日税FPメルマガ通信 第374号

 

Ⅰ. 世界の経済について

1.国連推計で世界人口80億人に、増加率が戦後初の1%割れに

◎経済成長 = 人口の増加 × イノベーション

世界の人口が、2022年11月15日、80億人の大台に到達した。国連の推計によると、70億人に達した2010年から12年間で10億人増えた。出生率の低下などで人口増加率は鈍化が進んで、2020年に戦後初めて1%を下回った。新興国を含めて幅広い国々で少子高齢化が進む中、持続的な経済成長の実現が今後の世界経済の課題となる。

国連では、高齢化や人口減少に対応した包摂的な社会の構築を呼びかける。



国連の中計では、次の大台の90億人に到達する次の節目は2037年になる見通しである。80億人から90億人に増えるのに、約15年かかる見込みである。なお、70億人から80億人が12年かかったことに比べてスピードが緩む。90億人から100億人にはさらに21年かかる見通しである。

また、2022年時点のインドの人口は、14億1200万人で、中国の14億2600万人に迫っている。2023年には、インドの人口が中国を上回り、世界最多になる見通しである。



2.インフレの鈍化の予測のなかでの世界の経済

米商務省の経済分析局(BEA)は、2022年7-9月期のGDP統計(1次速報値)を公表した。
7月から9月期の実質GDP成長率は、季節調整済の前期比年率1で+2.6%(前期:▲0.6%)と3期ぶりにプラスに転じた。また、市場予想の+2.4%も上回った。

特に、個人消費が前期比年率+1.4%(前期:+2.0%)と前期から伸びが鈍化した。
住宅投資においては、▲26.4%(前期:▲17.8%)とマイナス幅が拡大した。
また、在庫投資の成長率寄与度も▲0.70%ポイント(前期:▲1.91%ポイント)と前期からマイナス幅は縮小したものの、成長率を押し下げた。

3.世界経済が失速:中国の経済成長が3%台、米欧は後退予測広がる

世界経済の失速が気になってきた。特に、中国では新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策などの影響で2022年の成長率見通しが年初の予測を2ポイント近く下回り、3%台になっている。

直近2022年10月においては、消費が減少に転じた。また、米国と欧州では歴史的な物価高で急速な利上げを迫られ、2022~2023年に景気後退に入るとの予測が広がる。また、日本は7~9月期に4四半期ぶりのマイナス成長に陥った。


2022年の中国の実質成長率は3.3%だ。年初の予測から1.8ポイント下がった。上海市の封鎖(3月28日から5月末までの約2か月間)などで春に景気が急激に悪化した後、夏場に出てきた持ち直しの兆しが足元で再びしぼむ。

中国国家統計局が、11月15日発表した10月の小売売上高は前年同月比0.5%減った。マイナスは2022年5月以来である。全体の1割を占める飲食店収入が8%減ったほか、家電、衣類などが軒並み落ち込んだ。

また、インフレ鈍化により安定を取り戻し始めた米国の株式市場はインフレのピークアウト観測の浮上により安定を取り戻し始めている。
11月10日に公表された10月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比+7.7%と、市場予想を下回ったことで、足元でインフレ加速と一段の金融引き締めへの懸念が後退しつつあるとみられる。

具体的には、2022年10月CPIでは食品・エネルギーを除くコアが前月比+0.3%と大きく下振れた。特に、住居費の高い伸びを含むサービス価格を財価格が相殺する構図が見え始めた。

※今後のインフレの行方のカギとなる住居関連:2022年10月も前年同月比+6.9%と高い伸びを示している。しかし、足元の米国の賃貸住宅市場では家賃上昇率の鈍化が顕著となっており、今後は住居費にも家賃上昇率の鈍化の影響が遅れて現れる可能性も大きい。


なお、FRBはインフレ鈍化に向けた「説得力のある証拠」として数回分の平均を重視する。しかし、先行きのインフレ鈍化をすぐに楽観はできないのが現状である。

市場予想では、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅を0.5%に縮小し、2023年2月と3月のFOMCで0.25%ずつの利上げを行ったのち、米国の利上げ局面は終了(米国の金利の着地点であるターミナルレートは、5.5%程度)を迎えるとの見方が大勢を占めている。

米10年国債利回りに関しても、終盤に入る利上げ局面や今後の景気後退リスクの高まりなどを見据えて、2023年には長期金利の低下が進むと予想されている。
なお、2022年10月単月の指標だけで米国のインフレが、本格的な鈍化基調に転じるかを判断するのは時期尚早とみられ、今後も物価関連指標(米国の10月の消費者物価:前年比7.7%上昇、前月の9月は8.2%上昇)に市場の注目が集まると考えられる。

米国の企業の2022年第3四半期の決算動向については、売上高と一株当たり利益が市場予想を上回る銘柄の比率が低下傾向にあるなど、業績の低迷が続いている。
2023年の一株当たり利益の市場予想は、引き続きハイテク企業を中心に下方修正が進んでおり、業績予想の底入れは依然として確認されていない。
このような中、米国のテクノロジー・セクターでは、今後の景気後退リスクを見据えた雇用削減公表の動きが広がりつつある。雇用削減の拡大は、短期的には景気減速の要因となる一方、企業業績にはコスト削減による利益率の改善が期待されます。

また、米国の2022年10月の失業率は3.7%(9月は3.5%)へ悪化した。もっとも、失業率が歴史的な低水準(米国は転職や季節労働者が多く、通常の失業率は4%から5%と日本と比較して高い)である状況は変わらない。労働需給の逼迫緩和には更なる求人件数の減少・失業者の増加が不可欠である。

4.為替

日米金利差と米ドル円は、日銀の金融緩和修正期待の後退による円安や、円買い介入による円高が影響して一時的に連動性が低下した局面もあった。

2022年12月のFOMCでFRBの利上げペースが減速するとの観測が浮上した10月下旬以降、5年や10年の米国債金利の上昇が鈍っている。

※日米5年国債金利差が4.0%なら米ドル円は、145.1円を中心に139.6~150.6円、4.4%なら149.9円を中心に144.4~155.4円に収まりやすい。また、米金利上昇・リスクオフ局面では、米ドル円が上昇しても推計値(中央値)を大幅には上回りにくい傾向もある。したがって、日米5年金利差が4.4%までの拡大にとどまれば、米ドル円は150円を超えにくいと考えられる。

Ⅱ. 日本経済は2023年に回復の方向に

1.日本経済の現状

日本の7月9月期の実質GDP成長率は、前期比年率▲1.2%と4四半期ぶりのマイナス成長となった。新型コロナ感染拡大の影響で消費が減速したほか、輸入の増加がマイナスに寄与した。10月12月期以降は、経済活動再開の本格化やインバウンド消費の復活により再拡大を見込む。

自動車の生産回復が期待されるほか、為替の円安進行や米中の2つの大国の分断への懸念などから生産の国内回帰の動きも期待される状況となってきた。

米国の利上げペースの鈍化の方向への期待が影響した。しかし、グローバルに景気悪化リスクがある中、水際対策の緩和によるインバウンド回復期待など分かり易いプラス要因がある点は強みであり、不確実性上昇時に選好され易いと考える。

米国では家賃や賃金の上昇、欧州では天然ガスなどエネルギー価格上昇等によりインフレが進行し金利が大幅に上昇するなど、景気の先行きに対する不透明感が高まっている。

また、中国では不動産価格下落や「ゼロコロナ」政策などによる景気の停滞が続いている。一方、日本は経済活動の再開が本格化しつつあり、インバウンド消費回復や自動車の挽回産などが期待され、相対的に優位な状況にある。


内閣府が2022年11月15日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.3%減、年率換算で1.2%減だった。マイナス成長は4四半期ぶりである。個人消費は新型コロナウイルスの第7波などの影響で伸び悩み、前期比0.3%増にとどまった。市場ではプラス成長が続くとの見方が大勢を占めていた。マイナス成長に転落した主因は外需である。前期比の寄与度はマイナス0.7%。GDPの計算で差し引く輸入が5.2%増え、全体を押し下げた。特にサービスの輸入が17.1%増と大きく膨らんだのが響いた。




日本では、内需も低調で、寄与度は前期のプラス1.0%から0.4%に鈍化した。特に、日本のGDPの約6割を占める個人消費は前期比0.3%増にとどまった。新型コロナの流行第7波が直撃し、交通や宿泊関連などのサービス消費が伸び悩んだ

耐久財は3.5%減と2四半期ぶりにマイナスに沈んだ。家電やスマートフォンなどが物価上昇の影響もあって振るわなかった。

内需のもう一つの柱である設備投資は1.5%増であり、2四半期連続で伸びた。企業がコロナ禍で持ち越した分の挽回も含め、デジタル化や省力化の投資を進めている。

住宅投資は0.4%減で5四半期連続のマイナス。建築資材の高騰が影を落としている。公共投資は1.2%増と2四半期連続で増えた。2021年度補正予算や2022年度当初予算の執行が進んだ。コロナワクチンの接種費用を含む政府消費は横ばいだった。




2.物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策について

日本政府は、2022年10月27日に、財政支出39兆円、事業規模71.6兆円の「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を閣議決定した。
この経済対策により実質GDPを4.6%程度押上げるとしているが、電気・ガス代の抑制や新型コロナ対策は家計の支出増に直結するものではない

最近の景気減速の背景には、輸入物価の上昇の価格転嫁により食料やエネルギーなどが大幅に上昇している。穀物やエネルギー等の商品市況は、上昇が一服となっており、物価動向は為替相場の変動によるところが大きい状況となっている。

また、最近は資源高による輸入増の影響もあり貿易収支が悪化し、円安に作用してきた。

Ⅲ. チャート(日米の株価)出所:ブルームバーグ社

1. 日経平均株価(225種):
2022年11月29日(5年間)
年初来騰落率 ▲1.8%

政策金利を上げない日本:下落率が低い
(黒田日銀総裁のコメント)




2.ニューヨークダウ(米国):
2022年11月29日(5年間)
年初来騰落率 ▲5.9%





<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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