日税FPメルマガ通信 第358号

 

Ⅰ. 株価のチャート(2022年3月29日現在)

1. 日経平均株価(225種)             2. ニューヨークダウ
2022年3月29日現在 年初来の騰落率 98.1%     2022年3月29日現在 年初来の騰落率 97.1%

Ⅱ. 世界経済の現状と見通し

  1. ウクライナ情勢の緊迫化
    ロシアが2022年2月24日に開始したウクライナへの侵攻により、金融市場は大きな影響を受けており、各市場で変動性が大きく高まっている。

    マーケットに与えるリスクは多方面にわたるが、地域間や市場間で差がみられる。ロシアとの経済的なつながりや、商品市況の上昇による影響が現れている模様である。

    今後さらに、インフレの上昇を通じて、金融政策、経済成長、企業業績への影響も現れてくるため、影響の判断には時間を要するとみられる。何れにせよ市場の変動性が高止まる状態が継続しそうな状況である(リスクオフが継続)。

    基本的にはコロナ禍後の流れを増幅(インフレの加速要因)させ、さらに、ウクライナ情勢に動きがあれば、株式市場が反応し易い状況は続いているとみられる。なお、ウクライナとロシアの停戦協議の動向は、引き続き注目される。

    <ご参考>↓
    ウクライナ情勢で、特に、失速したのがハイテク関連株だ。 ロシア侵攻で欧米企業がハイテク製品の輸出を制限したほか、年明けから米連邦準備理事会(FRB)の利上げ観測が強まって米金利が上昇している
    ハイテク関連株はPER(株価収益率)など指標面で割高感が強まった。

    昨年末の予想PERが120倍台の米国のテスラ(電気自動車やロボットのメーカー)は、2022年2月末時点で昨年末比18%安である。
    また、米国のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD:半導体の会社)が14%安など、高PER銘柄の落ち込みが目立った。

    業種別でみても市場の主役の交代は明らかである。3月25日時点のMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社)の業種別指数で、エネルギーの騰落率は昨年末比33%高と最も高い



    足元も勢いは衰えておらず、世界株価指数が2月末比で2%高に対し、エネルギーは同10%高に及ぶ。
    一方、自動車・部品と半導体は、昨年末比で9%安、10%安に沈む。

  2. エネルギー高を通した景気への影響大
    世界経済(GDP)における、ロシア・ウクライナのシェアはわずかであることから、両国経済の停滞による世界全体の経済の落ち込みは限定的と想定される。
    一方で、ロシアは石油等の主要産出国であることから、国際経済からロシアの切り離しが進むことを前提に、今後高水準のエネルギー価格が継続する。

    この意味は、景気悪化要因であると同時に、インフレの加速要因でもある。 特に欧州は、ウクライナやロシアからの地理的な近さやロシアへのエネルギー依存度の高さなどから、他地域に比べ大きな影響を受けると考えられる。

    ユーロ圏経済への影響のポイントとしては、次の点が挙げられる。

    ①ロシアへの輸出の減少
    ②ロシアからのエネルギー供給減少による生産制約
    ③ウクライナ危機を受けた企業・消費マインドの低下による設備投資・個人消費への影響
    ④物価上昇を受けた実質所得の減少による個人消費の減少

    ユーロ圏の域外貿易額に占めるロシアの割合は、輸出で3%程度と日米に比べると大きくなっているが、GDP比では0.5%程度とロシア向け需要の減少だけであれば、成長率の大きな引き下げにはつながらない。
    ユーロ圏の輸入に占めるロシアの割合は原油で約23%、天然ガスで約38%、石炭などの固定化石燃料で約44%を占める(2020年時点)。

    米国が制裁措置として原油や天然ガスの禁輸を打ち出したのに対し、EU(欧州連合)が禁輸措置を打ち出せなかったのは、こうしたロシアへのエネルギー依存度の高さがある。

    EUでは、既にロシア産化石燃料への依存度を引き下げる政策を打ち出しているが、短期的には難しく、対ロシア制裁やロシアの対応によってはエネルギー調達に支障をきたす可能性も否定できず、経済活動の制約となりえる。

    <世界の原油価格の推移:2008年から2021年>


    <日本の大きな悩み:ガソリン高の抑制>
    ガソリン高の抑制が政治的な緊急課題となってきた。政府は石油元売りなどに補助金を出すことで店頭価格を抑える策を打った。

    価格の高騰時にガソリン税(1リットルあたり53.8円)の特別税率分(同25.1円)を引き下げる「トリガー条項」の発動も現実味を帯びつつある。

    政府は2021年11月にガソリンなど石油製品の価格抑制策を決めた。レギュラーガソリンの店頭価格が1リットル170円を超えれば、石油元売りなどに1リットル当たり最大5円の補助金を支給する。その後も原油高が続いたため上限を25円に上げ、3月10日からは17.7円分を支給する。資源エネルギー庁が16日発表したレギュラーガソリンの店頭価格(全国平均)は14日時点で1リットル175.2円。 補助金による抑制効果があるにもかかわらず、2008年9月以来の高値となった。 政府は補助金の押し下げ効果がなければ189.7円程度になると見込んでいた。

    石油危機時のガソリンは実質「200円超」 ⇒ リーマン・ショック前の2008年7月、国際指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油は、1バレル147ドル台の過去最高値を記録した。2009年8月には日本のガソリン価格(全国平均)も1リットル185円台に乗せ、1987年の調査開始以来の最高値を記録した。総務 省の小売物価統計で1966年まで遡っても、2008年8月(182円、東京都区部)が最高値である。

    <日本:ガソリン価格:1970年のオイルショックから>

Ⅲ. 日本経済の現状と見通し

  1. 実質GDP成長率:一旦回復に
    2021年10-12月期の実質GDP成長率は、新型コロナ感染が落ち着いていた時期であり、前期比年率+4.6%と高い成長を見せたが、その後のオミクロン株感染拡大の影響により、次四半期の成長率は再度落ち込むことが想定される。

    オミクロン株の新規感染者数は減少傾向にあり今後の回復が期待されるが、ウクライナ情勢や商品市況高騰の影響などが加わり不透明感が払拭されない状況が続いている。

  2. ウクライナ情勢への懸念
    ロシアがウクライナへの本格的な軍事侵攻を開始したことに対し西側諸国が経済制裁措置を発動し、ロシアやウクライナからの輸出が多い原油、天然ガスやニッケル、小麦などの供給不安から商品市況が急騰した。

    引き続きウクライナ情勢は不安定な状況にあり、資源輸入国は原材料やエネルギー価格高騰の景気への影響(物価高で)が懸念されるほか、サプライチェーンへの影響も懸念される状況が続きそうだ。

  3. 資源価格高騰の影響を懸念・日本銀行の金融政策
    日本のエネルギー自給率は、約11%程度と低い状況が継続しており、エネルギー価格高騰時にコスト上昇を価格転嫁できず、景気後退に陥る局面が過去に多くみられてきた。
    エネルギーのみならず小麦など農産物価格やニッケル、アルミなど金属価格も大幅に上昇しており、価格転嫁出来ない企業の業績悪化が懸念されるほか、ガソリン価格や電力料金、食品価格等の上昇による消費への影響が懸念される。

    原油高でドル不足が続く円相場は3月24日、対ドルで一時1ドル=122円台まで下落した。
    黒田日銀総裁は3月18日の政策決定会合後の記者会見で「円安が経済・物価にプラスとなる基本的な構図は変わっていない」と発言した。市場は円安基調を容認したと受け止めていた。

    2022年2月末には1ドル=115円前後で推移した。高インフレに直面する米連邦準備理事会(FRB)は急ピッチな利上げを想定しており、投資マネーは利回りの見込めるドルに回帰しやすい
    問題は日本経済が原油高と食糧高に見舞われて、貿易代金としてのドルも不足していることだ。



    2022年1月は1兆円超の経常赤字となり、2022年通年でも1980年以来の経常赤字に陥る可能性がある。構造的な円安圧力が強まり、経常赤字と円売りが連鎖する円安スパイラルの懸念がある。

    日銀は3月17-18日に金融政策決定会合を開催し、現行の金融政策を据え置いた
    昨年12月会合で決定したCP・社債等の買入縮小に関しては、4月以降買入ペースを 感染症拡大前と同程度にし、残高も感染症拡大前の水準に徐々に戻す方針である。

    他方、日銀は景気の総括判断を下方修正し、物価見通しを上方修正した。
    もっとも、黒田総裁(任期は2023年4月8日まで)は記者会見で、4月以降コアCPI(除く生鮮食品)が2%程度まで上昇する可能性に言及するも、商品市況高による消費者物価への反映は一時的とし、利上げの必要は全くないと金融緩和を続ける姿勢を示した。

  4. 日本の主要な産業の自動車の挽回生産に遅れ
    2022年1月の鉱工業生産指数は前月比▲1.3%と2カ月連続で低下した。
    オミクロン株感染拡大によるサプライチェーンへの影響(さらに3月16日の地震で火力発電所の故障による電力不足)などから自動車が予想より大幅に下振れ減産となった。
    予測指数では今後の大幅な増産が予想されているが、ウクライナ情勢悪化による供給不安やサイバー攻撃の影響、中国本土でのオミクロン株感染拡大などもあり、計画通りに挽回生産が進むか不透明な状況が継続している。


<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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