(1)米国
成長率は4.0%と前回予測から1.2ポイント引き下げた。
2021年の5.6%から伸びが鈍る。
⇒ その理由:米国が直面するリスクにインフレを挙げた。労働市場の逼迫で賃金が上昇し、物価上昇圧力が続くと想定する。2021年12月に7.0%を記録した物価上昇率は、2022年10~12月期でも4%台にとどまると予測した。
インフレの長期化により、米連邦準備理事会(FRB)が想定より早く金融引き締めに動くことも織り込んだ。
2022年、2023年にそれぞれ3回の利上げを想定。バイデン政権が掲げる大型歳出・歳入法案は先行きが不透明になったため、景気への効果を差し引いた。
⇒2023年の米国の経済は2.6%とさらに減速するとみる。
(2)中国 2022年に4.8%を見込み、前回予測から0.8ポイント下方修正した。
2021年の8.1%から急減速する。オミクロン型が広がる中、感染を徹底的に封じ込める中国の「ゼロコロナ」政策の厳格な移動制限の影響で内需が弱まっている。
中国がコロナへの規制を強め、世界の品不足に拍車がかかるリスクも指摘した。不動産市場の金融不安が経済全体に波及する可能性にも触れた。
(3)日本 2022年は3.3%と0.1ポイント引き上げた。
2021年の見通しがコロナの感染再拡大で1.6%と0.8ポイント下方修正した反動に加えて、大規模な経済対策による押し上げ効果を見込んだと分析する。
足元は消費者物価指数の内訳の6割近い品目が上昇した。物価上昇率は携帯下げの影響が一巡する春に2%に迫る見通しだ。現状では米欧に比べ需要の回復や賃上げの動きは鈍いため、コスト増が先行する「成長なきインフレ」が、家計の重荷になる懸念も考えられる。
総務省が2022年1月21日発表した2021年12月の消費者物価指数は変動の激しい生鮮食品をのぞき前年同月比0.5%上がった。新型コロナウイルス禍前の2020年2月以来の伸びが続く。マイナス圏に沈んだコロナ後の流れが変わってきた。
現在のインフレの流れは、さらに進む公算が大きい。「足元で資源価格が再び上昇しており、エネルギーが物価を押し上げる傾向が続く」と予測する。
電気代は2021年12月に13.4%と40年9カ月ぶりの上昇幅を記録した。灯油やガソリンも2桁の上昇が続き、幅広い分野に影響する。マグロは輸送費の上昇が響き16.4%上がった。ビニールハウスで栽培する作物は暖房費などがかさむ。トマトは17.3%上昇した。
菅前政権での重要政策であった携帯値下げの影響は、2022年の春にはがれ落ちる。2021年12月は、携帯通信料が(通年で33.3%)単月で53.6%も下がり、約1.5ポイントの大きな下落要因だった。
それでも米欧ほど物価上昇圧力は強くない。2021年12月のインフレ率は、米国が7.0%と39年半ぶりの高さ、ユーロ圏は5.0%と統計を遡れる1997年以降で最大だった。なお、日本の勢いが比較的弱いのは、需要の鈍さがある。
賃金上昇率は、米国の5.8%、ユーロ圏の3.9%に対し、日本は1.3%と見劣りする。
賃上げがインフレに追いつかなければ家計の購買力は高まらず、物価の安定的な上昇は見込みにくくなる。この点で日本の先行きは不透明である。
日本銀行は、1月18日、2022年度の物価上昇率見通しを0.9%から1.1%に引き上げた。インフレ圧力の高まりは「商品価格の上昇など、主として一時的な要因」(黒田東彦総裁)とみて、粘り強く金融緩和を続ける姿勢である。
原油相場の上昇を受けてバイデン米政権は同日、産油国などと対応を協議していることを明らかにした。<1バレル:約159リットル>
国家安全保障会議(NSC)のホーン報道官は2022年1月18日、「産油国や消費国と協議を続けている。価格に対応するための選択肢はまだ残されている」と表明した。米ブルームバーグ通信が伝えた。需要に応じた供給の増加について産油国と協議したという。具体的な内容は明らかになっていないが、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と原油の増産ペースについて話し合った可能性もある。
日本政府は、2021年11月19日にまとめる経済対策に原油高への新たな対応を盛り込んだ。国がガソリンの元売り会社に補助金を出し、これを原資に小売価格の上昇を抑えるのが柱だ。 新型コロナウイルス禍からの回復が遅れる日本経済への打撃を和らげるのが狙いだが、実効性や公平性には疑問符がつく。
経済産業省が発表した新たな対策は、ガソリンの小売価格(全国平均)が一定の水準を超えた場合に、元売り会社に補助金を支給する仕組みである。その分を値引きしてガソリンスタンドなどに卸し、小売価格の抑制につなげる。 ガソリンの平均価格が1リットルあたり170円を超えた場合に、補助金を出す案が出ている。補助金の金額は1リットル5円を上限とする方向だ。
支持率:56%→42%に低下
米国のホワイトハウスのサキ大統領報道官は、2022年1月18日の記者会見で、失業保険申請数の減少や失業率低下など実績を挙げ「大統領就任後の1年間は、米国史上最大の雇用増を記録した年だった」と述べた。米国の政権1期の1年目は、通常は堅調に推移するが、中間選挙がある2年目は下落する傾向にある。
バイデン政権の支持率が低迷し、中間選挙で共和党が議席を伸ばす可能性があるだけに、政治リスクの可能性は否めない。
アフガニスタンからの米軍撤収を巡る混乱で国内外から批判を浴びた2021年8月に
不支持が支持を逆転し、2021年10月上旬以降の支持率は40%台前半で推移する。要因の一つが、政策を決められないバイデン政権への失望である。
10年間で1.75兆ドル(約200兆円)規模の子育て支援、気候変動対策の歳出・歳入法案は与野党が拮抗する上院で採決のメドが立たない。
経済政策でも有権者の評価は低い。消費者物価指数(CPI)上昇率は、2021年1月の1.4%から、2021年12月には7.0%と39年半ぶりの高水準に達した。バイデン氏はインフレを「一時的」と軽視してきた。大企業の寡占が値上がりの要因だと批判するが、打つ手は限られる。
ワクチン接種の頭打ちが大きな課題になっている。
バイデン氏は「未接種者のパンデミック(感染症の大流行)」と批判し、物議を醸した。接種を完了した割合は直近で63%にとどまる。共和党の支持者を中心に反ワクチン層は根強い。現在の足元では、「オミクロン型」が広がり、新規感染者は高水準である。企業にワクチンの義務化を求める政権の措置は、2022年1月13日、連邦最高裁に差し止めを命じられた。
<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。
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