ECBが0.5%の利上げに踏み切るのは、インフレが深刻なためです。ラガルド総裁は、会見で、インフレ見通しについて「引き続き上振れリスクがある」と述べました。ユーロ圏の消費者物価の伸び率は、8%超と過去最高を更新し続けています。
また、欧州経済の先行きは不透明です。その理由は、ロシアに依存する天然ガスの供給が細り、ドイツでは、暖房が必要な2023年2月前後にもガス貯蔵が枯渇するリスクが浮上しています。エネルギー価格の上昇は、日本と同様に天然資源を輸入に頼る欧州経済にとって逆風になります。家計や企業の収支を悪化させ、個人消費や設備投資の減少にもつながります。
FOMCは、2022年中に残りあと4回会合が行われますが、この水準に達するためには、0.5ポイントや0.75ポイントの引き上げが複数回必要という想定になります。インフレの落ち着きを見込み、2023年末のFF金利の見通しは3.8%としていますが、2024年には2022年と同じ3.4%と見込んでいます。
FRBの総資産:コロナ前の2019年は4兆ドル ⇒ 2021年には約2倍の8兆ドル台に
これを現在年間約1兆1000億ドル(約150兆円)のペースで圧縮する方針
米連邦準備理事会(FRB)は、新型コロナウイルス禍で混乱した市場を支えるため、トランプ政権時の2020年春に大規模な量的金融緩和策を導入しました。米国債や住宅ローン担保証券(MBS)の買い入れなどによってFRBの総資産は拡大していました。2019年末の約4兆ドル(約460兆円)から足元では8兆ドル台と倍増しています。
消費支出の減少の主な要因は、自動車購入と住居関連費用です。自動車は半導体の供給制約や中国の都市封鎖による部品不足などの影響が出ました。
自動車購入は1.15ポイント、住居は0.5ポイント、それぞれ全体の消費を押し下げました。
食料ではタマネギやトマトなどの野菜類のほか、マグロやサケなどの魚介類も減少しました。
総務省が7月22日発表した6月の消費者物価指数前年同月比2.2%上昇しました。上昇率は3カ月連続で2%を超えました。その要因は、資源高でエネルギー関連の上昇が続きました。また、小麦などの原材料価格が高くなり食料品、また、エアコンなど家庭用耐久財も含め幅広く上昇が見られました。
鈴木俊一財務相は、7月22日の閣議後の記者会見で、「物価高騰が景気の下振れリスクになることについては十分注意する必要がある」と述べられました。
(2) 物価上昇の中身
上昇品目の数は、7カ月連続で増加しました。生鮮食品を含む総合指数は2.4%、エネルギーと生鮮食品を除いた総合指数は1.0%それぞれ上昇しました。
5月までと同じようにエネルギーが上昇の主因となりました。電気代などエネルギーの上昇率は16.5%となり、5月(17.1%)に続いて高水準となりました。
食料品の上昇も続き、生鮮食品が6.5%上昇し、生鮮食品を除く食料品も3.2%の上昇となりました。小麦などの国際価格が上がり、円安も進んで輸入価格が高騰している影響が広がりました。
食パン(9.0%)やハンバーガー(7.6%)、食用油(36.0%)などの上昇が目立ちました。生鮮食品では、ロシアによるウクライナ侵攻で輸送コストなどが高まり、さけ(17.7%)やまぐろ(17.8%)が上昇しました。たまねぎは95.8%の上昇となりました。
また、中国の都市封鎖(ロックダウン)によるサプライチェーン混乱の影響が続き、家庭用耐久財も7.5%上昇しました。ルームエアコン(11.3%)や電気冷蔵庫(14.9%)の上昇が目立ちました。
また、7月21日に一時1ドル=138円台後半まで円安が進んだ為替相場の影響が大きいです。
(3)原油価格 NY原油価格は100ドル割れ、鋼材は15%安に
世界にインフレをもたらしてきた商品相場が変調しています。米国の原油先物は5日、約2カ月ぶりに節目となる1バレル(約159ℓ)100ドルを下回りました。
鋼材価格もウクライナ侵攻前比で15%下げました。
各国がインフレを抑えるために金融引き締めを急いでいる点で、各商品の価格安は、狙い通りともいえますが、市場には景気後退への懸念も広がります。
また、中国の景気回復は鈍く、ガスなど供給制約もくすぶります。
ニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は、7月5日、1バレル99.50ドルと前営業日比8%下落し、4月下旬以来の安値を付けました。
下落率は今年2番目の大きさです。世界的な景気後退への懸念から、原油の需要が大幅に減るとの見方が強まっています。
景気懸念が拭えないのは、世界経済をけん引してきた中国の先行き不透明感が強まっているためです。
新型コロナウイルス禍で都市封鎖(ロックダウン)を含めた感染防止策「ゼロコロナ政策」を実施していますが、上海などで感染者が再び増えているようです。
中国の主要な工業製品の生産は、落ち込んでいます。中国国家統計局によりますと、5月の自動車生産は前年同月比で4.8%減りました。スマートフォンは6.3%減少しました。生産活動が振るわないなか、中国の消費が多い非鉄や鋼材の価格は軒並み安くなっています。車部品や建材に使われる銅やアルミは急落しています。銅で22%、アルミが27%下落しました。自動車や家電に使う鋼材の熱延コイルは、15%下落しました。
中国の不透明感に加え、米国などの利上げによる消費の減速懸念もあり、綿花や木材の価格も安くなってきました。
もっとも、供給懸念が特に強い商品の価格は高止まりが続いています。具体的には、天然ガスはロシアが欧州への供給を絞っており、価格が高騰しています。欧州域内の指標価格である「オランダTTF」はウクライナ侵攻前から2倍以上に上昇し、史上最高値圏にある。オーストラリア産の石炭もロシア産の代替需要が拡大しています。
<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。
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