日税FPメルマガ通信 第384号

 

I. IMF世界経済見通し 2023年4月11日に公表

1.世界経済見通しを下方修正(2023年+2.8%)前回の1月より0.1ポイント引き下げ

国際通貨基金(IMF)は、4月11日に発表した世界経済見通しで、銀行不安や金融市場の引き締まりといった金融面での問題が、世界経済の大きな下振れリスクになるとの警鐘を鳴らしました。

世界の成長率見通しは2023年が+2.8%、2024年が+3.0%とされました。2023年1月時点での前回予測からそれぞれ0.1ポイント引き下げられました。成長率の修正幅は小さかったものの、前回予測以降に生じた欧米の銀行不安や金融市場の動揺によって、IMFの世界経済の認識は、わずか数か月の間にかなり慎重になった感があります。

物価見通しについては、原油などの商品価格の下落を背景に、世界の消費者物価上昇率は2022年の8.7%から2023年は7.0%に鈍化すると見込んでいます。2023年の消費者物価上昇率は、IMF加盟国の約76%で2022年の水準を下回る見通しです。

また、2024年の消費者物価上昇率は4.9%と、さらに低下が見込まれます。
なお、多くの国での物価上昇率が目標の水準まで戻るのは、2025年以降となる見込みであります。


<ポイント>
インフレが根強い、アメリカで2つの銀行の破綻など経
 済が混乱
していると指摘しています。
・2024年の世界の成長率も、3%にとどまるとの見通しを
 示しました。

アメリカで相次いだ銀行の破綻をめぐっては、幅広い金融セクターで破綻が連鎖するおそれが高まるなどインフレを抑え込むための中央銀行による急激な利上げの副作用が明らかになったと指摘しました。

そのうえで今後も破綻が相次ぐような事態が起きれば、世界経済に重大な影響を与えるおそれがあると警鐘を鳴らしています



2.IMFは日本の経済成長率の見通しを引き下げ大幅な円安で民間投資落ち込み

・日本の経済成長率は、2023年は1.3%で前回の2023年1月時点から0.5ポイント引き下げました。その理由

については、外国為替市場で大幅な円安が進んだことなどから(2022年10月20日には、32年ぶりの一時150円台までの円安ドル高)民間投資が落ち込み、今年もその影響が続くためだとしています。また、日本でも物価が上昇しているものの世界的には非常に低い水準で引き続き金融緩和が必要になるという考えを示しています。


・アメリカの経済成長率:1.6%で前回より0.2ポイント上昇

・2023年経済成長率が先進国の90%で減速し、それにともなって2024年までの3年間の平均で、失業率が

0.5ポイント上昇すると予想


・中国は「ゼロコロナ政策」の転換以降、急速に経済活動を再開させていることを踏まえ、前回同様、5.2%

の経済成長を見込んでいます。


・インドは、5.9%と高い成長率を維持すると予想しています。


Ⅱ. 日本経済について

1.2022年の名目賃金:31年ぶりの大幅な伸び率で2.0%増

厚生労働省が発表した2022年の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によりますと、月平均の現金給与総額(名目賃金)は、2020年比2.0%増の32万6,157円となりました。

これは、31年ぶりの大幅な伸び率となりましたが、物価高騰が響いて実質賃金は減少しており、名目と実質の賃金格差が一段と開いています。

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)」より

名目賃金が伸びた背景には、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が落ち着き、経済活動も再開され、所定内給与の伸びや賞与など特別給与が4年ぶりにプラスとなったことが主因です。この名目賃金は、コロナ前の2019年の水準まで戻っております

2.景況感は非製造業中心に回復

日本銀行が4月3日発表した2023年3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回の2022年12月調査から6ポイント悪化のプラス1でした。

なお、悪化は5四半期連続であります。今後も資源やエネルギー価格の上昇を転嫁する動きが続きます。半導体市況の悪化も響きました。大企業非製造業は、感染症対策の緩和が追い風で、プラス20と前回から1ポイント改善しました。

業況判断DIは、景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値です。大企業製造業の業況判断DIはプラス1と、市場予想の中央値(プラス4)を3ポイント下回りました。資源価格やエネルギー価格の高騰が景況感を下押しする構図が続きます。

サプライチェーン(供給網)の改善や販売価格へのコスト転嫁の進展から景況感が改善した業種もみられました。特に、日本の強みである自動車産業がマイナス9と前回から5ポイント改善しました。


また、造船・重機等もマイナス8と4ポイント改善しました。
欧米の急速な利上げにより、金融不安が広がるなど海外経済の減速懸念は強いですが、原料高の一服を見込む声が聞かれました。

一方で、非製造業は経済活動の正常化で景況感の改善が続きます。大企業の非製造業の業況判断DIは市場予想の中央値と同じプラス20で着地し、4四半期連続で改善した。

企業の事業計画の前提となる2023年度の想定為替レートは、全規模全産業で1ドル=131円72銭でした。2022年度で130円75銭としていた前回調査より、先行きの円安を見込みます。足元の円相場は一時1ドル=133円前後で推移しており、想定レートより円安・ドル高水準にあります。

3.貿易赤字:過去最大の21.7兆円 昨年2022年度、資源高・円安響く
財務省が4月20日発表した2022年度の貿易統計速報によると、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は21兆7284億円の赤字でした。貿易赤字は2年連続で、赤字幅は過去最大となりました。ロシアによるウクライナ侵攻によって火力発電などに使う石炭や天然ガスの資源価格が世界的に高騰し、輸入額が膨らみました。2021年度から進んだ円安も響きました

輸出は2021年度比15.5%増の99兆2264億円、輸入は32.2%増の120兆9549億円でした。輸出、輸入とも過去最高を記録しました。

輸入増は資源価格の高騰に円安が拍車を掛けました。円の対ドル相場が2021年度平均の1ドル=111円91銭から、2022年度は135円05銭と大幅な円安に振れました。


4.日本政府観光局が発表:3月の訪日客数は181.7万人(コロナ前の66%に)
日本政府観光局(JNTO)が、4月19日に発表した2023年3月の訪日客数は181.7万人と、コロナ前の2019年3月の66%に戻りました。非製造業は新型コロナの収束による経済再開の動きや訪日外国人客によるインバウンド消費の回復が寄与したとみられます。

非製造業はコロナ禍により大きな打撃を受けましたが、経済再開に伴い宿泊・飲食サービス業や対個人サービスの回復が顕著になっています。今後は、訪日外国人客増加によるインバウンド回復が期待されます。

国・地域別では米国が20.3万人(2019年比15%増)、ベトナムは5.3万人(12%増)、中東は1.2万人(5%増)で、コロナ前を上回りました。このまま順調にいけば年間2,000万人超に届きます

さらに、1人当たりの消費単価が上がり(コロナ禍前よりも25%程度多い約21万円)、2023年の訪日客消費の「コロナ前」水準の回復も視野に入ってきました。

単月で150万人を超えたのは、2020年1月以来となります。前月比では23%増、前年同月比では27.5倍でした。中国は前月の2倍の7.5万人となりました。3月1日に中国からの渡航者に対する水際対策を緩和し追い風となりました。


Ⅲ. 世界経済の重要トピックス

1.米製造業、5ヵ月連続「不況」 3月景況感 新規受注や雇用低迷

米国サプライマネジメント協会(ISM)が、4月3日に発表しました3月の米製造業景況感指数は前月から1.4ポイント低い46.3でした。好不況の節目である50を5カ月連続で下回りました。新規受注や雇用環境を示す指数が低迷しており、米国の製造業は依然として弱含みの状態です。

2023年2月に前月比プラスに転じましたが、逆に3月は悪化しました。調査対象の企業からは「事業は低迷しており、顧客の注文は新型コロナウイルス下より前の水準に戻っていない」(衣料・革製品)との声が上がりました。


2.米国の物価

米労働省が4月12日発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比の上昇率が5.0%となり、9カ月連続で鈍化しました。

エネルギーと食品を除くコア指数の上昇率は、市場予想通りの5.6%で、2023年2月の5.5%からやや大きくなりました。

総合指数の伸びが大幅に縮んだ背景には、2022年に起きたエネルギー高などに伴う物価高騰の裏返しという側面があります。


米国エネルギー情報局(EIA)によりますと、全米平均のガソリン価格は3月に1ガロン(およそ4リットル)3.4ドル程度で推移しました。2022年6月にかけて1ガロンあたり5ドル超まで急騰した反動で大幅なマイナスになります。

3.米国の金融システム不安が重しに:3月に2つの銀行が破綻
2023年3月以降はシリコンバレー銀行やシグネチャー銀行の経営破綻が生じ、4-6月期以降の景気不透明さが増しています。米銀破綻後は、官民による金融システム安定化に向けた迅速な対応がとられました。一方で、中小銀行から大手行やマネーマーケットファンド(MMF)への資金の移動もみられました。預金流出を通じた貸し渋りへと繋がるかが今後の焦点であります。
銀行への不安が高まるなか、3月21-22日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.25%pt利上げが実施され、FF金利の誘導目標は4.75%~5.0%となりました。米連邦準備理事会(FRB)は、インフレ抑制姿勢を堅持した一方、ハト派寄りの印象もうかがえました。
銀行システムの健全さに言及しつつ、信用悪化が経済・雇用・インフレを下押す可能性やその影響の不確実性が、指摘されました。先行きの金融政策も「幾らかの追加的な政引き締めが適切」とし、継続的な利上げが適切との表現が和らぎました。

米国でも安全志向の投資家も多いです。米投資信託協会(ICI)によると3月29日時点のMMF(マネー・マーケット・ファンド:価格変動リスクが比較的低い)残高は、5兆1980億ドルに膨らみました。

過去1カ月間の流入額は3,000億ドルを超えました。直近1週間のデータをみると流入の勢いはやや鈍化したものの、600億ドル超の資金が入りました。MMFへの資金流入は金融システム不安がきっかけであります。米シリコンバレーバンク(SVB)などの経営破綻が相次ぎ、米中小銀行の預金口座から資金が流出しています。米JPモルガン・チェースなど大手銀行への預金シフトが起きたほか、MMFにも一部マネーが流れています。


4.中国経済について
2023年前半の中国景気は強めの拡大へ:個人消費回復が年前半の景気をけん引

中国経済が持ち直しています。国家統計局が4月18日発表した1~3月の実質国内総生産(GDP)は前年同期比4.5%増と、1年ぶりの高い伸びとなりました。新型コロナウイルスを抑え込む「ゼロコロナ」政策が終わり、旅行や外食などサービス消費が増えました。対照的に耐久財などモノの消費は振るわなかったです。景気の持続的回復は、雇用の改善がカギを握ります。

3月開催の中国全人代(日本の国会に相当)で、2023年の経済成長率目標が+5.0%前後に決まりました。今年は1-3月期を含め前半に強めの伸びとなれば、通年で5%台後半に達する可能性は高いとみます。特に、市場を安堵させたのが個人消費の動きです。昨年末のゼロコロナ解除が奏功し、レストランなど外食関連が急回復、こうしたサービス消費回復の持続性に期待が高まります。

Ⅳ. チャート(日米の株価と為替)
2023年4月21日時点 出所:ブルームバーグ社

1. 米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)(5年間) 年初来の騰落率 2.0%上昇


2. アメリカドル(5年間)


3.日経平均株価(5年間) 年初来の騰落率  9.2%上昇


以上



<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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