日税FPメルマガ通信 第365号

乱高下する為替相場
改めて「購買力平価説」を基礎から学ぶ

2022年7月20日発行

 

最近ドル円の為替レートが乱高下しているので、今後はどうなるのか気になっている方も多いのではないでしょうか?
為替レートの見通しを立てるうえで、有効な考え方と言われているのが購買力平価説です。

この記事では、購買力平価説とは何か?
また、どのように活用するのか解説します。改めて購買力平価説を基礎から学びたい方も参考にしてください。


1.購買力平価説とは

購買力平価説(Purchasing Power Parity)は、スウェーデンの経済学者G・カッセル氏が提唱した為替レート決定理論の1つです。

購買力平価説には、絶対的購買力平価説と、相対的購買力平価説の2つがあります。

◆絶対的購買力平価説

絶対的購買力平価説とは、為替レートは2国間の購買力で決まるという考え方です。

絶対的購買力平価説の考え方によると、仮に日本のスーパーではリンゴが1個100円。

アメリカのスーパーでも同じ価値のリンゴを1個1ドルで購入できたとすると、1ドルと100円では同じ価値のものが購入できることになります。

したがって為替レートは1ドル100円が妥当であるという考え方です

では1ドル100円の状態で、仮に、日本でリンゴを妥当な価格ではない1,000円で売ろうとするとどうなるでしょうか?

日本でリンゴが1,000円で売れるようになると、アメリカから1ドル100円で輸入をして日本で1,000円で売れば儲けることができるようになります。

このように同じ商品の価格のズレを利用して収益を上げる方法を裁定取引といいますが、価格のズレは長く続くものではありません。

アメリカで安く買おうとして需要が増加するのでリンゴの価格はいずれ上昇、逆に日本では供給が増加するためリンゴの価格はいずれ下落するので、価格のズレは長くは続かずに一定の価格で収束するでしょう。

つまり、ある時点における同一の商品・サービスは一つの価格に落ち着くと考えられます。これを一物一価の法則といいます。

しかし、国ごとに物価は今年不作だった、燃料価格が高騰している、人件費に差があるなど、事情は異なるため、厳密には絶対的購買力平価説は成り立たないと言われています。

そのため、為替レートの見通しを立てるうえでは、各国の物価上昇率を考慮した相対的購買力平価説を利用することが一般的です。

◆相対的購買力平価説

相対的購買力平価説とは、為替レートは2国間の物価上昇率で決まるという考え方です。

相対的購買力平価説では、ある国の物価上昇率が、他の国の物価上昇率よりも高ければ、その国の通貨価値は下がり為替レートは下落。

物価上昇率が他の国よりも低ければ、その国の通貨価値は上昇し、円高になると考えます。



【相対的購買力平価説】

物価上昇率から為替レートを計算する際、以下の計算式で計算をします。



物価上昇率からの為替レート計算式

◆購買力平価説は有効な理論なのか?

公益財団法人 国際通貨研究所の統計によると2022年3月22日時点で、為替の実勢相場は1ドル120.48円(3月22日時点)に対し、消費者物価から計算した購買力平価は110.89円、企業物価から計算した購買力平価は88.55円、輸出物価から計算した購買力平価は66.55円となっています。

以下の表を見ると、消費者(個人)・企業・輸出のいずれの項目で計算した購買力平価と比較するかで結果は大きく異なってきますが、いずれにしても購買力平価と為替の実勢相場は同一方向に向かっており、一定の相関関係があると考えることができます。

<出典:公益財団法人 国際通貨研究所>


また、3つの購買力平価の下落は2010年あたりから緩やかになるのに伴い、ドル円為替の実勢相場もやや横ばい、あるいは少し上向きとなり、2022年3月末時点では逆転減少が見られます。
これは、円安に行き過ぎて、いずれ調整局面がくる可能性も示唆しています。

ただし、この購買力平価説は、一般的には、景気が良くなれば物価が上昇し、その国の通貨は強くなり(通貨高)、景気が悪くなり物価が下落してその国の通貨は弱くなる(通貨安)という一般的な経済の原則とは真逆の考え方です。

そのため、為替レートの詳しい見通しは購買力平価説だけで分かるものではなく、あくまでも今後の大まかな為替レートの傾向を見るために用いるものと考えるとよいでしょう。

2.まとめ

購買力平価説は、絶対的購買力平価説と相対的購買力平価説があり、為替レートの見通しを立てるうえでは、相対的購買力平価説を活用することが一般的です。

ただし、消費者(個人)・企業・輸出のどの物価で計算したかで購買力平価は大きく異なるうえ、景気が良くなれば通貨が強くなる。

景気が悪化すれば通貨が弱くなるという本来の経済の原則と矛盾する面もあるため、購買力平価説だけで為替レートは見通し切れるものではありません。

購買力平価説は大まかな為替レートの傾向を見るため方法と考えましょう。



<著者プロフィール>

福田 猛

ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役

大手証券会社を経て、2012年に金融機関から独立した立場で資産運用のアドバイスを行うIFA法人ファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。資産形成・資産運用アドバイザーとして現役活躍中。 2015年楽天証券IFAサミットにて独立系アドバイザーとして総合1位を受賞。 東京・横浜を中心に全国各地でセミナー講師としても活躍し、大好評の「投資信託選びの新常識セミナー」は開催数240回を超え、延べ8,000人以上が参加。新聞・経済誌等メディアでも注目を集める。著書に『投資信託 失敗の教訓』(プレジデント社)等がある。


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参考

経済金融情報メディア「F-Style」:https://fstandard.co.jp/column/

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