減であり、6四半期連続のマイナスとなりました。消費者物価の上昇(2023年4月は3.4%)に賃金が追いついていない状況が続いています

3.企業物価、4カ月連続鈍化もなお5%台 川下で価格転嫁

日本銀行が5月15日発表した4月の企業物価指数は前年同月比5.8%の上昇でした。伸び率は4カ月連続で鈍化し、1年8カ月ぶりに5%台まで低下しました。資源高や円安の影響が和らいだことで、市場には「今夏には5%を割る」との見方もあります。ただ食品などの川下の品目での価格転嫁は当面続きそうです。


輸入物価指数(円ベース)は、2年2カ月ぶりに前年同月比でマイナスになりました。足元で円相場は1ドル=136円程度で推移しており、円安の直接的な押し上げ圧力には一服感が出ています。輸入物価指数の石油・石炭・天然ガスはマイナス9.0%、金属・同製品もマイナス7.5%になりました。

電力やガス料金には、2023年2月以降、政府の価格抑制策が効いています

企業物価指数の電力・都市ガス・水道の前年同月比上昇率は、25.8%と3月の26.8%から鈍化しました。日銀によれば抑制策で0.7%程度、企業物価指数全体の前年同月比上昇率を押し下げています。

輸送用機器や生産用機器では、部品などの材料価格や物流費の上昇を価格に反映する動きが目立ちました

飲食料品は小麦などの原材料高を価格転嫁する動きが続いています。鉄鋼もこれまでのエネルギーコスト高が影響し前年同月比で上昇しました。

4月分は公表されている品目のうち8割超で価格が上昇しました。

足元では2023年4月の消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)でも前年同月比3.4%上昇と高水準での推移が続きます。

企業物価指数はCPI(消費者物価指数:consumer price index)の先行指標ともされます。高止まりが続けば、CPIにも上振れの要因として波及しやすくなります。

日本銀行は物価上昇率が、2023年度半ばには2%を下回るとの見方を示しています。植田和男総裁は「(2%の物価目標を達成すると)安心して言えるところまで到達していない」として大規模緩和を維持する方針です。

価格転嫁が継続してCPIを押し上げれば、先行きの物価動向や政策運営にも影響を与える可能性があります。

Ⅱ. 米国の債務上限問題とは

1.概要

米国では財務規律を守るため、国が国債を発行して借金できる債務の上限を定めています。その米国の債務が2023年1月、現在設定している法定財務上限の31兆ドル(約4030兆円)に達しました。上限引き上げまたは適用停止の合意が得られなかった場合には、債務不履行(デフォルト)に陥ることになります。

バイデン大統領は、G7広島サミット中にも離席して野党の共和党と交渉していました。

米政府が偶発的な債務不履行(デフォルト)に陥るリスクが高まっています。連邦政府の借入限度額を定めた債務上限の引き上げを巡り、バイデン政権と野党の共和党との対立が続いているためです。

米国の財務省は、資金繰りが行き詰まる「Xデー」が6月1日にも来ると警鐘を鳴らしています。

(1)なぜ、ここまで膠着しているのか
米政府の債務は拡大の一途をたどってきました。上限の引き上げはその都度、連邦議会の承認が必要となります。引き上げに失敗した場合、政府職員の給与支払いや様々な行政サービスができなくなり「政府閉鎖」に至るだけでなく、国債の元利払いができないデフォルトに陥ります。そうなれば、世界経済や金融市場への負の影響は甚大です。

合意が困難になったのは、議会で二大政党の分極化が進んだためです。

歳出削減と減税の組み合わせで「小さな政府」を実現したい共和党を中心に強硬派が増え、手厚い財政と増税を主張する民主党との対立は、この半世紀でもっとも大きくなっています。

もしも、史上初の債務不履行が現実に起これば、政権と野党はどちらも傷を負うことになります(2024年11月5日に予定されています米国の大統領選挙にも大きな影響あり)。

ただし、先に譲歩してしまうと党内の強硬派や支持団体から批判を受けます。


米政治は最後まで粘った方が勝つ「チキンゲーム」の構図にはまり込んでいいます。実際に、バイデン政権は上限問題に無条件で協力するよう共和党に要請して交渉すらしない姿勢を貫いてきました。

共和党が過半数を握る下院で、マッカーシー議長(共和党、2022年の選挙で15回目の投票で選出された)が、党内を統率しきれていない点も懸念材料であります。

マッカーシー氏は強硬派の意見を取り入れながら、バイデン政権が決めた気候変動対策を削り、低所得層向けの公的医療保険「メディケイド」の受給要件を厳しくするなど10年間で4兆8000億ドルの財政赤字を削減する歳出削減案をまとめました。その条件で2024年3月末までの時限措置で上限を停止するのか、あるいは1兆5000億ドル引き上げる内容の法案を4月に下院で可決しました。

(2)デフォルト回避の手段は
新型コロナウイルス禍に対処するための財政拡大で、債務は急速に膨張しています。2023年の1月にはすでに上限に達しましたが、財務省が政府の基金の運用を変更するなど臨時の資金繰り策で債務不履行を避けています

米国債の利払いや償還を決められた期日にできず、金融市場で債務不履行と認定されて信用の失墜を招く事態をどう避けるかが大きなポイントです。

そもそも財政改善を放棄したような姿勢が米国債の格下げにつながる懸念もあります。

(3)実際にデフォルトした時の影響は
実際に不履行になった場合、その影響は期間によって異なります。

長期間になった場合の影響は、甚大であります。米国債の大幅な格下げの影響は政府だけでなく、金融機関などに広く及びます。市場での金利上昇は自動車ローンやクレジットカードの利息などを通じて家計に打撃を与え、企業の投資は減速します。

米大統領経済諮問委員会(CEA)の試算では不履行が長期化した場合には、2023年7〜9月期には830万人の雇用が失われ、実質経済成長率は年率で6.1ポイント下押しされ、失業率は5ポイント上昇と予想されています。

米国債は「無リスク」の資産とみなされ、世界の金融取引の中核となっています。グローバルな金融機関などが、リスクをとれなくなれば市場が混乱し、新興・途上国からの資本流出を招く恐れもあります。

米国債市場では警戒が高まっています。

イエレン財務長官の警告もあり、6月初旬に満期を迎える短期国債の利回りが、その前後の時期に比べて目立って上昇しています。



米経済はただでさえ高インフレを背景にしたFRBの歴史的な利上げで銀行が相次ぎ破綻し、景気後退の到来が予想されています。

協議がまとまらなければ、来月にもアメリカ国債が歴史上初めて債務不履行に陥るおそれがあり、経済の急速な後退などが懸念されています。

イエレン財務長官は、「債務の上限が引き上げられず債務の不履行に陥れば、社会保障の受給者や退役軍人、軍人の家族などの給料が支払われなくなり、多くの雇用とビジネスを破壊する不況に陥る可能性がある」と述べました。

また、「アメリカの国債市場は世界の金融システムの根幹を担っており、国債の元本や利息がすべて期限内に支払われることについて世界は疑ったことがない」とした上で、「債務不履行に陥れば金融システムの基盤にひびが入って世界的なパニックを引き起こし多くの金融市場が崩壊する可能性がある」と指摘しました。

さらに、2011年は債務の不履行がぎりぎりのタイミングで回避されたものの、政府・与党と野党の瀬戸際の駆け引きが史上初めてのアメリカ国債の格下げを招いたことを引き合いに出して、議会に対し一刻も早く対応するよう改めて強く求めました。

2.万一、米国が債務不履行に陥った場合の影響は

(1)経済的な影響

この中では、アメリカは歴史上、デフォルトに陥ったことはないとしたうえで、デフォルトになった場合には経済は急速に後退し、損失の大きさはその期間によって決まるとしています。

(2)財務長官のコメント
債務上限問題をめぐって、イエレン財務長官は、G7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議(新潟市で開催)に合わせて5月11日に開いた記者会見で、「債務の不履行に陥れば経済、金融の両面で大惨事を招くことになり、アメリカの多くの人が職を失って収入も減少し、世界的な景気後退の火種になるだろう」と述べました。


そのため、議会に対し上限の引き上げなど迅速な対応を求めました。債務不履行に陥る可能性のある時期については、アメリカの議会予算局が5月12日、6月に入って最初の2週間のいずれかの時点で債務の不履行に陥る重大なリスクがあるという最新の予測を明らかにしました。

一方、財務省の特別措置などによって6月15日までの政府資金を賄うことができれば、四半期ごとに入る新たな税収などが見込めるため、少なくとも7月末までは財政運営を続けることができるという見通しを示しています。

(3)民主党と共和党の過去  債務の上限めぐりたびたび政治対立
アメリカでは民主党と共和党の間で財政規律をめぐる考え方が異なるため、この債務の上限をめぐってたびたび政治対立が引き起こされてきました。

1995年から96年にかけては当時のクリントン政権のもとで、政府・民主党と野党・共和党が歳出法案や債務の上限の引き上げで対立し、政府機関の一部が21日間にわたって閉鎖されました。

2011年にはオバマ政権と与野党の協議で最終的には債務の上限を引き上げる法律が成立し、債務不履行という最悪の事態は避けられた形になりました。

大手格付け会社の「スタンダード・アンド・プアーズ」は、政府と議会が合意した財政赤字の削減計画が不十分だとして、アメリカ国債の格付けを引き下げ世界の金融市場に大きな動揺が走りました。

また、2013年には再び政府機関の一部閉鎖につながる事態となりました。

当時のオバマ大統領が野党・共和党に対し、予算案を可決するとともに、政府の債務の上限を引き上げるよう求めましたが、共和党は予算案にオバマ政権が推進する医療保険制度改革の延期を盛り込むよう主張して、対立が長期化したためでした。

アメリカの現在の債務の上限は31兆3800億ドル余りで20年前の7兆3800億ドル余りと比べて4倍以上となっています。

アメリカの国債は信頼性が高い安全な資産とされ、世界中の投資家や外国政府が保有していて、重要な資産運用先となっていることから、バイデン大統領と野党・共和党側との協議の行方が注目される状況が続きます。

イエレン財務長官は5月16日、地域の金融機関などでつくる団体のイベントで講演しました。この中で、イエレン財務長官は「債務の上限が引き上げられず債務の不履行に陥れば、社会保障の受給者や退役軍人、軍人の家族などの給料が支払われなくなり、多くの雇用とビジネスを破壊する不況に陥る可能性がある」と述べました。

2011年は債務の不履行がぎりぎりのタイミングで回避されたものの、政府・与党と野党の瀬戸際の駆け引きが史上初めてのアメリカ国債の格下げを招いたことを引き合いに出して、議会に対し一刻も早く対応するよう改めて強く求めました。

Ⅲ. チャート(日米の株価と為替)出所:ブルームバーグ社

1. 米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)
  2023年5月22日時点(5年間)
  年初来の騰落率 0.8%上昇


2. アメリカドル
  2023年5月22日時点(5年間)


3. 日経平均株価
  2023年5月22日時点(5年間)
  年初来の騰落率 18.0%上昇

  5月19日:2021 年9月14日につけた
  バブル経済崩壊後の高値(3万0670 円)
  を上回り、1990年8月以来およそ
  33年ぶりの高値に。


以上




<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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