IMF(国際通貨基金)は、10月11日に2023年の世界の実質成長率予測を2.7%と、前回の7月から0.2ポイント下げた。この時期に公表する翌年の見通しで3%割れを見込むのは2000年以降では初めてである。この半年での下方修正の幅は、リーマン危機時を上回る。新型コロナウイルス禍からの回復局面が暗転し、世界経済の3分の1が景気後退に陥ると見ている。なお、先進国の成長率は、前回よりも0.3ポイント下げて1.1%とした。コロナ禍とリーマン危機の時期を除くと41年ぶりの低水準だ。
米労働省が、10月13日発表した9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.2%上昇した。伸び率は約40年半ぶりの大きさとなった6月の9.1%から3カ月連続で縮んだが、高い水準にある。
今後も大きな物価上昇が続けば、利上げの観測が強まり、日米の金利差が開いて円売り・ドル買いの動きが強まる。米国のインフレが日本を含む世界経済の不安要因になっている。
日本の経済の実力が下がるなか、日本は日銀の超低金利政策への依存を強めるようになった。低金利が常態化することで、本来であれば淘汰されるべき収益力の低い企業が生き残るようになり、競争力のある企業に人材や資金が回りにくくなった。
日銀の黒田東彦総裁が、大規模緩和の維持を繰り返し表明しているのは、少しでも金利を上げれば、経済が一気に冷えかねない危うさがあるためだ。
こうした姿勢は、インフレ封じのために大幅利上げを続ける米国と対照的である。米国の長期金利は10月19日に4.1%台と2008年7月以来の水準まで上昇した。日米の金融政策の違いは鮮明で、低金利の円から高金利のドルにマネーが流れやすくなっている。
なお、物価の上昇は13カ月連続である。調査対象の522品目のうち、前年同月に比べて上昇した品目は385、変化なしは46、低下は91だった。上昇品目数は8月の372から増加した。
生鮮食品を含む総合指数は前年同月比3.0%の上昇で、8月と同水準の伸びだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は1.8%上がった。
エネルギー関連は16.9%上がり、8月と同水準の伸びだった。電気代が21.5%、都市ガスが25.5%ともに上昇した。灯油は8月の18.0%を上回る18.4%の上昇率だった。ガソリンも7.0%上昇と、8月の6.9%をわずかに上回った。
円相場は10月20日、じりじりと下落し目立った材料なく150円台を付けた。
かつての日本では、円安になると国内からの輸出が増え、稼いだ外貨を円に替える動きが円安のブレーキとなった。企業が製造拠点を海外に移した現在、輸出力は低下した。
資源高による輸入額の増加が勝り、円売り・ドル買いの需要が強い。貿易収支に海外投資の収益を加えた経常収支(季節調整値)は7~8月に2カ月連続で赤字となった。
円の実力低下がもたらす最大の問題は、エネルギーや食料の輸入である。日本の食料自給率は4割弱どまり。エネルギーの輸入依存度は9割にのぼる。
海外から労働力をひき付けられなくなる問題もある。円安でベトナムなどからの出稼ぎは減る可能性が指摘されている。国際協力機構(JICA)は、政府の成長目標達成には40年に現状に比べ約500万人の追加受け入れが必要とみるが、日本は出稼ぎ先に選ばれにくくなっている。
前期の前年の同期比で0.4%増から持ち直した。地方政府のインフラ投資が伸びたが、新型コロナウイルス対応の移動制限が経済活動を妨げており、年間の成長率は政府目標の5.5%前後を大幅に下回りそうだ。
当初の予定では共産党大会期間中の10月18日に発表する予定だったが、直前に公表延期を発表した。新型コロナを封じ込める「ゼロコロナ」規制など政策が経済の重荷となるなか、GDPの公表が習近平総書記(国家主席)の3期目入りに不都合と判断した可能性がある。
不動産市場の低迷が経済の打撃になっている(未完成の住宅物件が多数発生)。
アジア開発銀行は、中国を除くアジア新興国の2022年の成長率を5.3%と予想する。
中国の成長率がアジア新興国を下回るのは天安門事件直後の1990年以来、32年ぶりとなる。習近平(シー・ジンピン)指導部は、共産党大会を経て3期目に入った。
2022年7~9月のGDP予測値は前年同期比3.2%増だった。上海市の大規模ロックダウン(3月28日から約2か月間の都市封鎖)の影響で0.4%増にとどまった4~6月から持ち直すものの、回復の基調は弱い。
「政府支援による自動車販売やインフラ投資が支えになったが、不動産市場に好転の兆しが見られず全体として緩やかな回復になる」と指摘する。
中国の成長率は、2021年の8.1%から急減速して、5~6%とされる潜在成長率を3年続けて下回る見通しである。
不動産とゼロコロナの方針が続く限り、財政政策や利下げで景気を回復させるのは至難の業と思われる。特に、中国経済の依存度が高い不動産低迷の影響は深刻である。
デフォルト(債務不履行)とプロジェクト未完成のリスクによって、住宅需要が鈍化している」と指摘。
発電用燃料に使う石炭の高騰が止まらない。国際指標のオーストラリア(豪州)産は、9月中旬に過去最高値を付け、足元も高止まりしている。また、大きなシェアを持つロシア産がウクライナ侵攻に伴う禁輸で供給が限られるほか、天然ガス不足で代替需要が高まった。脱炭素に伴う投資不足も供給不足に拍車をかける。構造的に大幅な値崩れの可能性は低く、発電の高コスト化が長引く恐れがある。
豪州産のスポット(随時契約)価格は、2022年9月中旬に1トン440ドル超(約6万4000円)となり過去最高値を付けた。足元でも420ドル前後と、50ドル近辺だった2年前の約8倍と異例の高水準で推移する。
1. 日経平均株価(225種):
2022年10月26日(5年間)
年初来騰落率 ▲6.6%
政策金利を上げない日本:下落率が低い
(黒田日銀総裁のコメント)
2.ニューヨークダウ(米国):
2022年10月26日(5年間)
年初来騰落率 ▲16.5%
<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。
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