日税FPメルマガ通信 第344号

 

Ⅰ. 日米の株価のチャート


1. 日経平均株価(2年間) 2021年8月20日現在



2. ニューヨークダウ(2年間) 2021年8月20日現在




Ⅱ. マーケット環境のポイント

  1. 日本のマーケット
    新型コロナウイルス対応では、緊急事態宣言の期間を9月12日まで延長することや、対象を全国へ拡大する可能性などが報じられています。 経済、企業業績にとってはマイナスではあるものの、これだけで株式市場が大きく調整する可能性は低いと考えています。 政府分科会の尾身会長は、ワクチン接種進展に対応した社会経済活動の規制緩和方針を近いうちに示したいとも発言されています。 現在の感染状況が一服すれば、 政府から前向きな情報発信が増えてくる可能性が高い点は、留意しておきたいと思います。


    年末にかけワクチン普及に期待されて、業況感は改善も先行きはやや慎重な見通しです。 その背景には、新型コロナ感染拡大が当面リスクも、コロナの影響で2020年度の設備投資は急減していますが、2021年度末には持ち直す見込みです。 7月に入り国内では、新型コロナ感染再拡大がみられます。足元では東京都以外でも感染者数は増加傾向にあります。


    感染対策の対象地域 や適用期間は、今後拡大する恐れがあり、7-9月期も景気の急回復は見込みにくいとみております。行動制限下でサービス業を中心に個人消費は低迷が続く見通しです。 一方では、国内景気を支える輸出は中国向けがやや減速も、米国向けが牽引役となり回復基調が続いています。 引き続き堅調な輸出が、景気を下支えする可能性はありそうです。


    他方、ワクチン接種状況は7月末時点で高齢者の6割強が2回目接種を終え、今後は一般向けの加速が期待されます。 政府は 10~11月までに希望者全員の接種完了を掲げており、年内にワクチンが普及する確度は高まっています。 また、内閣支持率が低迷するなか、今秋の衆議院選挙に向けてコロナ対応を軸とした追加経済対策が組まれるとの報道もあり、10-12月以降行動制限緩和や財政支援の下で経済が明確に持ち直すかが注目されます。


  2. 2021年8月18日の米国の株価下落の内容
    (1)8月18日の米国株式市場でダウ工業株30種平均は続落
    前日比382ドル(1.1%)安の3万4960ドルと、2週間ぶりに心理的な節目である3万5,000ドルを下回って終えました。 その背景には、8月18日の午後に公表された2021年7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨で、年内のテーパリング(量的緩和の縮小)開始が示されて、金融緩和政策の縮小を警戒した売りが幅広い銘柄に出ました。


    (2)テーパリングについて
    7月の議事要旨では、「大半の参加者が、経済が彼らの予想通り幅広く発展するなら年内に資産購入ペースの縮小を始めるのが適切になるだろうと述べた」と明記されました。テーパリングを始める条件にしてきた米連邦準備理事会(FRB)の目標に向けた「顕著な一段の進展」については、物価安定は「満足する水準に達した」と判断、雇用の最大化も「満足する水準に近い(7月の失業率が5.4%に改善)」と指摘されました。


    しかし、7月の米住宅着工件数は3カ月ぶりに減少し、さらに、7月の米小売売上高など足元では市場予想を下回る(1.1%減少)経済指標の発表が増えており、米景気の減速懸念も株式相場の重荷となりました。


    (3)2021年7月の米国の小売売上高(米国のGDP約2,350兆円の約7割を占める)
    米商務省が8月17日発表された7月の小売売上高(季節調整済み)は6,177億ドル(約67兆4,900億円)で前月の改定値から1.1%減少しました。 前月は0.7%増えましたが、2カ月ぶりのマイナスとなりました。コロナ渦での経済再開や政府の景気対策を受けて力強く伸びていた個人消費の勢いが弱まりました。


    その背景には、半導体の供給不足で在庫薄となっている自動車・関連部品販売店の売り上げが3.9%減りましたが、これを除いてもマイナス0.4%でした。 前月3.7%増と大きく伸びた衣料・装飾品を扱う店の売り上げが、その反動で2.6%減と落ち込んだほか、百貨店も0.3%減少しました。
    一方で、夏休みで外出や旅行を楽しむ人が増え、ガソリン給油所の売り上げが2.4%増えました。飲食サービスも1.7%増加し、5カ月連続で堅調な伸びを維持しました。


    足元では新型コロナウイルスのインド型(デルタ型)の感染拡大で、再び消費の落ち込みが懸念され始めています。7月の売上高にその影響が出たかどうかははっきりしませんが、8月以降、下押し圧力になるとみられ見通しです。




  3. 米国の人口の伸びが最低に トランプ前政権の移民抑制政策と新型コロナウイルス
    (1)米国では史上初めて白人の人口
    米商務省国勢調査局が、8月12日公表した最新の国勢調査詳細版によると、2010年から2020年までに史上初めて白人の人口が減少しました。その結果として、ヒスパニック(スペイン語を母国語とする)や混血、アジア系などが、全体の人口増の大半を占めたことが分かりました。


    白人(ヒスパニック以外)の比率は57.8%と、引き続き人種グループとして最大となったものの、10年間で8.6%減少して、総人口における比率は過去最低を記録しました。一方で混血は増加して、900万人から3,380万人に膨れ上がりました。
    州別では、カリフォルニアはヒスパニックの比率が39.4%と、初めて最大の人種グループになりました。テキサスもヒスパニックは39.3%と、白人の39.7%に迫る比率となりました。


    (2)全ての郡の半分強で人口減少
    米国の総人口の伸びは10年間としては、1930年代の大恐慌時代を除くと歴史的に最も小さくなりました。全ての郡の半分強で人口が減り、人口が増えたのはほぼ大都市部のみです。人口数トップ5の都市は、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ヒューストン、フェニックスです。


    特に、フェニックス(アリゾナ州で砂漠地区であるが半導体などの工業都市)は上位10都市の中で最も人口が増え、フィラデルフィアと入れ替わりで、第5位に躍進しました。


    経済の成長 = 人口の増加  ×  イノベーション(新しい技術の発明)


    「スペイン風邪」として知られるインフルエンザが流行し0.1%減少した1918年以来の低い水準です。トランプ前政権による移民抑制に新型コロナウイルスの影響が加わりました。米国勢調査局によると、1901年以降で人口が前年より減ったのは1918年のみです。2020年の人口は、2019年比0.4%増の3億2,900万人となりました。




    米国の人口増加率は、トランプ前政権下で縮小してきました。2017年は0.6%、2018年と2019年は0.5%でした。2017~2019年の移民増加数は、年平均で74万3,000人でありました。その前のオバマ政権の2期目が、平均100万人だったのに比べ26%も減少しました。移民減が人口の伸び鈍化をもたらしていたところに、さらにパンデミック(世界的大流行)が追い打ちをかけました。


    米国も高齢化が進むなか、労働力を増やす上で移民の受け入れは欠かせないと指摘する意見も多くなってきました。そこで、バイデン米政権はトランプ氏の移民規制を転換して、米国永住権(グリーンカード)の発給停止措置を解除するなどしています。


    しかし、一方では、米国では3月の不法越境者数が前月比で7割も増えるなど、寛容な移民政策に期待した不法移民が増加しています。この不法移民については、野党の共和党からは批判が上がっており、移民受け入れの拡大は不法移民対策と隣り合わせとなっています。


Ⅲ. 米中の国際特許面での競争が激化に

    再度ですが、


    経済の成長 = 人口の増加  ×  イノベーション(新しい技術の発明)


  1. 世界知的所有権機関(WIPO)の2020年の特許の国際出願件数を発表
    中国が2年連続の首位で、韓国もドイツを抜き4位に浮上しました。新型コロナウイルスの感染拡大でIT(情報技術)サービスの需要が拡大し、アジア勢を中心に技術革新が進んでいます。


    国際特許は、特許協力条約(PCT)に基づく制度で、1つの加盟国への出願で複数国に出願したとみなされます。企業や大学の技術力や国際化を示す指標となります。 2020年は世界全体では、前年比4%増の27万5,900件と過去最多を更新しました。


    特に、コンピューター技術やデジタル通信での出願が目立ちます。仮想現実(VR)や拡張現実(AR)など視覚・聴覚に関連する技術の出願も30%増と大幅に伸びました。新型コロナで現実世界の「密」を回避する手段として、技術開発が急速に進んだ可能性があります。



    中国は、2019年に対して2020年は16%増の6万8,720件と成長が加速しています。


    習近平(シー・ジンピン)指導部は、ハイテク産業育成策「中国製造2025」で企業に多額の補助金を投じ、知財強国としての地位確立を急いでいるのが主たる要因です。 2万件を超えた韓国は、2020年にまとめた韓国版ニューディール計画で次世代通信規格「5G」や人工知能(AI)に集中投資する計画を打ち出しました。
    一方で、2位の米国(3%増の5万9230件)、3位の日本(4%減の5万520件)は、なお高水準を維持しているものの、頭打ち感は否めないのが現状です。 米国のトランプ前政権と同様にバイデン政権も、中国の知的財産権の侵害や技術移転の強要を問題視しています。


    米中による先端技術の覇権争いは、今後一段と激しくなりそうです(つまり、日本にとって、最大の貿易相手国である米中の争いは影響が大きいです)。
    個別企業では、上位50社のうち、日中韓が6割以上を占めました。 首位は4年連続で中国の通信機器世界最大手、華為技術(ファーウェイ)です。 韓国のLG電子は10位から4位に躍進、主力の白物家電を中心に技術力に磨きをかけています。


    日本では三菱電機が3位、ソニーが9位に入りました。教育機関からの出願は上位10校のうち9校は、米国のカリフォルニア大学や中国の深圳(しんせん)大学など米中の大学が占めました。なお、日本の大学での最高は、東京大学の10位でした。


    一方、ブランドネームなどを守る「商標権」の出願件数は、6万3800件と微減となりました。新型コロナによる景気悪化で、新商品やサービスが減ったことや商標権の出願にまで予算を振り向けにくくなったことが一因とみられます。

  2. 「中国製造2025」とは
    中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が掲げる重要な産業政策であります。2015年5月に発表しました。次世代情報技術や新エネルギー車など10の重点分野と23の品目を設定し、製造業の高度化を目指す。建国100年を迎える2049年に「世界の製造強国の先頭グループ入り」を目指す長期戦略の根幹となります。



    第1段階である2025年までの目標は「世界の製造強国の仲間入り」としています。品目ごとに国産比率の目標を設定しており、例えば産業用ロボットでは「自主ブランドの市場占有率」を2025年に70%としました。次世代通信規格「5G」のカギを握る移動通信システム設備では、2025年に中国市場で80%、世界市場で40%という高い目標を掲げました。中国政府は中国製造2025の策定後、関連産業に対する金融支援や、基盤技術の向上支援などの施策を相次ぎ打ち出しています。


    中国と技術覇権を争う米国は、中国製造2025の中身に警戒を強めています。 2018年に入ってから開かれた米中貿易協議の中で、米国は中国に対し、関連産業への補助金といった政府支援の中止など計画の抜本的見直しを要求しましたが、中国側は米国の要求に全く応じない姿勢をバイデン政権になっても続けています。


Ⅳ. 米国の財政対策および雇用の現状

  1. 米国の議会での予算決議  3.5兆ドルの規模
    8月11日、2022会計年度(2021年10月~2022年9月)予算の大枠となる予算決議案を可決しました。下院でも可決すれば、子育て支援や住宅の供給、環境に優しい技術の導入などに3兆5,000億ドル(約388兆円)を投じるバイデン政権の財政支出案を具体化し、与党・民主党が単独で可決できる環境が整います。


    財政支出計画は、幼児教育の機会拡大や子育て世代の減税を想定しております。再生エネルギーへの投資拡大や電気自動車(EV)の普及など気候変動対策も含めています。


    財源には企業や富裕層への増税を検討する方向です。環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素税」も候補に挙がっています。


  2. バイデン政権はインフラ投資
    インフラの他に気候変動対策を盛った「米国雇用計画」と子育て支援を含む「米国家族計画」を掲げます。インフラ投資(1兆ドル:約110兆円と大規模)は、超党派で合意し、上院が8月10日に法案を可決しました。 残りの政策は、共和党が反対しており、民主党単独で実現を探っています。


  3. BLS(米国労働省の労働統計局)からの発表
    2021年4月と5月の雇用統計で、非農業部門雇用者数の増加が振るわなかった理由は(4月27.8万人、5月58.3万人)、需要よりも供給サイドの問題でした。つまり仕事に対して応募者が少ないのです。
    その原因のひとつに「良すぎる失業給付金(週に300ドルの上乗せ給付)」が指摘されています。


    失業でもらえる給付金が給料より多いのだから勤労意欲がなくなるのは当然です。
    そこで一部の州が、失業給付金の上乗せ金額の減額を実施したところ、途端に求人サイトの閲覧数が5%もアップしました。


      ※上記の表:米国の労働省から引用


    米国労働省が8月6日に発表した7月の失業率は5.4%と、市場予想(5.7%)を下回りました。


    失業者数が前月から78万2,000人減少したことに加え、就業者数が前月から104万3,000人減少したことにより、失業率は前月の5.9%から0.5ポイント改善しました。非農業部門の雇用者は94万3,000人増で、こちらも市場予想(84万5,000人増)を上回り、6月の93万8,000人増とほぼ同等の大幅な増加となりました。


    失業者のうち、一時解雇を理由とする失業者数は前月(181万1,000人)より57万2,000人減少して123万9,000人、恒常的な失業者数は前月(318万7,000人)より25万7,000人減少して293万人となり、ともに大幅に減少しました。




<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建主任者、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。


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