日税FPメルマガ通信 第372号

 

Ⅰ. 世界経済の現状と見通し

1.IMFの予測 日本:2022年は前回と同様で1.7%の成長、2023年は1.6%の成長

IMF(国際通貨基金)は、10月11日に2023年の世界の実質成長率予測を2.7%と、前回の7月から0.2ポイント下げた。この時期に公表する翌年の見通しで3%割れを見込むのは2000年以降では初めてである。この半年での下方修正の幅は、リーマン危機時を上回る。新型コロナウイルス禍からの回復局面が暗転し、世界経済の3分の1が景気後退に陥ると見ている。なお、先進国の成長率は、前回よりも0.3ポイント下げて1.1%とした。コロナ禍とリーマン危機の時期を除くと41年ぶりの低水準だ。




特に、厳しいのがユーロ圏であり、2023年は、0.5%と0.7ポイントも下げた。また、米国は2022年が1.6%と0.7ポイントの下方修正になり、2023年も1.0%へ減速する。中国は2022年に3.2%とコロナ禍を除けば過去40年で最も低くなり、2023年も4.4%にとどまる。

今後の大きな問題は、世界的にインフレ圧力が強く、景気刺激のための利下げには、当分の間は転換できないことにある。

世界の高いインフレ率は長引き、IMFは2024年も4.1%と高い水準になると予想する。インフレ抑制の利上げが続けば、信用力の低い企業は、さらに資金調達が難しくなる。

2.米国の経済の現状

(1)米国:米消費者物価、9月8.2%上昇 伸び鈍化も高水準続く

米労働省が、10月13日発表した9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.2%上昇した。伸び率は約40年半ぶりの大きさとなった6月の9.1%から3カ月連続で縮んだが、高い水準にある。

今後も大きな物価上昇が続けば、利上げの観測が強まり、日米の金利差が開いて円売り・ドル買いの動きが強まる。米国のインフレが日本を含む世界経済の不安要因になっている。


(2)米国の問題点:変動の激しいエネルギーと食品を除く指数の上昇率は6.6%

市場予想では6.5%の上昇だった。賃金の上昇とともに家賃などのサービス価格が上昇しており、インフレは一段と根深くなっている。

米連邦準備理事会(FRB)が、9月に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、参加者がこの認識で一致した。FRBによる見通しを上回る物価上昇が続いており、上昇率がピークを付けたという判断を早期に示さないように注意を払っている。

米国では新型コロナウイルス禍が収まって旅行や外食などのサービス消費が増えると、モノの消費は減速して物価も下がるとの見方があった。しかし、労働力不足(要因:感染を避けるために高齢層が退職したことや、子どもの感染や学級閉鎖によって子育て世代の女性が職場復帰しにくく、退職を選択し労働市場から退出したまま戻らず非労働力人口となる人が増加した。トランプ政権時の移民受け入れの厳格化策やその後のコロナ禍により、移民流入数が減少した等)の解消に時間がかかっており、モノの値段も下がりにくいという。住居費が力強く上昇し続けているほか、賃金上昇がサービス価格を全般的に押し上げた。

(3)米国の失業率は改善に

9 月雇用者数は前月比+26万人と堅調に増加したほか、失業率は3.5%と前月の3.7%から低下した。超過需要状態が継続する限り、賃金上昇率は高い伸びを継続する公算が大きい。
米国ではCPIの上振れを受けて、2023年末の政策金利見通しを5.25%(2022年は4.50%から4.75%)、長期金利見通しを3.6%へと上方修正した。

3.日本の経済の現状

IMFが発表した2022年10月世界経済見通しでは、日本の2023年実質GDP成長率見通しは前回比0.1%ポイント引き下げられ1.6%となった。しかし、他の地域の 見通しも下方修正されたため、主要先進国の中では 最も高い成長(日本の政策金利が低いままのため)が見込まれている。遅れていた新型コロナウイルス影響からの回復が進んでいるが、為替の大幅な円安進行による輸入物価上昇のマイナス影響により、成長が加速する状況とはなっていない。

日本の経済の実力が下がるなか、日本は日銀の超低金利政策への依存を強めるようになった。低金利が常態化することで、本来であれば淘汰されるべき収益力の低い企業が生き残るようになり、競争力のある企業に人材や資金が回りにくくなった

日銀の黒田東彦総裁が、大規模緩和の維持を繰り返し表明しているのは、少しでも金利を上げれば、経済が一気に冷えかねない危うさがあるためだ。

こうした姿勢は、インフレ封じのために大幅利上げを続ける米国と対照的である。米国の長期金利は10月19日に4.1%台と2008年7月以来の水準まで上昇した。日米の金融政策の違いは鮮明で、低金利の円から高金利のドルにマネーが流れやすくなっている。

    <出所:ブルームバーグ社>


4.日本の9月消費者物価:3.0%上昇 31年ぶり3%台、円安響く

 <出所:総務省>


総務省が10月21日発表した9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が102.9となり、前年同月比で3.0%上昇した。
消費増税の影響を除くと1991年8月(3.0%)以来、31年1カ月ぶりの上昇率となった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に欠かせない品目の値上がりが続いている。

なお、物価の上昇は13カ月連続である。調査対象の522品目のうち、前年同月に比べて上昇した品目は385、変化なしは46、低下は91だった。上昇品目数は8月の372から増加した。

生鮮食品を含む総合指数は前年同月比3.0%の上昇で、8月と同水準の伸びだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は1.8%上がった。

エネルギー関連は16.9%上がり、8月と同水準の伸びだった。電気代が21.5%、都市ガスが25.5%ともに上昇した。灯油は8月の18.0%を上回る18.4%の上昇率だった。ガソリンも7.0%上昇と、8月の6.9%をわずかに上回った。

       <出所:総務省>
5.円150円台、32年ぶり

円安でも輸出停滞、輸入コストは膨張 人材・資本の日本離れ招く

円相場は10月20日、じりじりと下落し目立った材料なく150円台を付けた。
かつての日本では、円安になると国内からの輸出が増え、稼いだ外貨を円に替える動きが円安のブレーキとなった。企業が製造拠点を海外に移した現在、輸出力は低下した。

資源高による輸入額の増加が勝り、円売り・ドル買いの需要が強い。貿易収支に海外投資の収益を加えた経常収支(季節調整値)は7~8月に2カ月連続で赤字となった。

  <出所:ブルームバーグ社>



円の実力低下がもたらす最大の問題は、エネルギーや食料の輸入である。日本の食料自給率は4割弱どまり。エネルギーの輸入依存度は9割にのぼる。

海外から労働力をひき付けられなくなる問題もある。円安でベトナムなどからの出稼ぎは減る可能性が指摘されている。国際協力機構(JICA)は、政府の成長目標達成には40年に現状に比べ約500万人の追加受け入れが必要とみるが、日本は出稼ぎ先に選ばれにくくなっている



日本人にとっても海外旅行は高くなった。7月時点の宿泊費や飲食費など航空券以外の現地コストは、2019年に比べて米国で4割上昇した。為替要因が27%と物価要因(13%)を上回る。

また、個人では外貨預金や海外株への投資を増やしており、約1000兆円の預金が海外に流出する懸念もじわり高まっている

為替と貿易収支は相互に影響し合いながら、本来は、円高 → 日本の貿易収支悪化 → 円安 → 貿易収支改善 → 円高 という循環を形成しやすい
しかし、最近は資源高による輸入増の影響もあり貿易収支が悪化し円安に作用してきた。

Ⅱ. 中国経済 日本の最大の貿易相手国 中国への輸出は約25%(米国へは約15%)

1.中国GDP3.9%増 通年目標達成厳しく7~9月、前期からは持ち直し

中国国家統計局が10月24日発表した2022年7~9月期の国内総生産(GDP)は、物価の変動を調整した実質で前年の同期比3.9%増えた。

前期の前年の同期比で0.4%増から持ち直した。地方政府のインフラ投資が伸びたが、新型コロナウイルス対応の移動制限が経済活動を妨げており、年間の成長率は政府目標の5.5%前後を大幅に下回りそうだ。

当初の予定では共産党大会期間中の10月18日に発表する予定だったが、直前に公表延期を発表した。新型コロナを封じ込める「ゼロコロナ」規制など政策が経済の重荷となるなか、GDPの公表が習近平総書記(国家主席)の3期目入りに不都合と判断した可能性がある。



上海市のロックダウン(都市封鎖)で景気が急激に悪化した4~6月の反動が出た

なお、工場の建設などを示す固定資産投資は1~9月に同5.9%増えた。このうちインフラ投資が前年同期を8.6%上回り、伸び率は1~6月の7.1%から拡大した。習指導部が景気回復のけん引役と位置づける地方のインフラ建設が加速した。

しかし、対照的に、2022年1~9月の不動産開発投資は8.0%減少した。販売面積の減少率が2割を超えており、マンション市場の低迷が長引いている。

1~6月の0.7%減からプラスに転じたが、全体の1割を占める飲食店の収入はなお4.6%のマイナスだった。「ゼロコロナ」政策に伴う厳しい行動制限が接触型消費を抑えつけている。

1~9月の実質GDPは前年同期比3.0%増にとどまった。中国政府が3月に掲げた2022年通年の目標である「5.5%前後」を達成するには10~12月に10%を超す成長率が必要となる。2022年は3%台にとどまるとの予測が多く、政府目標を大幅に下回るのは異例だ。

2.2022年の中国:アジア新興国を32年ぶり下回る 不動産・コロナ政策響く

不動産市場の停滞や新型コロナウイルスを抑え込む「ゼロコロナ」政策で景気の下押し圧力が強まり、政策ミスとの声も出始めた。

不動産市場の低迷が経済の打撃になっている(未完成の住宅物件が多数発生)

アジア開発銀行は、中国を除くアジア新興国の2022年の成長率を5.3%と予想する。 中国の成長率がアジア新興国を下回るのは天安門事件直後の1990年以来、32年ぶりとなる。習近平(シー・ジンピン)指導部は、共産党大会を経て3期目に入った。

2022年7~9月のGDP予測値は前年同期比3.2%増だった。上海市の大規模ロックダウン(3月28日から約2か月間の都市封鎖)の影響で0.4%増にとどまった4~6月から持ち直すものの、回復の基調は弱い。

 <出所:ブルームバーグ社>
  <出所:ブルームバーグ社>

政府支援による自動車販売やインフラ投資が支えになったが、不動産市場に好転の兆しが見られず全体として緩やかな回復になる」と指摘する。

中国の成長率は、2021年の8.1%から急減速して、5~6%とされる潜在成長率を3年続けて下回る見通しである

不動産とゼロコロナの方針が続く限り、財政政策や利下げで景気を回復させるのは至難の業と思われる。特に、中国経済の依存度が高い不動産低迷の影響は深刻である。

デフォルト(債務不履行)とプロジェクト未完成のリスクによって、住宅需要が鈍化している」と指摘。


3.石炭、なお最高値圏 ロシア産禁輸受け2年前の8倍 発電コスト増、長期化も

発電用燃料に使う石炭の高騰が止まらない。国際指標のオーストラリア(豪州)産は、9月中旬に過去最高値を付け、足元も高止まりしている。また、大きなシェアを持つロシア産がウクライナ侵攻に伴う禁輸で供給が限られるほか、天然ガス不足で代替需要が高まった。脱炭素に伴う投資不足も供給不足に拍車をかける。構造的に大幅な値崩れの可能性は低く、発電の高コスト化が長引く恐れがある。

豪州産のスポット(随時契約)価格は、2022年9月中旬に1トン440ドル超(約6万4000円)となり過去最高値を付けた。足元でも420ドル前後と、50ドル近辺だった2年前の約8倍と異例の高水準で推移する。

 <出所:ブルームバーグ社>

世界景気の減速懸念などを背景に原油や金属など他の国際商品は下落に転じ、軒並みウクライナ侵攻以前の水準まで低下した。ところが、石炭の価格については、侵攻前を大きく上回って推移するなど、他の商品の値動きと一線を画している。

Ⅲ. チャート(日米の株価)出所:ブルームバーグ社

1. 日経平均株価(225種):
2022年10月26日(5年間)
年初来騰落率 ▲6.6%

政策金利を上げない日本:下落率が低い
(黒田日銀総裁のコメント)




2.ニューヨークダウ(米国):
2022年10月26日(5年間)
年初来騰落率 ▲16.5%





<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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