1.概要 1年ぶりの上方修正
2023年の成長率の上方修正は、1年ぶりであります。2022年1月時点では3.8%としていましたが、2022年2月のウクライナ 危機に続く歴史的な高インフレと金融引き締めを受けて見通しの引き下げが続いていました。また、昨年10月時点では、2.7%と3四半期連続で下方修正でした。
2023年の上方修正は、名目ベースで約18兆ドルと世界2位の中国の2023年の成長率が、0.8ポイント上方に
見直されて5.2%になったことが大きな理由です。
新興・途上国の全体でみても成長率は0.3ポイント引き上げられて4.0%となり、「2022年中に底を打った」という見方であります。
その背景は、米国では2022年後半の需要が強かったためであります。回復軌道に戻るのは2024年後半からで、同年は利上げの効果を反映して従来予想より0.2ポイント低い1.0%となりました。
その理由は、2022年12月に成立した2022年度第2次補正予算など財政出動の拡大によるものです。 また、円安による企業利益の増加や当初の事業計画が後にずれることが、企業投資を後押しするとも指摘されました。
当面は、米国株は弱含みの展開を想定します。FRB高官のタカ派発言を受けて市場の早期利上げ打ち止めへの期待が剥落しつつあり、米国株の重しとなる見通しです。
一方では、好決算を発表した企業への物色は継続するとみられています。
市場予想を大幅に上回った1月の雇用統計をきっかけに、FRBによる利上げ長期化への警戒感が高まっています。
ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、「経済指標によっては、政策金利は最終的に5.4%かそれ以上になる必要がある」とタカ派姿勢を強調しました。
これらを受け、市場では今年2023年6月会合での追加利上げの可能性が織り込まれ始めています。
足元では、ガソリンや中古車の価格が再上昇(インフレが継続)しており、高インフレ定着への懸念が株価の上値を抑えています。
一方では、S&P500企業の66%が決算発表を終え、決算シーズンは佳境に入りました。
利益成長率の見通しは足元でマイナス2.9% まで切り下がり、企業業績には陰りが見えます。
バイデン大統領は、2月7日の一般教書演説で、「強靭な経済には最高のインフラが必要だ」と発言しました。すでに2万以上のプロジェクトで政府が資金提供を実施しており、インフラ関連企業にとっては、良好な事業環境が続いています。
特に、建機などの資本財や工事関連サービスを手掛ける企業を中心に注目されています。
非農業部門の求人件数(季節調整済み、速報値)は1,101万2,000件でした。
下方修正された前月11月の改定値から57万2,000件増え、2022年7月以来の高水準となった。増加は3カ月ぶりであります。市場予測(1,030万件)を上回りました。
2022年12月は宿泊・外食サービスの求人件数が前月から40万9000件増えました。小売りサービスも13万4000件、
建設業も8万2000件それぞれ増えました。一方で、情報サービスは前月から10万7000件減りました。
求人件数が1,100万件台に乗せるのは5カ月ぶりです。米労働市場の需給は、依然として逼迫(特に飲食とホテル業)しています。
人手不足や賃金上昇を警戒する米連邦準備理事会(FRB)は、インフレ抑制のため急ピッチの利上げをしてきました。
インフレは鈍化傾向が目立ってきましたが、労働市場は構造的な人手不足に直面し、需給の逼迫が長期化するがあります。
2022年度の物価見通しを2022年10月公表時点の2.9%から3.0%に、24年度は1.6%から1.8%に引き上げました。2023年度は1.6%のまま据え置きました。足元では政府・日銀が掲げる2%の物価目標を上回って推移していますが、政府による電気・ガス料金の負担緩和といった経済対策もあり効果が出てきております。
家計部門では、2022年12月の消費は、前月から小幅に増加し、雇用環境も回復傾向が継続しました。
家計調査ベースで見た二人以上世帯の実質消費支出は前月比▲2.1%でしたが、家計調査の結果を複数の統計で補正したCTIマクロで見ると同+0.1%でありました。
雇用関連指標のうち、完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.35倍といずれも前月から横ばいでしたが、失業者数は小幅に減少し、就業者数は増加しました。
エネルギー高への対策により、2023年1月から9月の物価の上昇率は1.2%程度押し下げられると試算されます。
2023年の春闘では高水準の賃上げが実現する可能性があります。
日本が維持してきた国内総生産(GDP)で世界3位という地位が危うくなってきています。長引くデフレに足元の急激な円安・ドル高が加わり、ドル換算した名目GDPで世界4位のドイツとの差が急速に縮まっています。世界最大の人口大国になったもようのインドも猛追しており、世界経済で日本の存在感はしぼみつつあります。
日本は1968年に国民総生産(GNP)で西ドイツを抜き、資本主義国で米国に次ぐ2位となりました。20年前の2002年には日本の名目GDPは4兆1800億ドルと、ドイツ(2兆800億ドル)の2倍以上の規模がありました。
2国間の差が縮まった大きな要因が、円安ドル高であります。2022年は米国の利上げでドル高が進み、円相場は対ドルで一時32年ぶりの安値(2022年10月21日には151円)をつけました。ユーロ相場も対ドルで下がったが、円相場の方が、下落幅が大きかったです。
資源高や新型コロナウイルス感染拡大をうけた供給網の混乱で世界ではインフレが進行しました。日本は内需の弱さから価格転嫁が広がりきらず、国内物価の伸びが限定的でした。
政府は2月14日、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を次期日銀総裁に起用する人事案を国会に提示しました。
10年続いた異次元緩和で、発行済み国債の半分を日銀が買い占めるという異常事態を招き、市場のゆがみも限界に近づいてきた。市場や経済へのショックを避けつつ、どう政策を修正していくのか、金融政策の正常化に向けた「軟着陸」が新体制に託されます。歴代最長の10年間、日銀総裁を務めた黒田東彦さんの後継者に、政府は初めて学者出身である植田さんを推薦されました。異次元緩和の10年で日銀の国債保有額は4倍超となりました。また、上場投資信託(ETF)購入で、日銀が多くの企業の主要株主になるというひずみも生まれました。
植田新総裁に期待されるのが、膨れあがった副作用を取り除くための異次元緩和の修正であります。投機筋はそのタイミングを見計らって国債を売り浴びせようと構えています。植田新総裁は就任初日から市場との戦いに身を投じることになります。
植田新総裁の起用が伝わると、債券市場は売りで反応しました。長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは2月14日、連日で日銀が上限とする0.5%を付けました。
1. 日経平均株価(225種):
2月17日時点(5年間)
2023年の騰落率 5.4%
2. ニューヨークダウ(米国):
2月17日時点(5年間)
2023年の騰落率 2.0%
※ 政策金利の上昇で
日本よりも上昇率が低い
<ご参考>
中国が保有する米国債の減少が続いています。2022年12月末の保有額は8670億ドル(約116兆円)と、12年半ぶりの低水準になりました。米金利上昇(債券価格は下落)の影響に加え、米中の対立がくすぶるなか、中国が外貨準備で抱えるドル建て資産を減らす「ドル離れ」を加速している可能性があります。
米財務省が2月15日発表した内容では、中国の保有額は5カ月連続で前月を下回りました。2021年末から1年間の減少額は1732億ドルで、16年(1876億ドル)以来、6年ぶりの大きさであります。比率でみると17%減っており、海外勢全体の減少率(6%)を大きく上回りました。
保有する国債の時価が目減りしたほか、金利上昇による損失を避けようと保有規模を圧縮したとみられます。市場では「ウクライナ侵攻後のロシアへの金融制裁を踏まえた政治的な動き」(米債券運用大手のストラテジスト)との見方も多いです。米国は、ロシアの外貨準備を凍結するなどして、ドルの利用を封じる措置をとりました。米国に覇権争いを挑む中国も制裁リスクへの警戒を強め、脱ドル依存を探っております。
<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。
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