日税FPメルマガ通信 第368号

 

Ⅰ. 日本&世界の経済の現状

1.日本国内のインフレ:消費者物価7月2.4%の上昇 4カ月連続で2%超に

総務省が、2022年8月19日に発表した7月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が102.2となり、前年の同月比で2.4%上昇しました。これは、消費増税の影響があった2014年12月(2.5%)以来、7年7カ月ぶりの上昇率で、4カ月連続で2%台となりました。その背景は、原油などの資源高や円安でエネルギーと食料品の上昇が続いているためです。




なお、日銀の金融政策は、修正の手掛かりに乏しい状況です。現在の物価上昇は、エネルギー価格上昇の影響が大きいことに加えて、賃金の伸び率は2%を下回る水準で日銀の物価目標と比して、不十分な伸びに留まっています。



物価の上昇は11カ月連続となりました。生鮮食品を含む総合指数は2.6%、生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は1.2%それぞれ上昇しました。生鮮を除く総合の522品目のうち、上昇した品目は376、変化なしが45、低下が101でした。上昇品目は前月の365から増えました。

最も物価を押し上げたのは、電気代などのエネルギーでした。その上昇率は、16.2%と、6月(16.5%)に引き続き2桁の伸びでした。エネルギーだけで総合指数を1.22ポイント押し上げました。


電気代は19.6%、都市ガス代は24.3%上昇し、ともに6月より伸び率が大きくなりました。ガソリンの上昇率は8.3%で、原油価格の下落をうけて6月(12.2%)から伸びが鈍りました。
食料関連は、4.4%も上昇しました。6月の3.7%からインフレが加速しました。生鮮食品は8.3%(6月は6.5%)上昇し、生鮮食品を除く食料でも3.7%(同3.2%)と、前月より伸びが拡大しました。
また、中国の都市封鎖(ロックダウン)による供給網(サプライチェーン)の混乱の影響もあって6月に7.5%上昇した家庭用耐久財は、7月は4.9%の上昇率でした。

2.日本の4~6月実質GDP:年率で2.2%増に(改善された)

内閣府が、2022年8月15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で、前期比で0.5%増、年率換算で2.2%増でした。新型コロナウイルス対策のまん延防止等重点措置の解除により、個人消費が回復して全体を押し上げました。また、企業の設備投資も伸びました。実質GDPの実額は、542.1兆円と、コロナ前の2019年10~12月期(540.8兆円)を超えました。内需の柱で、GDPの半分以上を占める個人消費は前期比1.1%伸びました。外食や宿泊などのサービス消費は1.4%、自動車などの耐久財は0.3%、衣服などの半耐久財は3.9%それぞれ増えました。






1~3月期は首都圏などでまん延防止等重点措置が出て、個人消費が鈍っていました。重点措置は3月下旬に全面解除となり、4月下旬からの大型連休も3年ぶりに行動制限がなかったのが、GDPが回復した主な背景です。

内需のもう一つの柱である企業の設備投資は1.4%増で2四半期ぶりにプラスとなりました。企業収益の改善をうけ、デジタル化に向けたソフトウエア投資が増えました。

住宅投資は、1.9%減で4四半期連続のマイナスでした。建築資材の高騰で前期(1.4%減)よりマイナス幅が拡大しました。


公共投資は0.9%増で1年半ぶりにプラスに転じました。2021年度の補正予算の執行が進んだとみられます。また、コロナワクチンの接種費用などを含む政府消費は0.5%増で、2四半期連続のプラスでした。

3.中国の雇用

中国の雇用環境の改善がもたついています。2022年7月の失業率は5.4%と前年同月を上回り、若年層に限ると過去最高を更新しました。

新型コロナウイルスの感染が一部都市で再拡大したことで移動制限が強まり、内需の回復が遅れています。企業や家計は先行き不安を拭えず、年後半の景気復調というシナリオに狂いが生じかねません。中国国家統計局が、8月15日の2022年7月の主要統計を発表しました。前年同月と比べた増加率は工業生産が3.8%、小売売上高が2.7%でした。いずれも市場予想に反して、6月の伸びより縮まりました。




これは新型コロナ対応の移動制限が一部都市で再び強まったためです。外食や娯楽など接触型消費を下押ししました。6月は1.3%だったサービス業生産指数の上昇率は0.6%にとどまりました。
また、雇用もさえないです。失業率は5.4%と前月より0.1ポイント下がりましたが、昨年2021年7月より0.3ポイント高い(悪化)です。5カ月連続で前年同月の水準を上回ります。その中でも16~24歳の失業率は19.9%に達し、4カ月連続で過去最高を更新しました。今年卒業した大学卒業生が労働市場に参入し、若年層の就職難は深刻さを増しています。
また、中長期融資のなかでも住宅ローンが大半を占める個人向けは63%減りました。マンション市場の低迷で家具などの販売も伸び悩んでいます。

景気回復の足取りが重いなか、人民銀行は8月15日に、市中銀行に1年間の資金を融通する中期貸出ファシリティ(MLF)の金利を引き下げました。

秋の共産党大会を控えて「移動制限がまた厳しくなるのではないか」との声も多いです。
今春、ゼロコロナ政策で景気が悪化した記憶は新しく、移動制限の強化は内需の復調に水を差す恐れがあります。

4. 中国、40度超の熱波続くトヨタが水不足で四川省成都の工場停止に




中国各地で最高気温が40度を超える熱波が続いています。中国最長の河川、長江の水位が、少雨により歴史的な低さを記録しています。水力発電所の稼働率が落ちて電力供給が追い付かず、生産停止する工場も相次いでいます。長江流域を中心に、今年7月以降、猛暑が続き、40度超えの都市が続出しています。重慶市では8月15日に最高気温が44度を記録しました。本来は、中国では夏は洪水が多い季節ですが、湖北省の武漢では、長江がこの時期としては史上最低の水位を記録しました。中国では2021年、環境規制を守ろうとするあまり石炭火力の発電を抑え、電力不足に陥った経緯があります。今年は台風の襲来もなく長江流域の降水量は例年より4割減少しており、長江の水位は61年以来最も低いという厳しい少雨です。

江西省では、農業用水や飲料水不足の被害が138万人に及びました。重慶でも35万人以上が影響を受け、人工降雨を試みました(雲が薄すぎて計画が実行できない地域もあり、成果は厳しい)。
四川省では空調のための電力需要が高まる一方で、水力発電の水が不足しています。当局は「企業が市民に電力を譲る」とのスローガンを掲げ、工業用電力の供給を制限し、多くの企業に8月15~20日の生産を停止するよう指導しました。




日本のトヨタ自動車は、セダンや小型バスを中国企業と合弁で造る成都工場を8月15日に止めました。米国のアップル製品を生産する台湾・鴻海精密工業の工場も停止が報じられました。

5. 米国の中間選挙(11月8日)

2021年1月に発足したバイデン米政権の最初の審判となる今年11月8日の中間選挙まであと2か月あまりです。高止まりするインフレは政権運営の足を引っ張り、バイデン大統領が得意と自負する外交にもマイナスの影響が及びました。与党である民主党の下院での多数派維持は絶望視され、上院でも厳しい戦いが続きます。バイデン氏(11月に80歳に)は崖っぷちに追い込まれています。

その背景には、

記録的なインフレに見舞われ住宅価格や家賃が急騰し、低・中所得者らを直撃

⇒ バイデン大統領は「中間所得層の再生」を掲げて就任しましたが、住宅危機は深まるばかりです。11月の中間選挙では有権者の不満が噴出し、政権の逆風となりかねない情勢です。

若年層、住宅価格が高過ぎて手が出ずの状況に。




連邦準備制度理事会(FRB)が物価高の抑制に向けて大幅利上げを進めた結果、住宅ローンの金利が急上昇しました(一時は6%近くまで)。住宅の物件価格高と重なり、若年層が住宅購入に二の足を踏むケースが増えました。

初めての持ち家購入者は、従前は住宅市場の4割を占めましたが、現在は3割程度です。住宅購入希望者の多くが、価格・金利の上昇で、借家住まいを続けざるを得ない状況は、賃貸住宅の家賃も押し上げる要因ともなります。

米国民の持ち家志向は強い傾向があります。よく自分の家を買うのは、「アメリカン・ドリーム」だと言われます。




②車社会での原油価格の上昇

バイデン氏は7月、原油価格低減に向けた増産の約束を当て込み、サウジアラビアを訪問しました。しかし、サウジ側の賛同は得られず、ロシアも参加する石油輸出国機構(OPEC)プラスが8月3日に合意した増産幅はわずか日量10万バレルと期待外れに終わりました。


<原油価格の推移:5年間> 8月現在:1バレル(159ℓ)90ドル台に下落


③ペロシ下院議長の台湾訪問の結果
中国との対話機運は、吹き飛びました。中国との関係は、新たな緊張段階に入り、物価抑制を狙った対中制裁関税引き下げなどの政策を実施する余地は少なくなりました。苦境の中、民主党は下院選と比べ接戦とみられる上院選に望みをかけています。共和党の改選数が21議席と民主党の14議席より多い上、激戦州である共和党候補の経験や実力が不足しているため、民主党が過半数を維持できる可能性もあると米国内で言われています。

Ⅱ. マーケットの重要な情報 

    1. 米国の金利 7月FOMC後に利下げ観測の高まり

    8月10日に発表された7月米国の消費者物価は伸び率が予想以上に鈍化し、8月11日に発表された7月米国の生産者物価も予想を下回りました。
    米物価指標の下振れを受けて、市場ではインフレ率ピークアウトの期待が高まりました。

    7月FOMCでは0.75%ポイント利上げを決定し、政策金利を2.25~2.50%へと引き上げました。
    パウエル米国FRB議長は、記者会見で今後の利上げ幅は「データ次第」、「いずれかの時点で利上げペースを落とすことが適切」と発言されました。

    同会合後に、2023年後半にかけての利下げ観測が強まりました。

    インフレ圧力低下期待により、株式市場がもう一段上昇した後は、市場が織り込む2023年の利下げ予想が焦点になると考えられます。

    7月FOMCを受けて、市場関係者は、政策金利見通しを2022年末は3.50%(従来3.25%)へと上方修正しました(2023年末 3.75%は据え置き)
    ※米国の2022年8月時点の政策金利は2.50%。日本は2016年1月末から▲0.10%

    7月FOMC後に2023年後半にかけての利下げ期待が強まっており、10年国債利回りは3%を下回る水準で推移しています。

    2.為替

    日米5年国債金利差と米ドル円には連動性があり、金利差拡大とともに米ドル円が上昇しました。しかし、6 月から7月にかけては、米国の景気悪化懸念で米金利が低下し、日米金利差が縮小したにもかかわらず、米ドル円が上昇しました。

    日銀の緩和修正への期待の反動による円安、米金利低下を受けたリスクオンの円安、欧州のさらなる景気悪化懸念(英国では10%超えのインフレなど)によるユーロ安・米ドル高が理由と言える。ただし、日米金利差と米ドル円は再び連動しつつあります。

    ・日米5年金利差が3.2%:米ドル円は134.0円を中心に128.9~139.0円、
    ・日米5年金利差が2.8%:129.6円を中心に124.5~134.6円に収まりやすい可能性が 大きいです。
    ※2022年8月の米国の金利差:7月の3%超から8月は2.6%台に




            

    Ⅲ. チャート(日米の株価)出所:ブルームバーグ社

    1. 日経平均株価(225種):
    2022年8月22日時点(5年間)
    年初来騰落率 ▲0.9%

    政策金利を上げない日本:下落率が低い
    (黒田日銀総裁のコメント)




    2.ニューヨークダウ(米国):
    2022年8月22日時点(5年間)
    年初来騰落率 ▲8.3%







<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

■■■■■ 著 作 権 な ど ■■■■■

著作権者の承諾なしにコンテンツを複製、他の電子メディアや印刷物などに再利用(転用)することは、著作権法に触れる行為となります。また、メールマガジンにより専門的アドバイスまたはサービスを提供するものではありません。貴社の事業に影響を及ぼす可能性のある一切の決定または行為を行う前に必ず資格のある専門家のアドバイスを受ける必要があります。メールマガジンにより依拠することによりメールマガジンをお読み頂いている方々が被った損失について一切責任を負わないものとします。


その他関連サービス

研修一覧:https://www.nichizei.com/nbs/seminars/


 

このページの先頭へ
  • 税理士報酬支払制度
  • 各種研修会・セミナー
  • 会員制サービス
  • コンサルティング支援サービス
  • 情報提供サービス