日税FPメルマガ通信 第370号

 

Ⅰ. 日本&世界経済とポイント

(1)日本の産業:輸出産業には少しだけプラス効果

日銀による金融緩和や、ドル高円安に伴う輸出産業(自動車や機械メーカーなど)の収益の押し上げ効果が、少しだけプラスの材料になっている。

他方、各国金融引き締めに伴う海外経済減速や、ゼロコロナ政策継続で先行き不透明な中国景気など下振れリスクが残存する点に注意が必要と考える。


(2)米国のFRBは、0.75%の利上げを決定

米連邦準備理事会(FRB)は、9月20日から21日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利(FF金利)の誘導目標レンジを現状の2.25%から2.50%⇒3回連続で0.75%引き上げ、3.00%から3.25%にすることを全会一致で決定した。

通常(0.25%)の3倍の利上げ幅(0.75%)で、6月に約27年ぶりに実施してからは3会合連続となる。高インフレの長期化(8月は消費者物価指数が8.3%の上昇)を回避するための急ピッチの金融引き締めにより、景気の悪化懸念は一段と強まりそうだ。

声明文では、景気認識に関する文言が変更され、支出・生産関連指標が緩やかに成長しているとの認識が示された。

もっとも、その他は前回の声明文の内容を踏襲しており、堅調な労働市場と高いインフレ水準に対する見方は維持された。


会合後の記者会見でパウエル議長は、利上げの減速や打ち止めを今後検討するにあたっては、トレンドを下回る経済成長の継続と、労働市場が健全な需給バランスへと向かう動きが確認できるかを重視していると説明した。また、利下げについては、インフレ率が2%に減速する強い確証が得られるまで検討しない考えを示した。
3%を超えるのはリーマン危機前だった2008年1月以来、約14年半ぶりである。
同時に公表したFOMCの参加者による2022年末時点での政策金利見通しは中央値が4.4%となった。

6月の前回見通しは3.4%だった。年内に予定される残り2回の会合で計1.25%の追加利上げが必要になるため、11月の次回会合でも0.75%の利上げが有力視される。
2023年末時点が4.4%、2023年末時点の政策金利見通しは4.6%と、前回見通しの3.8%から引き上げた

パウエル議長は、早期の利下げ転換に慎重な姿勢を強調しており、これが利上げの到達点を示す公算が大きい。なお、2024年末は3.9%、2025年末は2.9%とした。

前回3.9%だった2023年末の失業率見通しは4.4%に、2.6%としていた個人消費支出(PCE)物価指数の上昇率は2.8%にそれぞれ上方修正した。

前回見通しより景気が悪化し、インフレが長期化する見通しになっている。2023年10~12月の実質国内総生産(GDP)が、前年同期でマイナスに陥ると予測する参加者も出た。

パウエル議長は、FOMCの参加者が、インフレがさらに根強くなる可能性があるとみていることを明かしたうえで「ソフトランディング(経済の軟着陸)を達成しながら物価の安定を回復するのは本当に難しい」と話した。
また、「(利上げの)プロセスが景気後退につながるかどうか、それがどの程度になるかは誰にもわからない」とも述べた。

(3)8月の原油価格(WTI先物)

中国や世界の景気減速懸念から、一時2月上旬以来の安値を付けたものの、欧州の天然ガスの供給不安や、米国の原油在庫の減少から下支えられ、1バレル90米ドル前後で推移した。
米国ではガソリン価格の低下から需要が増加し、原油在庫は依然昨年の水準を下回って推移している。

OPECプラスは、9月に日量10万バレルの増産を行うと決定したが、7·8月の日量65万バレルずつの増産計画も達成できておらず、各国の生産は遅れている。
産油国の増産余力が限られている中、サウジアラビアは価格安定に向けて減産の可能性も示唆している。
今後も世界景気減速による需要減退懸念から上値が抑えられる一方、天然ガスの代替需要や需給の引締まり予測から1バレル90米ドル前後で推移するとみられる。

(4)日本のインバウンド 日本の政府高官が更なる水際対策の緩和を目指す方針を

その結果、空運株などいわゆる「リオープニング関連銘柄」の上昇が目立っている。

また、9月14日には財務省高官が、「あらゆるオプションを排除せず」と発言したことや、日銀が市場参加者に相場水準を尋ねるレートチェックを実施したと報じられ、介入への注目度は一段と高まった。

Ⅱ. 米国のCPI(Consumer Price Index:消費者物価指数)ショック

(1)10年国債利回りは上昇

CPI上振れを受けて、米国の10年債利回りは3.4%台へと上昇(債券価格は、下落)。9月15日に発表された各種景気指標は強弱まちまちだったため、債券市場への影響は限定的に留まった。

8月のCPIは、大幅な上振れ(8.3%の上昇)になった。総合指数は、前月比+0.1%と下落予想に反して上昇、コアCPIも同+0.6%と市場予想の同+0.3%を大幅に上回った。
その理由は、
①これまでの住宅市況高騰を受けた住居費の上昇
賃金上昇率の加速を受けた全般的なサービス価格上昇。
コア財(変動の大きい食品とエネルギーを除く)の価格の想定以上の高騰などがインフレ加速の主たる要因に。

(2)ジャンクソンホール・ショック(8月25日から27日の米国のワイオミング州での経済シンポジウム:3年ぶりに対面で)

パウエル議長は、金融当局としては、現時点で利上げの手を緩めることはできず、タカ派姿勢を維持し、期待インフレ率を抑え込むことが必要であり、緩和期待は時期尚早とコメントした。
つまり、「物価安定のため、しばらくの間は、引締め的な金融政策を継続する必要がある。」との見解を示した。 3会合連続で0.75%の大幅利上げとなった。声明文では「政策目標達成を妨げるリスクが生じた場合には、金融政策を適切に調整する。」と記載されている。
公表された経済見通しでは、2022年の失業率見通しが3.8%、2023年が4.4%と共に上方修正されました。

食品とエネルギーを除いたコア個人消費支出(PCE)価格指数見通しについても、2022年が前年同月比+4.5%(前回:同+4.3%)、2023年は同+3.1%(前回:同+2.7%)と共に上方修正された。
2023年12月においても4.6%と政策金利が高い水準で維持される見通しが示された。
サービス価格など伸び率の低下が要因であるものの、FRBが安定水準と見なす2.0%を上回る水準が続いています。

Ⅲ. 日本の企業物価指数9.0%(消費者物価指数は2.8%)上昇 円安で拍車

(1)日銀が、9月13日発表した8月の企業物価指数、前年同月比9.0%上昇した。

前年の水準を上回るのは18カ月連続である。上昇率は7月から横ばいで、1980年12月以来の高い伸びが続く。外国為替市場で円安が続き、物価高に拍車をかけているロシアによるウクライナ侵攻に伴う供給制約への懸念から原材料価格も高止まりしている。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。上昇率は民間予測の中央値である8.9%を0.1ポイント上回った。

品目別にみると、鉄鋼(26.1%)や石油・石炭製品(15.6%)、金属製品(12.3%)などの上昇が目立つ。飲食料品(5.6%)など消費者に近い商品も値上げが続く。


公表している515品目のうち、上昇したのは8割にあたる431品目だった。ウクライナ危機の長期化に伴って資源価格の高騰を製品価格に転嫁する動きが広がっている。

円安の影響も続いている。8月の外為市場では円相場が一時1ドル=139円台まで下落した。円ベースの輸入物価の上昇率は42.5%と、ドルなど契約通貨ベースの21.7%を大幅に上回った。円ベースの輸出物価の上昇率は17.0%、契約通貨ベースでは3.5%だった。
円ベースの輸入品目では、石油・石炭・天然ガスが前年の2.1倍となり、木材・木製品・林産物が38.1%、飲食料品・食料用農水産物が27.9%上昇した。

日本は輸入契約通貨の75%程度がドルなどの外貨建てとなっており、円安は円ベースの輸入物価上昇を通じて企業物価を押し上げる要因になる。
利上げを進める米国と大規模緩和を続ける日本の金融政策の違いを背景に金利が高いドルにマネーが流れ込んでいる。

米連邦準備理事会(FRB)はインフレ対応でさらなる利上げを見込み、円安が企業物価を押し上げる構図が続きそうだ。 円安や資源高を受け、7月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は2.4%上昇した。賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、家計の実質所得への下押し圧力が強まっている。

(2)貿易赤字が最大の2.8兆円 8月、資源高・円安で13カ月連続

財務省が9月15日発表した8月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆8173億円の赤字だった。

エネルギー価格の高騰や円安で輸入額が前年同月比49.9%増の10兆8792億円に膨らみ、輸出額の伸びを上回った。赤字額は東日本大震災の影響が大きかった2014年1月を上回り、比較可能な1979年以降で単月の過去最大となった。

2014年1月は2兆7951億円の赤字だった。その背景は、震災後の原子力発電所停止により火力発電所用の燃料輸入が増えたほか、同年2014年の4月の消費税の増税(5%から8%に増税)を控えた駆け込み需要も輸入額を押し上げていた。



貿易赤字は、13カ月連続である。2015年2月までの32カ月に次ぐ過去2番目の長さとなった。
なお、オーストラリアからを中心とする液化天然ガス(LNG)は2.4倍となり、石炭は3.4倍に増えた。

ロシアのウクライナ侵攻で原油価格が上昇したほか、急速な円安が輸入額を押し上げた。
輸出額は22.1%増の8兆619億円だった。18カ月連続で前年同月を上回った。
数量ベースでは1.2%減と6カ月連続の減少で、円安局面でも低迷する。部品などの供給制約が緩和されてきた自動車の輸出額は39.3%増え、中国向けなどの半導体等製造装置も22.4%増となった。

地域別では、対米国の黒字が20.7%増の4715億円と、2カ月ぶりの増加となった。自動車や自動車部品などが伸び、8月の輸出額としては過去最高となった。輸入額は単月で過去最大で、医薬品や原粗油が伸びた。

対アジアの輸入、輸出額はともに8月としては最高だった。このうち対中国もともに最高となった。中国からの輸入は衣類や通信機が増え、中国への輸出はハイブリッド車などが伸びた。対中国の貿易収支は5769億円の赤字だった。赤字は17カ月連続で、赤字額は2.7倍に増えた。

(3)抜いた日銀の宝刀の効果 24年ぶりの円買い介入について

政府・日銀が9月22日、24年ぶりの円買い・ドル売り介入に踏み切った。

円安を止めるために「伝家の宝刀」を抜き、外国為替市場では1ドル=145円台後半から140円台まで急速な円高・ドル安が進んだ。市場で観測されていた「145円の防衛ライン」以下に押し戻した格好だが、介入効果の持続性を疑問視する声も多い。

鈴木俊一財務相は、介入後の9月22日夜に財務省内で記者会見した。為替は原則として市場で決まるものだと前置きしつつ、「投機による過度な変動が繰り返されることは決して見過ごすことができない」と理由を述べた。関係者によると介入規模は「兆円単位」という。



今回は他国と足並みをそろえる協調介入ではなく、日本の単独介入だった。米財務省の広報担当者は、9月22日、2014年「米財務省は為替介入には参加していない。日本の当局は、為替介入は最近の円のボラティリティー(変動)の高まりを抑えるのが目的だと述べており、我々は日本の行動を理解している」とコメントした。

午後5時前後には、145円70銭程度だった円相場が、瞬時に1円以上、円高方向に。円安が進んでいた1998年は4月と6月に円買い・ドル売り介入を実施したものの、円安基調が終わったのはロシアに財政危機が浮上した8月だった。

しかし、政府による介入が相場の流れを変えることはできなかった
経団連の十倉雅和会長は9月22日、介入について「急速な(為替)変動を放置しないということを表明したのは意義がある」とした。為替の急変動は企業の事業計画を立てにくくするため、産業界には評価する声がある。ただ、海外のヘッジファンドは「矛盾や不合理を抱えている行動ほど、すきを突きたくなる」と話す。実弾介入という最終手段に出た政府は、泥沼の戦いを強いられる可能性がある。



日銀が金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持することを決め、利上げを進める米国との金融政策の違いから円安・ドル高に拍車がかかっていた。輸入物価の高騰で家計の負担増につながる円安を阻止する姿勢を示した

岸田文雄首相は、9月22日のニューヨークでの内外記者会見で為替介入に言及し、「過度な変動に対しては断固として必要な対応をとりたい」と強調した。夕方の介入を受け、円相場は一時1ドル=140円台と、直前から5円程度上昇した。

Ⅳ. NISA恒久化表明、「資産倍増」の柱に 簡素化・金額増も焦点

少額投資非課税制度(NISA)の改革に弾みがつきそうだ。訪米中の岸田文雄首相は9月22日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)で講演し、時限措置のあるNISAについて「恒久化が必須だ」と表明した。

どのタイミングでも非課税で投資できるようになれば、投資家の裾野が一気に広がる可能性がある。恒久化が実現すれば、首相が掲げる「資産所得倍増プラン」の柱となる。




NISA恒久化は、金融庁が2023年度税制改正で要望していた。2014年の制度開始以降、5度目の要望でようやく実現する可能性が出てきた。減税措置を伴うNISAの恒久化は財務省などが難色を示し、議論が進んでこなかった経緯がある。
日本証券業協会の実態調査によると、NISAがお手本にした英国のISA制度は恒久化により、その後7年間でISA資産残高が1.7倍に急増した。
恒久化でNISAも3月末で27兆円にとどまる累計買い付け額を大きく伸ばす可能性がある
NISAの使い勝手の悪さは金融商品の入れ替えができない点にもある。購入した商品を売却すると非課税枠がそのまま消えてしまう。販売業者がNISAを使って金融商品を回転売買させることを、金融庁が危惧した経緯がある。

一方、英国のISAでは、制約はなく自由に商品の入れ替えができる
金額も見劣りする。英国のISAの非課税限度額は2万ポンド(約320万円)
一方、日本は、一般NISAが120万円、つみたてNISAが40万円にとどまる。
日証協は、上限拡大の案として、一般NISAを240万円、つみたてNISAを60万円に引き上げる例を示しており、併用を前提として最大300万円になる。
仕組みの複雑さも改善点だ。現在、NISA制度は「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3制度が並列する。
一般NISAとジュニアNISAが終了し、2024年から新NISAが始まる予定である。
対象商品と投資期間が異なる「2階建て」の設計で「分かりにくい」と不評だったため、政府・与党の税制改正協議でも見直しを迫られる
岸田首相の肝煎りの資産所得倍増プランは、「新しい資本主義実現会議」の下で議論が進む。
NISA制度は自民、公明両党の税制調査会、政府税制調査会が議論し、2022年の年末までに制度設計が決まる見通しである。
日証協の調べによると、米英における家計の金融資産に占める税優遇資産の割合(2021年末時点)は20%を超える

日本でもNISAの恒久化や簡便化に加え、非課税枠の拡大にも踏み切れば「貯蓄から投資へ」の流れを加速させ、「国民総株主社会」に転換するきっかけになる可能性も秘めている。

Ⅴ. チャート(日米の株価)出所:ブルームバーグ社

1. 日経平均株価(225種):
2022年9月26日(5年間)
年初来騰落率 ▲5.7%

政策金利を上げない日本:下落率が低い
(黒田日銀総裁のコメント)




2.ニューヨークダウ(米国):
2022年9月26日(5年間)
年初来騰落率 ▲16.9%





<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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