日税FPメルマガ通信 第348号

 

Ⅰ. 株価のチャートと最新の情報

1. 日経平均株価(225種)           2. ニューヨークダウ(30種)
    2年間(2021年10月27日現在)            2年間(2021年10月27日現在)

  1. 米国の金融政策 2022年中の利上げ実施の可能性がより高まる
    2021年9月に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)では、 2022年末までの利上げを見込むFRBメンバーが増え、2023年の金利水準もやや上方修正されました。
    商品の供給不足や原材料価格の上昇により、消費者物価の上昇が加速しております。 今後供給面での制約が解消に向かうことにより、物価上昇率は2022年後半にかけて低下していく可能性が高いとみていますが、供給制約の長期化や、賃金上昇圧力の高まりにより、インフレ率が高い水準で留まるリスクには注意が必要と考えます。

  2. 原油価格の急騰 1バレルは 約159ℓ 下記の表は過去3年間
    原材料価格の高騰や供給網の混乱による企業業績悪化懸念が、世界の株価の重石となっています。
    日本の9月の景気ウォッチャー(内閣府が毎月公表)調査では、景気の先行き判断DIが2013年11月以来の高水準となりましたが、今後は物価上昇が不安材料の1つとなってきております。
    なお、新型コロナの感染状況が落ち着き、緊急事態宣言が全面解除された事で経済正常化への期待が高まっており、7-9月期決算を経て今年度下期の業績見通しの上方修正が増えております。


Ⅱ. 世界的な物価上昇

  1. 資源価格
    (1) 原油先物価格の上昇の背景
    8月末に米国南部に上陸したハリケーンで被害が出た石油関連施設の復旧に時間がかかっていることに加え、主な産油国が8月以降に予定していた増産が、設備の整備不足などで進んでいないとの見方によるものであります。また、天然ガスにおいては、ロシアを巡る地政学的リスクもあって1年前の6倍に高騰するなどしたことも原油価格の押し上げ要因となっております。

    (2) 中国の「深刻な電力不足」
    資金難に陥っている不動産開発大手の中国恒大集団の経営危機で大きく揺れる中国経済でありますが、さらに、中国政府が環境対策として石炭を主燃料とする火力発電所の抑制に動いたことが深刻な電力不足の主な要因であります。全国の約3分の2の地域で、電力の供給制限が実施される異常事態となっています。

    (3) 中国政府は二酸化炭素の排出量を2030年までに減少に転じ2060年に実質ゼロ
    この目標達成に向け、今年のエネルギー強度(GDP1単位当たりのエネルギー消費量)を前年に比べて3%削減する目標を設定しました。しかし、今年(2021年)前半に目標を達成したのは、一部の地域にとどまりました。
    このため、目標未達の地方政府は最近、二酸化炭素排出量削減措置を強化しました。電源構成で約7割の比率を占める石炭火力発電所が次々と操業停止に追い込まれたことから、深刻な電力不足が生じてしまいました。

    特に影響が大きいのは、鉄鋼・アルミニウム・セメント産業ですが、電力不足の影響は全産業に及び始めています。米国のアップル社やテスラ社向け部品を生産している中国国内の工場が操業を停止しました。また、日系企業の自動車や家電を生産する工場にも影響が出始めています。
    市民生活にも影響が及んでいて、信号灯が消えて大渋滞となり、至るところで停電や断水が起きています。

    (4) 来年2月の北京冬季五輪に向けた「青空」確保のための対策
    中国政府のグリーンと環境保護政策は、今回の「テクノロジー冬季五輪」の主な見どころの一つです。
    水素エネルギー自動車の使用、五輪会場の100%の「グリーン電力」によるエネルギー供給のほか、最も注目されているのは「アイスリボン」と呼ばれる国家スピードスケート館です。
    また、政府の環境対策に加え、石炭価格の上昇による火力発電所の稼働率低下も電力不足の原因となっています。中国政府は2020年10月、豪州産石炭を外交上の理由(2020年4月に、豪政府が新型コロナウイルスの発生源を巡って中国での国際調査を求めました)で輸入停止としましたが、代替の輸入先の国が見つからず、このことが輸入石炭価格の上昇を招く結果となりました。

    国際的にも石炭価格が1年前に比べ3割以上も上がっており、欧州では13年ぶりの高値となっています。
    天然ガス価格が高騰したことから、相対的に価格が安い石炭への需要が急増した理由もあります。

    (5) 欧州の天然ガス高騰とイギリスのガソリン不足
    欧州では、冬の需要期を迎える前に天然ガス価格が急騰しています。天然ガス相場は世界的に春先から右肩上がりとなっていました。天然ガス先物取引価格は、2020年6月に当たり1.482ドルで底を打ってから上昇し始め、今年2021年9月14日には同5.26ドルを記録して、3.5倍以上も上昇しました。

    価格上昇の原因は、欧州各国が石炭や石油よりも温暖化ガスの排出が少ない天然ガスに切り替えていることにあります。欧州の天然ガスの在庫が、昨年の冬の寒波で大きく減少しました。
    また、再生可能エネルギーの不安定さも天然ガス価格を押し上げています。イギリスでは今年9月に入り風が弱く風力発電が十分に機能せず、これを補う形で天然ガス需要が増加しました。

    さらに、イギリスでは深刻なガソリン不足も起きています。イギリスの主要都市では9月27日、最大9割のガソリンスタンドで燃料在庫が底をつきました。トラック運転手の不足(EU離脱で移民が、自国に帰りました)により、製油所からの燃料輸送が困難になっており、これにパニック買いが加わりました。

    (6) 世界的に「脱炭素」の動きが加速化されるのか
    中国では石炭、欧州では天然ガスが原因となって、エネルギー危機が生じつつあります。

    今のところ日本では、未だエネルギー危機は発生していません。しかし、今後、「世界の工場」である中国の生産制限で、IT・家電製品などの価格が上昇し、欧州の天然ガス価格上昇と連動する形で液化天然ガス(LNG)価格が上がることが懸念されます。

  2. 最も気になる原油価格
    (1) OPECとロシアなどの非OPEC主要産油国で構成されるOPECプラスの現状
    現在、月ごとに日量40万バレルずつ増産しています。OPECプラスは2020年5月に日量970万バレルの協調減産を開始し、その後需要の回復に合わせて生産量を拡大してきましたが、それでも今年の世界の原油需給はなおタイトな状態が続く見通しです。

    国際エネルギー機関(IEA)は、「10月の世界の原油需要が、4カ月ぶりに増加する」との見通しを示しました。

    (2) 原油価格100ドル超えの可能性も
    今年2021年の冬が、例年よりも寒くなれば原油需要が拡大し、供給不足が進む可能性があるとして、2022年半ばには1バレル=100ドルとなるとする予測は、半年前倒しされる可能性が出てきました。
    さらに、中東地域での地政学リスクが上昇することになれば、原油価格の100ドル超えの可能性は格段に高まります。1リットル当たり160円台で推移している日本国内のガソリン価格が、200円を超える可能性も出てきました。

    石炭や天然ガスに続き原油まで高騰するような事態になれば、2度の石油危機が起こった1970年代のように世界経済は、物価圧力が高い中で景気回復が減速する、いわゆる「スタグフレーション(景気が後退していく中でインフレーション)」に陥ってしまう可能性もあります。

Ⅲ. 日本の給与の現状と今後の株価の見通し

  1. 岸田首相のコメント:成長と分配の好循環、給与のアップを






    出所: OECD(経済協力開発機構)日本は30年の間給与は上がらず、米国は30年間で給与は約2.5倍(250%)アップ。その背景は、人口の増加(米国は毎年約200万人増加、日本は約50万人の減少)とイノベーション(特許や新しい技術など)の差がある。
  2. 新型コロナ禍での物価の現状
    先の通り、賃金が上昇していない中で、資源価格(原油や鉄などの銅や資源価格)の上昇もあり、最近物価は上がっています。


  3. 日本の株式の見通し
    外国為替市場で円安・米ドル高が進んだことから、自動車などの輸出関連株が買われ、株価が上昇する週もありました。
    また、原油などの商品価格の高騰により米長期金利の先高観が強まったことなどから、グロース株(成長株)を中心に売られる場面もあったものの、米長期金利の上昇がやや一服したことや、岸田首相が金融所得課税強化を先送りしたことなどが好感されました。

    新型コロナウイルス流行による行動制限等の影響もあり、家計の消費支出は低迷したままであります。
    一方で、可処分所得は共働き世帯の増加に加え、給付金等による一時的な要因もあり増加傾向にあり、可処分所得と消費支出のギャップは大幅に拡大しています。

    緊急事態宣言の解除により行動制限が緩和され、外食、旅行など抑制されていた消費が喚起されるかが注目されます。
    外需の動向は概ね良好であり、グローバル経済の回復を背景に生産や輸出は回復傾向が続いています。
    しかし、部品不足による自動車の減産によって生産や輸出が影響を受けており、回復の持続性を見極める局面にあると見ています。

    なお、内需については、2021年9月30日に27都道府県で緊急事態宣言等が全面解除されたことや、ワクチン接種の進展によって停滞気味であったサービス消費の持ち直しが期待されます。また、岸田新政権による経済対策によって、一層の景気の底上げが図られるかにも注目が集まります。

    日本株の今後の見通しは、株価の変動が大きい状況が継続すると思います。最近では、資源価格高騰等により企業業績への懸念が強まったことや、米国株が一時調整したことを受け、直近1カ月で株価は下落しました。
    また、資源価格高騰はリスク要因ではあるものの、今後は部材不足の影響で生産調整を行っていた自動車生産の回復や、国内の経済活動再開が着実に進む可能性が高いことを考えれば、懸念一服後に株価は再び上値を試す展開を予想します。

  4. 米国の株式の見通し
    供給網の混乱による物価高騰が続けば株価調整が長期化する可能性も

    (1) 中国景気悪化懸念はあるが、米企業の決算を好感
    予想以上に中国の景気指標が懸念されましたが、その後は堅調な米企業決算などを好感されました。
    経営危機が問題にある中国恒大集団の株価が下落する場面もあったものの、同社が一部社債の利払いを実施との報道から市場の懸念は後退しました。

    2022年3月末に終了するPPEP (パンデミック緊急購入プログラム)については、議論を12月理事会に先送りする見込みであります。

    FRB(米連邦準備制度理事会)が、公表した重要な米地区連銀経済報告(ベージュブック:米国にある12地区の連銀による「景況報告」のことで、報告書の表紙がベージュ色)では、ほとんどの地区で緩やかな成長が続いていることが示されました。 コロナ禍からの経済活動の緩やかな回復基調が続いていますが、一部の地区では、供給網の混乱や人手不足が続いていることなどから成長ペースがやや減速したことが報告されています。

    雇用は緩やかに改善が進んでいるものの、雇用者からの高い求人需要に対し、労働者の供給は低い状況が続いています。
    多くの小売業や製造業では労働力の不足から時間短縮や生産削減に追い込まれていることも報告されています。
    また、先の通りで、物価はほとんどの地区で原材料不足や輸送運賃上昇の影響で、上昇が顕著になっています。
    仕入コストの増加を売り値に反映している企業も多いことが報告されており、今後消費者物価の更なる上昇も懸念されます。

    供給網混乱による物価高騰長期化の不安もありましたが、足元の企業業績は良好なものとなっており、GDP(国内総生産)成長率も年率換算で6%程度のプラス成長となるなど米国の景気回復は進んでおり、株価は底堅い動きとなっています。
    しかし、物価高騰の主因とみられる供給網の混乱は今後も続くとの見方も多く、物価高騰が長期化することも考えられます。物価高騰により利上げ開始時期が早まるとの見方が強まれば、株価が調整することも考えられます。


<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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