日税FPメルマガ通信 第356号

 

Ⅰ. 株価のチャート(2022年2月25日現在)出所:ブルームバーグ社

1. 日経平均株価(225種)              2. ニューヨークダウ


Ⅱ. ロシアによるウクライナへの軍事侵攻(2022年2月24日)

  1. 市況への影響
    (1)当初の市場の状況
    マーケットは地政学リスクが一段と強まったのを嫌い、投資家のリスク回避姿勢を招き、世界の市場が急変した。2月24日の米株式市場でダウ工業株30種平均は急落し、下げ幅は一時800ドルを超えた。投資家がリスク回避を急いでおり、ドイツやフランスなど欧州やアジア市場で代表的な株価指数が軒並み下落した。

    2月24日の日経平均株価は1年3カ月ぶりの安値を付けた。

    翌日の2月25日の東京株式市場では、日経平均株価は6営業日ぶりに反発して、前日比505円(1.95%)高の2万6476 円で終えた。

    前日までの5営業日で1400円超下げていた後とあって、主力銘柄には値ごろ感からの買いが入りやすかった。ウクライナ情勢を巡る警戒が引き続き根強いものの、売り方の買い戻しが主導し後場に上げ幅を広げた。

    (2) 乾の私見
    ロシアのウクライナ侵攻に関しては、私は幾つかのシナリオを考えていたが、残念なことに可能性が低いと思っていた最悪のシナリオになった。

    プーチン大統領の矢継ぎ早の行動には、ウクライナがNATO側のグループに入ることを何としても防ぎたいという焦りが透けて見える。今後、ウクライナの現政権を排除し、親ロシアの政権を樹立させるのが目標になるものと思われる。これまでは、プーチン大統領のシナリオ通りに進んできたように見える今回の軍事侵攻であるが、ここから先には大きな困難が待ち受けているように思う。

    まず、西側諸国の経済制裁である。各国の思惑から足並みは揃っておらず、現時点では迫力不足は否めないが、徐々にロシア経済に対する悪影響が出て、通貨ルーブルやロシアの株式市場にマイナスとなることが予想される。

    また、ロシアから強制される新しい政治体制に対するウクライナ国民の抵抗も予想される。民主主義的なやり方で政治を進めなければ、国民は納得しないはずである。
    さらに、今回はロシア国内でも反戦デモなどが広がり、プーチン大統領の強硬な姿勢に反発する人も増えている。ロシアとウクライナの今までの深い関係から、軍事侵攻に否定的な世論も強い。国内外からの批判が強まれば、武力による強硬な行動の継続が難しくなり、政策転換が迫られるシナリオも出てくるはずである。

    出所:AFP通信社(フランス)


    今回の行動の結果、ロシア国内におけるプーチン大統領の政権基盤が揺らぐことがあれば、軍事侵攻は大きな失敗だったということになる。

    (3) 原油の価格の上昇、ロシアの通貨ルーブル&ロシアの国債価格の下落
    原油価格は、2月24日、7年半ぶりに1バレル100ドルの大台を突破した。アルミの先物価格が2008年7月の最高値を上回り、小麦先物価格も9年ぶりの高値を付けた。経済制裁による供給減などへの警戒が強まっている。

    通貨ルーブルは、対ドルで史上最安値を付け、株価指数のRTSは前営業日比で一時50%安と暴落した。経済の先行き不安でロシア市場からの資金流出も起きている。

    通貨ルーブルは、対ドルで史上最安値を付け、ドル建ての主要株価指数であるRTSは前営業日の22日比で一時50%安と暴落した。通貨の他に、株式と債券も売られ「トリプル安」が続いている

    今後、想定される欧米の大規模制裁による経済混乱に警戒が強まっているからである。また、ロシアの株安は、アジアや欧州市場にも波及している。

    対ドルでは一時1ドル=90ルーブル近辺と、2016年1月以来およそ6年ぶりに史上最安値を更新した。ウクライナ侵攻直前の日本時間午前11時には81ルーブル台で推移しており、2時間あまりで9%下落した計算である。

    戦争となると、「当事国通貨のロシアルーブルが最も売り込まれやすい。他にも制裁の影響が波及しそうなユーロや英ポンドなども軟調になる」と予想する。


    出所:ブルームバーグ社
    軍事侵攻で欧米諸国が大規模な対ロ制裁に動くことが確実視され、市場はロシアが国際金融市場から締め出されるシナリオを織り込み始めた。ロシア経済への打撃も意識されれば海外の投資家がロシアから資金を引き揚げ、ルーブルはさらに下落する可能性もある。

    「ロシア売り」は通貨にとどまらない。ロシア政府が2017年に発行した2047年償還(30年債)の米ドル建て国債の利回りは、2月24日時点で6%台半ばまで上昇(債券価格は下落)、発行後の最高水準を記録した。2022年1月末時点では4%台半ばで、1カ月弱で2%ほど上昇(債券価格は下落)した計算になる。ロシアルーブル建ての国債も売られ、なお、10年物国債利回りは、2月24日には11%近くまで上昇した。

    (4) ウクライナ政府の特徴
    ロシアが数十年をかけてウクライナの軍や情報機関、治安当局の内部に張り巡らせてきた密告者やスパイのネットワークが、今回威力を発揮した。

    こうしたネットワークは、ロシアがウクライナからクリミア半島を奪って、東部ドンバス地方に極秘で侵攻するなど両国の紛争が始まった2014年当時に比べると、規模は確実に小さくなっている。当時は、ウクライナ海軍の歴代司令官二人が続けてロシアに寝返り、艦艇の多くをロシア側に手渡したほか、南部・東部全般で治安部隊の幹部もウクライナを裏切った

    ロシアと隣接するウクライナ東部では、「西部ほど愛国意識が強くない」。民主主義と資本主義への移行は、痛みと混乱を伴うものであり、東部を中心に多くのウクライナ人が、以前の比較的安定した時代のほうがよかったという気持ちある。

    ① 産業
    空と小麦

    「ステップ土壌」と呼ばれる肥沃な農地を有するウクライナは、旧ソ連構成国の中でロシアに次ぐ2番目に大きな人口、約4,370万人を抱える。国土は日本の約1.6倍の面積がある。国旗の2色の意味は、青色が空、黄色が小麦畑である。1991年にソ連崩壊とともに独立したウクライナであるが、それまでも、2色の旗は、ウクライナ人やウクライナ民族解放運動のシンボルとして知られている。

    ② 欧州の大国である英仏よりも「IT大国

    ウクライナは、隠れたスタートアップ拠点そしてIT大国として世界で注目されている。JETRO=日本貿易振興機構によると、ウクライナのIT産業は1990年代初頭から発展し2010年から急速に成長した。

    2018年のIT産業市場規模は約45億ドルと10年で9倍近くになった。背景には、優秀な人材と豊富な教育機関がある。ウクライナのエンジニアリングの学位取得者は、欧米諸国と比べても多く、フランスやドイツ、英国より多い。さらに人件費は米国の4分の1程度だということで、欧米諸国はウクライナのIT人材に注目している。


    エンジニアリング学位取得者の比較 
    出所:JETRO(日本貿易振興機構)


    ③ 世界が注目する「最先端技術

    ウクライナ発のIT企業として有名なのは、「Ring」や「Grammarly」である。「Ring(リング)」は住宅のドアに設置する防犯カメラを開発する会社で、画像認識機能やAI(人工知能)で来訪者を見分けることもできる。

    Amazonに買収されたあとも多機能なセキュリティーカメラとして注目されている。 「Grammarly(グラマリー)」はAI(人工知能)やNLP(自然言語処理)を用いて、文法チェックやスペルチェックそして盗用の検出といったサービスを提供している。2009年にウクライナで創業され、業務を拡大させている。また、世界中で使われるメッセージアプリも、ウクライナ出身の実業家が創業した。

    米国の大手メッセージアプリ会社のWhatsApp(ワッツアップ)の共同創業者で、2018年まで最高責任者を勤めたジャン・コウム氏は、ウクライナの首都のキエフ生まれで、のちに米国に渡った。

  2. 金の価格の上昇  2022年2月25日の時点  1キログラムで782.7万円
    1キログラムで、
    ・1999年9月には、株式にマネーが集中して96.2万円と安値に
    ・2010年は347万円、2015年500.3万円、2020年は601.3万円

    金は、その希少価値(世界全体で50メートルのプールで約3杯分)から、通貨代替物(有事の際の金)とされてきた。急激なインフレなどで通貨の信認が低下すると金の価値は相対的に上がり、物価上昇時に保有されることが多い。世界的なインフレに加えてウクライナ危機や株安も加わり、「安全資産」とされる金の需要は高まっている。

    国際指標のニューヨーク(NY)金先物は、1トロイオンス1900ドル前後と約8カ月ぶりの高値圏にある。

    NY金先物の価格は上昇しているものの、円建て金先物とほぼ同時(2020年8月)につけた最高値の2089ドル台と比べると1割ほど安い。国内外の金の値動きに差が生じている要因が円の実力低下である。


    出所:ブルームバーグ社


    前回金が最高値をつけた直前の2020年7月末と比較すると、ドルの価値は金に対して4%上昇しているのに対し、円は逆に4%下落している。海外の中央銀行がインフレ対策から金融引き締めに乗り出す中、日本銀行は政策金利の抑制策を発動しており、金利差の拡大から円安に振れやすい。円安・ドル高が進めば円建てで取引される国内金先物には割安感が出てくるため、買いが入りやすくなる。

Ⅲ. 世界経済の最新情報

  1. 米国
    (1) 住宅価格が上昇 インフレに

    米連邦住宅金融庁(FHFA)が2月22日発表した2021年10~12月期の全米住宅価格指数(季節調整済み)は、前年同期比で17.5%上昇した。過去最高の伸びとなった2021年7~9月期(18.6%)からは鈍化したが、高い伸びが続いた。

    全米50州と首都ワシントンのすべての地域で値上がりし、伸び率は特にアリゾナ州(27.4%)、ユタ州(27.1%)、アイダホ州(27.0%)などで著しかった。



    2021年12月単月では前月比1.2%、前年同月比17.6%上昇した。

    住宅ローン金利が歴史的低水準だったことに加え、コロナ危機に伴う在宅勤務などで広い家を求める人が増え住宅需要が急速に強まったのに対し、売り出されている物件が不足しているため、住宅価格の急上昇が続いている。このため、手ごろな価格の物件がなくなり、市場から閉め出される住宅購入希望者も増えている

    全米不動産協会(NAR)は、2022年2月上旬、2021年とコロナ危機前を比較して、超富裕層以外のすべての所得層で購入可能な価格帯の物件数が大幅に減り、自宅所有が難しくなっているとするリポートを発表した。

    米連邦準備理事会(FRB)による政策金利の引き上げ観測から、住宅ローン金利は上がり始めており、今後住宅市場は鈍化すると予測されている。しかし、住宅供給不足が続いている一方、家計の流動資産が潤沢なことから、住宅価格の伸びは当面続くとの見方を示している。

    (2) 米国の雇用 改善の方向へ

    米労働省が2022年2月24日発表した失業保険統計(季節調整済み)によると、2月13~19日の週間の新規失業保険申請件数は、23万2000件で、前週から1万7000件減った

    減少は2週ぶりで、ダウ・ジョーンズの市場予測(23万5000件)をわずかに下回った。 総受給者数は、2月6~12日の週は、前週の改定値から11万2000人減の147万6000人で、4週連続で減少し、1970年3月以来約52年ぶりの低水準となった。



    (3) インフレ
    2022年1月の消費者物価指数(総合)は前月比+0.6%と引き続き高い伸びである。
    前年比ベースでは7.5%で、これは約40年ぶりの高水準である。

    前年比ベースでのインフレ圧力は、1年前の供給制約に起因する中古車価格の急騰等の裏が出るため、目先がピークで今後は低下していくことが見込まれる。

    米国の企業の景況感は オミクロン株の影響が見られるとはいえ引き続き堅調である。2022年1月の総合指数は、製造業・非製造業ともに12月から若干低下したものの高水準を維持している。

    しかし、足元で原油価格を始め商品市況が上昇している。

    また、FRBの2022年の利上げの見通しを従来の3回(3・6・12月)計0.75%ポイントから、 4回(3・6・9・12月)計1.0%ポイントへと改めた。その背景は、オミクロン株の感染拡大で供給制約によるインフレ圧力が長期化し、同時に賃金インフレの可能性が高まっていること等による。

    (4) 2022年11月8日の「中間選挙」:米ドルが下落(円高に)リスク高い
    過去の米ドル円を4年ごとに平均化すると、米国の政権1期の1年目は、堅調に推移するが、中間選挙がある2年目は米ドルが下落(円高に)する傾向にある。年初から6月中旬までは2%程度の下落だが、そこから10月中旬にかけては5%程度の下落となる。

    これはあくまでも過去の平均だが、バイデン政権の支持率が低迷し、11月8日の中間選挙で、共和党が議席を伸ばす可能性があるだけに、政治リスクによる米ドル下落の可能性は否めない

  2. 日本経済
    (1) 概要
    従来のウイルスよりも感染力が非常に強いオミクロン株の感染が急拡大し、まん延防止等重点措置が拡大されたが、先行して感染が拡大した地域では新規感染者数は、すでにピークアウトしており、東京都の新規感染者数にも頭打ち感が出てきた。

    世界的にも感染拡大は峠を越えつつあり、経済が正常化に向かい物価上昇の大きな要因である人手不足やサプライチェーンの混乱が緩和に向かうかに注目したい。

    2021年12月の鉱工業生産指数(速報、季節調整済)は、前月比▲1.0%と3カ月ぶりの低下となったが、オミクロン株の感染拡大によるサプライチェーンへの影響や前月に急増した反動があったものと思われる。

    しかしながら2カ月先の予測指数はむしろ上向きとなっており、電子部品・デバイス工業は1月に大幅な増産を想定している。

    部材不足解消により、自動車などが本格的な挽回生産局面に入るかが注目される。

    (2) 引き続きインフレ基調は継続か
    2021年12月の消費者物価指数(全国、総合)は、前年同月比は0.8%上昇した。

    寄与度別でみると、電気代、ガソリン、食料などの上昇の影響が+1.7%程度と大きい。携帯電話通信料の下落やGo To キャンペーンの反動増など一過性要因の寄与が▲1.2%程度あり、これを除くと日銀が目標とする前年比+2%に近づくが、今まで通りの日銀のスタンスであれば、早期の金融政策の変更はないと想定する。

    (3) 2022年3月期の最終損益見通し

    1年前に比べて業績が改善した企業はどこか。2022年3月期の最終損益見通しについて、前期比の増減額をランキングすると、日産自動車や日本製鉄といった業績がV字回復した企業が目立った。

    新型コロナウイルスの影響で最終赤字が続く鉄道や空運でも改善額は上位に入っている

    前期に比べ最終損益が5000億円以上改善する企業も7社ある。

    ランキングで2位に入った日産自動車、は販売不振を理由に前期まで2期連続の最終赤字で、今期も期初は赤字の見通しだった。



    構造改革を進めているところに経済再開で北米市場が回復、販売奨励金も減って採算が改善した。為替相場で円安が進んだことも利益を押し上げ、今期は業績見通しを3度上方修正した。


<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

■■■■■ 著 作 権 な ど ■■■■■

著作権者の承諾なしにコンテンツを複製、他の電子メディアや印刷物などに再利用(転用)することは、著作権法に触れる行為となります。また、メールマガジンにより専門的アドバイスまたはサービスを提供するものではありません。貴社の事業に影響を及ぼす可能性のある一切の決定または行為を行う前に必ず資格のある専門家のアドバイスを受ける必要があります。メールマガジンにより依拠することによりメールマガジンをお読み頂いている方々が被った損失について一切責任を負わないものとします。


その他関連サービス

研修一覧:https://www.nichizei.com/nbs/seminars/


 

このページの先頭へ
  • 税理士報酬支払制度
  • 各種研修会・セミナー
  • 会員制サービス
  • コンサルティング支援サービス
  • 情報提供サービス