日税FPメルマガ通信 第362号

 

Ⅰ. 日本経済の現状と今後の見通し

1. 全体像
(1)国内経済は1-3月期に減速、先行きは回復へ

1-3月期実質GDP成長率:前期比で年率▲1.0%と2四半期ぶりのマイナスとなりました。項目別の寄与度をみますと、

・在庫投資や民間設備投資が押し上げました。
・純輸出や公的需要が押し下げました。

新型コロナ感染の拡大や半導体不足の影響で日本の主要産業であす自動車輸出が伸び悩む中、資源高やワクチン需要を背景に輸入の伸びが上回りました。

なお、GDPは2019年の平均を2.7%下回り、国内経済は回復途上にあると言えます。

(2)4-6月期は、行動制限解除に伴って景気回復に向かう可能性が大きい

政府は6月に水際対策を緩和し、入国者数上限の引上げや検疫体制の変更を実施する見込みです。外国人観光客の受入再開時期は不透明ですが、2020年以降消失していたインバウンド需要回復は今後注目したいです。

(3)海外要因

ウクライナ侵攻や各国金融引き締めなど海外要因には注意が必要です。

国際商品の市況高騰や円安の影響で輸入物価は高水準にあり、1-3月期の海外への所得流出は、▲11.5兆円にも拡大しました。

頼みの綱となる米国景気の行方に不安が浮上するなか、中国景気の底打ちへの機運が高まるかが、世界経済の行方を左右すると考えます。

・家計:コロナ禍後の過剰貯蓄や政府の財政支援が下支えするも、影響が今後も長引く場合は家計の実質所得減少や企業の投入コスト高を通じて景気下押しが懸念されます。

・製造業:生産や輸出が伸び悩む点も気掛かりです。5月の製造業PMI(Purchasing・Manager’s ・Index:購買担当者景気指数)は、53.2(50が目安)と景況感は良好です。

・日本の最大の貿易相手国の中国:上海(人口は約2,400万人)都市封鎖等の影響でサプライヤー納期が長期化し生産活動が抑制されているほか、海外経済減速に伴い新規輸出受注が引き続き弱含む可能性も残ります。

(4)岸田内閣の政策

国内では今年の夏に参院選を控え、岸田内閣の支持率は、発足以降安定しています。 長期政権が視野に入る中、政府は6月に骨太の方針や「新しい資本主義」の実行計画を公表予定で具体的な政策に注目です。

(5)今後の見通し

5月に入り、世界経済の先行き不安が意識され始めています。米国は消費主導の景気回復基調を保つものの、一部の指標から企業活動減速の兆候が確認されました。

他方、中国は上海市の都市封鎖措置の影響で、4月の鉱工業生産・小売売上高が揃って前年割れと失速、景気低迷の深刻さが浮き彫りとなりました。長期化するウクライナ戦争も含め、世界経済は正念場を迎えています。

上海市は6月中の全面的な経済正常化を明言し、5月中旬から都市封鎖措置の段階的な緩和に動いています。こうした動きは中国景気安定のみならず、世界的な供給網改善を通じインフレ沈静化にも寄与すると期待されます。


Ⅱ. 物価 
:企業物価指数は10%上昇、
消費者物価指数は2.1%の上昇と大きく乖離

    1. 最新の指数
    (1)消費者物価指数は2.1%



    (2)企業物価指数10% 企業は価格嫁が出来ていない

    総務省が発表した2022年4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合指数で前年同月比2.1%上昇しました。日本銀行が物価安定の目標とする2%を超えたのは消費税率引き上げの影響が出た2015年3月以来、約7年ぶりとなります。消費税の増税の特殊要因を除くと、13年7カ月ぶりとなります。



    2.長くデフレに苦しんだ日本だがこの2%到達は朗報といえない

    日本経済の活力を高め、賃上げを伴う物価上昇の好循環が起きるような環境を整えるのが急務です。

    物価上昇は世界共通の流れです。消費者物価は、米国では40年ぶりの8%台、ユーロ圏も7%台半ばと高い伸びが続きます。ロシアのウクライナ侵攻が原油や資源、穀物の高騰に拍車をかけました。

    日本では2021年春に携帯大手各社が、菅前政権からの要請で、一斉に料金を値下げした結果、上昇率を押し下げてきましたが、4月はその要因が薄れました。日銀の黒田東彦総裁は2022年度に物価上昇が「いったん2%程度」まで高まると指摘しました。





    数字こそ2%に達したものの、世界的な資源高や円安といった外部要因による物価上昇は、国富の海外流出を招き、家計を苦しめて個人消費を沈滞させます。日銀は金融緩和の手をゆるめられないため(国債の利払いの増加を回避するため)、円安が一段と進み、輸入価格を押し上げる悪循環を生むようになります。

    3.企業は原材料高を価格に上乗せできていない

    企業間で取引する「川上」の価格を示す国内企業物価指数の4月の上昇率は10.0%です。

    よって、「川下」の消費者物価との差は8ポイント近いです。顧客離れを恐れて企業がコストの増を抱え込むためですが、企業にとっては当然限界があります。

    企業は適切な価格転嫁を通じ、生産性や付加価値を高める努力(消費者の理解が前提です)が必要だと考えます。

    4.物価の上昇:果実は賃上げの形で従業員に積極的に還元を

    2022年1~3月期の実質雇用者報酬は、前期比0.4%減と悪化しました。一部の大手企業は労使交渉で2%程度の賃上げを決めましたが、2%の物価高で帳消しとなり、個人消費の足を引っ張ります。要は、生産性の向上に見合った一段の賃上げの努力が欠かせないです。

    <2022年2月・3月時点の物価指数>

    なお、消費者物価の表現も変更しました。2022年4月までの「緩やかに上昇している」から「上昇している」に変えました。消費者物価の「上昇」表現は、判断材料を生鮮食品およびエネルギーを除く指数に変更した2007年12月以来初めてです。



Ⅲ. 為替
3/1から1カ月半の4/20に129.4円と15円も円安(輸入物価上昇)に

  1. 概要

    対ドルの円相場は、4月20日に1ドル=114円台だった3月1日と比べて約15円、円安(ドル高)が進みました。最大の要因は、米国の長期金利の上昇(日本銀行はマイナス金利を維持)です。

    日本はコロナショックからの経済回復において各国よりも遅れをとっており、金融政策は2022年には大きく変動はない見込みです。

    米国の長期金利は、3月1日に1・7%台でしたが、4月19日には約3年4カ月ぶりの水準となる2・9%台まで急上昇(2022年のコロナ時のゼロ金利政策からの変更)しました。

    マイナス金利政策を継続する日本の円を売って、金利の高いドルを買う動きが広がっています。

    最近では、世界中で大きな焦点でありました2022年5月の米国のFOMCでは、22年ぶりとなる0.50%の大幅利上げと6月からのQT(米国債などの保有資産の圧縮)開始が決定されました。また、会見においてパウエル議長が「0.75%の利上げは積極的に検討しているものではない」と、さらなる利上げ幅拡大に慎重な発言をしたことを受けて過度の利上げ観測はその後後退し、ドル円は一時128円台へ下落することになりました。

    5月5日のNY市場ではドルが持ち直したものの、130円台に留まり、4月末に付けた20年ぶり高値である131円台前半には届いていません。

    なお、投機筋の円売りポジションが高止まりしていたことが、さらなる円安進行を抑制した可能性もあります。

  2. 日本経済はウクライナ危機・感染拡大の下で「悪い円安」に直面

    日米金融政策の方向性の違いなどを反映し、円安ドル高が進んでいます。2022年初に115円/ドル台だったのですが、4月20日には、129円/ドル台に乗せました。こうした中で関心が高まっていることは、円安による日本経済への影響です。

    過去には、ドル円レートは2007年の124円/ドルから2011年の75円/ドルの史上最高値まで、約4年間で50円近くも急騰しました。

    日本銀行が2022年1月に公表した展望レポートでは、「近年の経済構造の変化を考慮しても、円安は引き続き、全体としてみれば、わが国の景気にプラスの影響を及ぼす」と述べられています。

    円安が日本経済にプラスの影響を及ぼす主な経路は、輸出金額や対外投資による純受取額が円換算値で増加し(特に、日本の強みであり自動車や電機関連企業)、国内企業収益の増加を通じて設備投資などが拡大し、幅広い業種に経済効果が波及するというものであります。

    しかしながら、円安がもたらすプラスの影響はウクライナ危機と新型コロナウイルス感染症の拡大によって発現しにくくなりました。

    先行き不透明感が強い中では、企業は収益が増加しても設備投資の拡大などに消極的になりやすいです。 また、コロナの感染状況が十分に落ち着かなければ、インバウンドの受け入れを再開することはできないです。こうした状況下で円安が進むと、輸入コストの上昇というマイナスの影響ばかり表れてしまいます。

    これらを踏まえますと、足元で進む円安はマイナスの影響がプラスのそれを上回る「悪い円安」といえます。 もちろん、ウクライナ危機と感染拡大が収束すれば「良い円安」へと転じると思います。

    円安の影響を検討する際は、為替レートの水準や変化のスピードに注目するだけでなく、日本経済を取り巻く環境を考慮することも重要です。



Ⅳ. チャート(日米の株価&為替) 出所:ブルームバーグ

1. 日経平均株価(225種):5年間         2. ニューヨークダウ(米国):5年間
 2022年5月25日時点(5年間)            2022年5月25日時点(5年間)

3. 為替・米ドル/円  
 2022年5月25日時点(5年間)


<ご参考> 食料の自給率(カロリー) 日本は先進国で最下位の37%(米国は130%)

日本で消費する食料は、国内で生産される農産物だけでは足りず、多くの農産物などの食料を外国から輸入しています。今回の物価上昇で話題となっております。

自分の国で消費する食料のうち、自分の国でどのくらい生産しているのかを割合で表すものとして、「食料自給率」という言葉があります。

式で表すと「食料自給率=自分の国で生産している食料÷自分の国で消費する食料」となります。

<2018年度:
資料:農林水産省「食料需給表」等>



<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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