日税FPメルマガ通信 第354号

 

Ⅰ. 株価のチャート(2022年1月25日現在)

 1. 日経平均株価(225種)            2. ニューヨークダウ
 2022年1月25日現在:2021年の騰落率は4.9%    2022年1月25日現在:2021年の騰落率は18.7%

Ⅱ. IMFが2022年の経済予測
  世界成長4.4%に減速、米国のインフレが重荷に

  1. 前回2021年10月の予測から0.5ポイント引き下げ
    国際通貨基金(IMF)は、1月25日改定した世界経済見通し(1年に4回発表)で2022年の実質成長率を4.4%と、前回2021年10月の予測から0.5ポイント引き下げた。今回は、コロナの感染拡大の影響で1月19日から25日に発表を延期した。

    ・高インフレが長引く米国
    ・新型コロナウイルスの封じ込めを優先する中国で大きく下振れする。

    新たな変異型に警戒を示し、ウクライナや台湾を念頭に東欧や東アジアの地政学リスクにも言及した。2022年の世界経済についてコロナの変異型「オミクロン型」や供給不足で「従来の想定より弱い状態から始まった」と指摘した。コロナ下で急回復した2021年は、前回予測と同じ5.9%と推定した。2021年は、IMF統計で遡れる1980年以降で最大の伸び(5.9%)となる。
    しかし、2022年は減速し、2023年の伸びは3.8%へとさらに鈍る。オミクロン型は2022年1~3月期に下押し要因となるものの、4~6月期に影響が弱まり始めるとみる。2022年末までにワクチンや治療薬が普及し、ほとんどの国で悪影響が和らぐ前提で予測した。

  2. 主な国の内容

    (1)米国  
    成長率は4.0%と前回予測から1.2ポイント引き下げた。

    2021年の5.6%から伸びが鈍る。
    ⇒ その理由:米国が直面するリスクにインフレを挙げた。労働市場の逼迫で賃金が上昇し、物価上昇圧力が続くと想定する。2021年12月に7.0%を記録した物価上昇率は、2022年10~12月期でも4%台にとどまると予測した。 インフレの長期化により、米連邦準備理事会(FRB)が想定より早く金融引き締めに動くことも織り込んだ

    2022年、2023年にそれぞれ3回の利上げを想定。バイデン政権が掲げる大型歳出・歳入法案は先行きが不透明になったため、景気への効果を差し引いた。
    2023年の米国の経済は2.6%とさらに減速するとみる。

    (2)中国  2022年に4.8%を見込み、前回予測から0.8ポイント下方修正した。
    2021年の8.1%から急減速する。オミクロン型が広がる中、感染を徹底的に封じ込める中国の「ゼロコロナ」政策の厳格な移動制限の影響で内需が弱まっている。

    中国がコロナへの規制を強め、世界の品不足に拍車がかかるリスクも指摘した。不動産市場の金融不安が経済全体に波及する可能性にも触れた。

    (3)日本  2022年は3.3%と0.1ポイント引き上げた
    2021年の見通しがコロナの感染再拡大で1.6%と0.8ポイント下方修正した反動に加えて、大規模な経済対策による押し上げ効果を見込んだと分析する。


Ⅲ. 2022年の年初の経済について

  1. 1月24日の欧米株式市場は値動きの荒い展開となった。
    米ダウ工業株30種平均は、下げ幅が一時1100ドルを超えるなど乱高下した。世界的な金融引き締めへの警戒とウクライナ情勢の緊迫が重なり、投資家のリスク回避姿勢が強まった。

    1月25日の東京株式市場で日経平均株価が大幅反落し、一時2万7000円を割り込んだ。下げ幅は600円を超え、2021年8月に付けた終値ベースの昨年来安値(2万7013円)を下回った。前日の米株式市場で主要指数が一時急落するなど動揺した流れを受けた。米金融政策やウクライナ情勢への警戒感が高まり、投資家がリスクオフに動いた。

  2. 2020年から21年にかけて新型コロナの影響が和らぎ、多くの企業で業績が回復
    2022年からは過剰流動性を背景とした「金融相場」が終焉を迎え、「業績相場」の色彩が強まってくる。米国金利の上昇圧力が高まる中、“不安”に打ち勝つ投資先を選別できるかが重要となろう。

    <最高益の更新を予想する企業の例>  今期の予想の売上高利益率
    ・オービック:             60.0
    ・ベネフィット・ワン:         35.4%
    ・アドバンテスト:           26.3%
    ・日産化学:              23.1%

    新型コロナの影響をはねのけて、「V字回復」を辿る企業や連続最高益を視野に入れる企業は、提供する製品やサービスの差別化を図り、高い付加価値を提供している企業が多い。

    これまで培ってきた技術力や顧客基盤などが礎になっていよう。経済活動が制限された状況下でも、過去最高益を創出できる企業は「稼ぐ力」があるとみられ、株式市場で高く評価されそうだ。

  3. 資源高や供給制約を背景に食品など生活必需品の値上げが相次ぐ

    足元は消費者物価指数の内訳の6割近い品目が上昇した。物価上昇率は携帯下げの影響が一巡する春に2%に迫る見通しだ。現状では米欧に比べ需要の回復や賃上げの動きは鈍いため、コスト増が先行する「成長なきインフレ」が、家計の重荷になる懸念も考えられる。

    総務省が2022年1月21日発表した2021年12月の消費者物価指数は変動の激しい生鮮食品をのぞき前年同月比0.5%上がった。新型コロナウイルス禍前の2020年2月以来の伸びが続く。マイナス圏に沈んだコロナ後の流れが変わってきた。



    現在のインフレの流れは、さらに進む公算が大きい。「足元で資源価格が再び上昇しており、エネルギーが物価を押し上げる傾向が続く」と予測する。

    電気代は2021年12月に13.4%と40年9カ月ぶりの上昇幅を記録した。灯油やガソリンも2桁の上昇が続き、幅広い分野に影響する。マグロは輸送費の上昇が響き16.4%上がった。ビニールハウスで栽培する作物は暖房費などがかさむ。トマトは17.3%上昇した。

    菅前政権での重要政策であった携帯値下げの影響は、2022年の春にはがれ落ちる。2021年12月は、携帯通信料が(通年で33.3%)単月で53.6%も下がり、約1.5ポイントの大きな下落要因だった。

    それでも米欧ほど物価上昇圧力は強くない。2021年12月のインフレ率は、米国が7.0%と39年半ぶりの高さ、ユーロ圏は5.0%と統計を遡れる1997年以降で最大だった。なお、日本の勢いが比較的弱いのは、需要の鈍さがある。



    賃金上昇率は、米国の5.8%、ユーロ圏の3.9%に対し、日本は1.3%と見劣りする賃上げがインフレに追いつかなければ家計の購買力は高まらず、物価の安定的な上昇は見込みにくくなる。この点で日本の先行きは不透明である。

    日本銀行は、1月18日、2022年度の物価上昇率見通しを0.9%から1.1%に引き上げた。インフレ圧力の高まりは「商品価格の上昇など、主として一時的な要因」(黒田東彦総裁)とみて、粘り強く金融緩和を続ける姿勢である。


  4. 1月18日のニューヨーク市場:原油価格は一時86ドル台となり、7年ぶりの高値


    原油相場の上昇を受けてバイデン米政権は同日、産油国などと対応を協議していることを明らかにした。<1バレル:約159リットル>

    国家安全保障会議(NSC)のホーン報道官は2022年1月18日、「産油国や消費国と協議を続けている。価格に対応するための選択肢はまだ残されている」と表明した。米ブルームバーグ通信が伝えた。需要に応じた供給の増加について産油国と協議したという。具体的な内容は明らかになっていないが、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と原油の増産ペースについて話し合った可能性もある。


    日本政府は、2021年11月19日にまとめる経済対策に原油高への新たな対応を盛り込んだ。国がガソリンの元売り会社に補助金を出し、これを原資に小売価格の上昇を抑えるのが柱だ。 新型コロナウイルス禍からの回復が遅れる日本経済への打撃を和らげるのが狙いだが、実効性や公平性には疑問符がつく。



    経済産業省が発表した新たな対策は、ガソリンの小売価格(全国平均)が一定の水準を超えた場合に、元売り会社に補助金を支給する仕組みである。その分を値引きしてガソリンスタンドなどに卸し、小売価格の抑制につなげる。 ガソリンの平均価格が1リットルあたり170円を超えた場合に、補助金を出す案が出ている。補助金の金額は1リットル5円を上限とする方向だ

  5. その他の重要ポイント

    (1)日本経済:出遅れ解消局面へ
    世界的な景気回復局面において日本の実質GDPの回復は他の国々に対し出遅れていた。しかし、緊急事態宣言解除による経済活動の再開や自動車の挽回生産、大型経済対策の効果などから今後の高成長が見込まれる。

    昨年12月発表のOECD世界経済見通しにおいて、主要国では日本だけが2022年の実質GDP見通しが上方修正され、かつ前年に対して成長が加速する見通しが示された。今後の出遅れ解消が期待される。地域別では米国向けが同+2.0%(同+3.6%)と増加し、自動車や半導体製造装置等が好調である。

    一方、EU向けが同▲4.6%(同+3.4%)、アジア向けが同▲3.3%(同+2.5%)と減少し、EU向けは原動機や電気計測機器等、中国向けは半導体製造装置やプラスチック等が軟調である。先行きは世界経済が減速しつつも回復する中、緩やかな増加基調が続くとみる。

    ただし、引き続き半導体不足の影響や、新型コロナ感染拡大に伴う供給網の混乱など見通しが下振れる可能性は残りそうである。

    (2)日本の自動車:挽回生産が進むかに注目
    2021年11月の鉱工業生産指数(速報)は、前月比7.2%上昇した。自動車が前月比43.1%上昇と大きく寄与し、挽回生産が進んでいることが確認された。

    一方、自動車の製造工業予測指数は頭打ちとなっており、引き続き調達面での不安があるものと思われる。電子部品等は2022年1月以降の大幅な増産を見込んでいるが、世界的なオミクロン株感染拡大の影響もあり、今後想定通りに生産が回復していくかが注目される。

    (3)日本でのオミクロン株感染拡大:影響を注視
    従来のウイルスよりも感染力が非常に強いオミクロン株の感染が急拡大している。先行して感染が拡大した南アフリカや英国では既に新規感染者数が減少に転じており治療薬の効果も期待されるが、行動制限措置の適用拡大や新たに市中感染が確認された中国など海外での感染拡大による供給網への影響等を注視したい。

    (4)米国:政治と経済
    バイデン米国大統領が、就任してから2022年1月20日で1年になった。

    滑り出しは好調な経済に加え、トランプ前政権からの政策転換への期待から支持が集まったが、その後は、与党の内紛による政策停滞やインフレ過熱などで有権者の不満は募る。2022年11月に連邦議会中間選挙を控え、支持率が低迷するバイデン政権は難路に直面している。


    支持率:56%→42%に低下

    米国のホワイトハウスのサキ大統領報道官は、2022年1月18日の記者会見で、失業保険申請数の減少や失業率低下など実績を挙げ「大統領就任後の1年間は、米国史上最大の雇用増を記録した年だった」と述べた。米国の政権1期の1年目は、通常は堅調に推移するが、中間選挙がある2年目は下落する傾向にある。


    バイデン政権の支持率が低迷し、中間選挙で共和党が議席を伸ばす可能性があるだけに、政治リスクの可能性は否めない。 アフガニスタンからの米軍撤収を巡る混乱で国内外から批判を浴びた2021年8月に  不支持が支持を逆転し、2021年10月上旬以降の支持率は40%台前半で推移する。要因の一つが、政策を決められないバイデン政権への失望である。

    10年間で1.75兆ドル(約200兆円)規模の子育て支援、気候変動対策の歳出・歳入法案は与野党が拮抗する上院で採決のメドが立たない。

    経済政策でも有権者の評価は低い。消費者物価指数(CPI)上昇率は、2021年1月の1.4%から、2021年12月には7.0%と39年半ぶりの高水準に達した。バイデン氏はインフレを「一時的」と軽視してきた。大企業の寡占が値上がりの要因だと批判するが、打つ手は限られる。

    また、看板公約の実現は、道半ばである。2021年11月に成立させた1兆ドル規模のインフラ投資法には共和党も支持する一方で、連邦法人税率の28%への引き上げなど大規模な増税は、歳出・歳入法案の頓挫で宙に浮いている。


    ワクチン接種の頭打ちが大きな課題になっている。

    バイデン氏は「未接種者のパンデミック(感染症の大流行)」と批判し、物議を醸した。接種を完了した割合は直近で63%にとどまる。共和党の支持者を中心に反ワクチン層は根強い。現在の足元では、「オミクロン型」が広がり、新規感染者は高水準である。企業にワクチンの義務化を求める政権の措置は、2022年1月13日、連邦最高裁に差し止めを命じられた。



<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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