日税FPメルマガ通信 第366号

 

Ⅰ. 先進国の政策金利の動向と背景

1. 欧州で政策金利を引き上げ 11年ぶり

(1) 欧州中央銀行(ECB)は7月21日、11年ぶりに政策金利を0.5%引き上げると発表しました。
また、欧州で2014年6月に導入されたマイナス金利(日本のマイナス金利は、2016年1月に導入され、現在も継続中)も終了されます。米国では、6月には米連邦準備理事会(FRB)が0.75%の利上げを決め、7月の会合でも大幅利上げが既定路線になっています。

(2)欧州の事情
欧州では、ロシア産天然ガスの供給不安で景気悪化懸念が急速に高まるものの、インフレ阻止を優先しました。景気後退とインフレが同時に進む「スタグフレーション」のリスクもあり、政策運営の難易度は増しています。

ECBが0.5%の利上げに踏み切るのは、インフレが深刻なためです。ラガルド総裁は、会見で、インフレ見通しについて「引き続き上振れリスクがある」と述べました。ユーロ圏の消費者物価の伸び率は、8%超と過去最高を更新し続けています。
また、欧州経済の先行きは不透明です。その理由は、ロシアに依存する天然ガスの供給が細り、ドイツでは、暖房が必要な2023年2月前後にもガス貯蔵が枯渇するリスクが浮上しています。エネルギー価格の上昇は、日本と同様に天然資源を輸入に頼る欧州経済にとって逆風になります。家計や企業の収支を悪化させ、個人消費や設備投資の減少にもつながります。




今後は公的債務が膨らむ南欧諸国(ギリシャやイタリアなど)への対応が焦点になってくると考えられます。なお、急な利上げは金利上昇を通じて債務負担を高めます。2022年6月に利上げ方針を示して以降、特にイタリアなどの国債利回りは、急上昇(価格が急落)していました。

ECBは市場の動揺を抑えるため、新たな措置「トランスミッション・プロテクション・インスツルメント(TPI)」という制度の導入を決めました。南欧諸国を念頭に国債価格が急落する事態に備え、必要に応じて国債などを買い支える構えです。

財政規律の改善などを条件とし、実際の購入規模は「リスク次第で事前の制約はない」。市場を安定させ、円滑に利上げを進める狙いがあります。

2. 世界での政策金利の引き上げの内容

(1)金利は経済の体温
各国の中央銀行は紙幣の発行や銀行間の送金などのほかに、金融政策という業務を手がけています。お金を貸し借りする際に生じる金利は「経済の体温」とも呼ばれています。景気が過熱すれば金利は上がり、不況になれば金利は下がります。

景気が過熱すれば、物価上昇が激しくなったり、投資が行き過ぎて不良資産が増えたりして、今度は景気の足を引っ張ります。
一方、不況が続けば世の中に失業者が増える可能性があります。そこで、各国の中央銀行は、金利の目安になる「政策金利」を上げ下げすることで景気をコントロールしようとします。
そうした政策金利の調整を金融政策と呼びます。政策金利を上げて景気の過熱を防ぐ手法を「利上げ」(金融引き締め)、政策金利を下げることを「利下げ」(金融緩和)といいます。

(2)各国の政策金利などの状況

           



※日本銀行は、7月20・21日に金融政策決定会合を開催しましたが、大方の事前予想通りに、日本銀行は金融政策の維持を決めました(理由:景気のことや国債の利払いや各種のローン金利の上昇は、日本の現在の経済状態では難しい環境であるためです)。

(3)米国の現在の経済
米国の実質国内総生産は、1-3月期に前期比年率1.6%減と、純輸出(輸出-輸入)減などを受けマイナス成長となりました。個人消費や設備投資は底堅いため4-6月はプラス成長に戻る可能性が高いものの、高インフレや金利上昇に圧迫され今年2022年のGDP成長率は2%台と、昨年の5.7%から大幅に低下する見通しです。
なお、雇用については、6月の非農業部門雇用者数が前月比37.2万人増となったほか、失業率は3.6%と、依然良好な雇用環境を示しました。
ただ、米国は賃金増などでインフレ圧力が続いていることから、米連邦準備制度理事会(FRB)は、6月に大幅な利上げ(0.75%)を決めた後、7月以降も利上げを続けると見込まれます。

(4)米国の2022年末の政策金利の予想
長期化するウクライナ情勢や高インフレなどを背景に、2022年の実質GDP成長率の見通しは1.7%と、前回3月の2.8%からさらに下方改定されました。
また、2022年のインフレ率(コアCPE)の見通しは4.3%と、前回の4.1%から上方改定されています。他方、FF金利の引き上げについて、2022年末の見通しは3.4%と前回の1.9%から大幅に上方へ改定されました。

FOMCは、2022年中に残りあと4回会合が行われますが、この水準に達するためには、0.5ポイントや0.75ポイントの引き上げが複数回必要という想定になります。インフレの落ち着きを見込み、2023年末のFF金利の見通しは3.8%としていますが、2024年には2022年と同じ3.4%と見込んでいます。



(5)米国の金融引き締めの内容

FRBの総資産:コロナ前の2019年は4兆ドル ⇒ 2021年には約2倍の8兆ドル台に これを現在年間約1兆1000億ドル(約150兆円)のペースで圧縮する方針
米連邦準備理事会(FRB)は、新型コロナウイルス禍で混乱した市場を支えるため、トランプ政権時の2020年春に大規模な量的金融緩和策を導入しました。米国債や住宅ローン担保証券(MBS)の買い入れなどによってFRBの総資産は拡大していました。2019年末の約4兆ドル(約460兆円)から足元では8兆ドル台と倍増しています。



経済活動の再開やそれに伴うモノや労働力の供給不足を背景に、米国ではインフレの加速が顕著であります。FRBは、インフレについて「一時的」としていた表現を撤回しました。物価上昇圧力が長期化するリスクを意識し、インフレに対応するために金融引き締めを進める姿勢を強めました。2021年12月に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、量的緩和の縮小(テーパリング)ペースの加速を決めました。米国債とMBSの毎月の購入額を2022年1月から月に計300億ドルのペースで減らしています。

(6)日本の政策金利
日本銀行は、長期金利の上限を0.25%程度に抑える方針で国債を無制限に買い入れています。米欧の長期金利上昇で日本でも金利に上昇圧力がかかり、日銀は金利を抑えるため大量の国債買いを余儀なくされています。6月の購入額はすでに14.8兆円と2014年11月の11.1兆円を抜いて最大となりました。6月27日時点のデータによりますと、短期国債を除く国債の発行残高は1021.1兆円、日銀の保有額は514.9兆円であります。なお、日銀の国債の保有割合は、全体の50.4%と21年2~3月の50.0%を超えて最大となりました。なお、黒田総裁裁が、大規模緩和を開始した2013年の保有割合は1割台でした。

Ⅱ. 為替の動き 

    1. 為替のご確認です
               

    (1)為替のメカニズム シーソーの関係です。
               
    24時間休みなく取引が行われている外国為替市場では、さまざまな市場の参加者が、それぞれの目的を持って通貨の売買を行っています。

    為替相場は、最終的には需要(買いたい量)と供給(売りたい量)のバランスで決まります。

    例えば、日本の自動車会社がアメリカに自動車を輸出した場合、その代金は米ドルで受取ることになります。一方で、日本国内の従業員の賃金や原材料費を支払うためには、代金として受取った米ドルを円に替えなければなりません。その場合、日本の自動車会社は、「米ドルを売って円を買う」という取引を行うことになります。

    日本からの輸出が増えていくと、上記のような取引が増加することで円の需要が高まり、為替相場は円高・米ドル安の方向に進む可能性が高くなります。

    反対に、日本の企業がアメリカから製品を輸入した場合、代金を米ドルで支払うには、手持ちの円を米ドルに替える必要があります。

    (2)輸出と輸入の関係
    「円を売って米ドルを買う」という取引が行われると、円安・米ドル高の要因となります。

    輸出金額が輸入金額を大きく上回る状態が長く続くと、その国の通貨に対する需要が高まり、通貨は高くなっていく傾向があります。




    (3)投資家の行動や物価の変動も影響
    輸出入だけではなく、例えば、日本の投資家がアメリカの株式や米ドルで発行された債券(国債や社債など)に投資をする場合には、「円を売って米ドルを買う」必要があります。
    そういう投資家が増えれば、米ドルの需要が高まり、米ドル高・円安の方向に向かいます。一方で、アメリカの投資家が日本の株式や債券に投資を行う場合には、逆の流れが起こることになります。

    また、物価の変動も、為替相場に影響を与える要因の一つです。
    物の値段が上がっていく、つまりインフレになるということは、同時にお金の価値が下がるということでもあります。

    逆に、物価が下がっていく、つまりデフレになると、お金の価値は上がっていきます。仮に、アメリカでインフレが続き、日本でデフレが続けば、米ドルの価値は下がる一方で円の価値が上がり、為替相場は米ドル安・円高に向かう可能性が高まります。
    このような貿易収支や海外投資の状況、インフレ率などの国の経済状況を示す基礎的な条件は「ファンダメンタルズ」と呼ばれ、長期的な為替の動向に大きな影響を与えるものと考えられています。

    <為替のまとめ>



    Ⅲ. 住宅ローンの金利や一部の資源価格の変化 

      1. 住宅ローンの金利の変化

      (1)米国の住宅ローン、金利上昇一服 引き下げ競争激化
      米国の住宅ローン金利の上昇が一服しています。米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が7月7日発表したデータによりますと、米国で多い30年固定の住宅ローン金利(週平均)は5.3%と1週間で0.4%低下しました。

      景気後退の懸念が強まり、金利上昇が収まるとの見方が広がったためです。これまでの急激な金利上昇で、住宅ローン業界は販売が陰り、金利引き下げ競争が激化していることも背景にあるとみられます。

      フレディマックによると、30年物固定金利は6月末には、6.2%と今年最高の水準(2008年の金融危機以来の高い水準です)まで上昇しましたが、その後2週連続で低下、2週間に0.51%低下しました。
      ただし、1年前と比較すると2.4%高い水準で、消費者にとっては依然として住宅購入が難しい状況であります。
      金利の上昇と景気後退への懸念の高まりの中で、中古住宅の販売件数と住宅ローン申し込み件数は共に打撃を受けました。

      (2)日本の消費 消費支出が3ヵ月連続減。車と住宅関連が減少のため。
      総務省が、7月8日発表した5月の家計調査によりますと、2人以上世帯の消費支出は28万7687円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比0.5%減少しました。これで、3カ月連続の減少となりました。
      自動車の購入や住宅設備の修繕費用の減少が大きかったです。物価上昇などで食料品の一部でも買い控えの動きが出てきました。

      消費支出の減少の主な要因は、自動車購入と住居関連費用です。自動車は半導体の供給制約や中国の都市封鎖による部品不足などの影響が出ました。
      自動車購入は1.15ポイント、住居は0.5ポイント、それぞれ全体の消費を押し下げました。 食料ではタマネギやトマトなどの野菜類のほか、マグロやサケなどの魚介類も減少しました。




      新型コロナウイルス対策の行動制限がなかったことで、家庭内で調理をする機会が減ったことが影響しました。また、物価の上昇で購入量を減らす動きもあったとみられる。

      2. 物価の現状

      (1) 日本の物価指数 消費者物価指数は2.2%上昇。企業物価指数は9.2%上昇。

      総務省が7月22日発表した6月の消費者物価指数前年同月比2.2%上昇しました。上昇率は3カ月連続で2%を超えました。その要因は、資源高でエネルギー関連の上昇が続きました。また、小麦などの原材料価格が高くなり食料品、また、エアコンなど家庭用耐久財も含め幅広く上昇が見られました。




      鈴木俊一財務相は、7月22日の閣議後の記者会見で、「物価高騰が景気の下振れリスクになることについては十分注意する必要がある」と述べられました。



      (2) 物価上昇の中身
      上昇品目の数は、7カ月連続で増加しました。生鮮食品を含む総合指数は2.4%、エネルギーと生鮮食品を除いた総合指数は1.0%それぞれ上昇しました。
      5月までと同じようにエネルギーが上昇の主因となりました。電気代などエネルギーの上昇率は16.5%となり、5月(17.1%)に続いて高水準となりました。

      食料品の上昇も続き、生鮮食品が6.5%上昇し、生鮮食品を除く食料品も3.2%の上昇となりました。小麦などの国際価格が上がり、円安も進んで輸入価格が高騰している影響が広がりました。

      食パン(9.0%)やハンバーガー(7.6%)、食用油(36.0%)などの上昇が目立ちました。生鮮食品では、ロシアによるウクライナ侵攻で輸送コストなどが高まり、さけ(17.7%)やまぐろ(17.8%)が上昇しました。たまねぎは95.8%の上昇となりました。
      また、中国の都市封鎖(ロックダウン)によるサプライチェーン混乱の影響が続き、家庭用耐久財も7.5%上昇しました。ルームエアコン(11.3%)や電気冷蔵庫(14.9%)の上昇が目立ちました。
      また、7月21日に一時1ドル=138円台後半まで円安が進んだ為替相場の影響が大きいです。




      (3)原油価格 NY原油価格は100ドル割れ、鋼材は15%安に




      世界にインフレをもたらしてきた商品相場が変調しています。米国の原油先物は5日、約2カ月ぶりに節目となる1バレル(約159ℓ)100ドルを下回りました。
      鋼材価格もウクライナ侵攻前比で15%下げました。
      各国がインフレを抑えるために金融引き締めを急いでいる点で、各商品の価格安は、狙い通りともいえますが、市場には景気後退への懸念も広がります。
      また、中国の景気回復は鈍く、ガスなど供給制約もくすぶります。


      ニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は、7月5日、1バレル99.50ドルと前営業日比8%下落し、4月下旬以来の安値を付けました。
      下落率は今年2番目の大きさです。世界的な景気後退への懸念から、原油の需要が大幅に減るとの見方が強まっています。 景気懸念が拭えないのは、世界経済をけん引してきた中国の先行き不透明感が強まっているためです。
      新型コロナウイルス禍で都市封鎖(ロックダウン)を含めた感染防止策「ゼロコロナ政策」を実施していますが、上海などで感染者が再び増えているようです。
      中国の主要な工業製品の生産は、落ち込んでいます。中国国家統計局によりますと、5月の自動車生産は前年同月比で4.8%減りました。スマートフォンは6.3%減少しました。生産活動が振るわないなか、中国の消費が多い非鉄や鋼材の価格は軒並み安くなっています。車部品や建材に使われる銅やアルミは急落しています。銅で22%、アルミが27%下落しました。自動車や家電に使う鋼材の熱延コイルは、15%下落しました。
      中国の不透明感に加え、米国などの利上げによる消費の減速懸念もあり、綿花や木材の価格も安くなってきました。

      もっとも、供給懸念が特に強い商品の価格は高止まりが続いています。具体的には、天然ガスはロシアが欧州への供給を絞っており、価格が高騰しています。欧州域内の指標価格である「オランダTTF」はウクライナ侵攻前から2倍以上に上昇し、史上最高値圏にある。オーストラリア産の石炭もロシア産の代替需要が拡大しています。




      Ⅳ. チャート(日米の株価) 出所:ブルームバーグ 

        1. 日経平均株価(225種)
        2022年7月23日時点(5年間)年初来騰落率▲3.1%
        政策金利を上げない日本:下落率が低い(黒田日銀総裁のコメント)
          

        2. ニューヨークダウ(米国)
        2022年7月23日時点(5年間)年初来騰落率▲13.5% 
          



<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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