日税FPメルマガ通信 第340号

 

Ⅰ. 2021年6月21日の株価の大きな下落の意味は?

お読み下さっておられる方の中には、心配されていた方も多いと思います。今回は、この内容を中心に書きました。私が銀行などで研修に行った際もご質問が多いです。

1.2021年6月21日(月)の株価の急落の中身

  1. 概要
    東京株式市場で日経平均株価の終値は、前週末比953円日本は3.3%の下落、米国は1.5%の下落)安の2万8,010円でした。 株価の下げ幅は、何と一時1,000円を超えて約1カ月ぶりの安値を付けました。
  2. 下落の背景
    6月18日に米連邦準備理事会(FRB)が、2022年後半への利上げ前倒しを示唆したため、市場が事前に予想していたより金融政策の正常化が早く進むとの見方が台頭しました。
    コロナ禍を受けてFRBはゼロ金利政策を実施(2020年、トランプ氏が大統領の時に2020年から2023年末まで)し、米国の10年物国債の利回りは1%を割り込む水準まで低下していました。

2.2021年6月15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の方針

米国では2024年としてきた利上げ時期の想定を2023年に前倒しするなどタカ派色の強いものとなりました(金利が上がると企業の金利負担が増えて利益が減少したり、また、金利が上昇すると株式から安全資産である債券に資金が流れやすくなるので株価は下落する可能性があります)。米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が、公表されたのは6月16日でした。

米国の10年債利回りは、発表前後に1.49%台から1.59%台へ上昇しました。FOMCのメンバーは全員で18人であり、その中の7人が2022年の利上げを提案しました。市場は、「あと3人で過半数となる(利上げに積極的な)タカ派的なシグナルである」と一時騒然となりました。ところが、6月17~18日には米国の10年債の利回りは、特段の材料もないまま1.43%台へと元の水準に戻りました。また、米国の30年債にいたっては2.00%と約4カ月ぶりの水準に低下しました。さらには、「短期的な米国債の発行減が理由では」(国際金融協会)などと諸説が飛び交ったりしました。

3.米国経済が好調でインフレの方向に

  1. 米国の物価の上昇(インフレ)の要因は
    そのインフレになる背景は、景気回復による需要増加で、
    • 在宅勤務の増加などの理由で、中古住宅は今年の5月には昨年より23%も上昇
    • 原油、また銅は上げ幅が2020年の最安値の2.5倍にも上がり年初から5月末には最大で37.5%上昇など資源価格や半導体の価格の上昇
    • 原油、また銅は上げ幅が2020年の最安値の2.5倍にも上がり年初から5月末には最大で37.5%上昇など資源価格や半導体の価格の上昇
    • バイデン政権は、国民にコロナ関連で2021年3月から1人当たり最大1,400ドル(日本円で約15万円)の現金給付を始めた
    • 政治面では
      2021年に入って、米民主党が大統領職と米連邦議会の上下両院の主導権を握る「トリプルブルー(大統領と米国の議会の上院・下院とも民主党が過半数の議席)」が実現しました。民主党が「大きな政府」の名の通り、大規模な財政支出を実施するために国債を増発する可能性を織り込み、米国の10年物国債(金利の指標)の価格は下落に転じ、利回りは上昇して10カ月ぶりに1%を超えました。
  2. FOMC参加者の政策金利予想はサプライズ
    パウエルFRB議長は記者会見で、FOMCが資産購入漸減(テーパリング)を加速させる可能性については、示唆しませんでした。
    つまり、インフレ指標が、今後も不安定に推移し続ける可能性があるためです。テーパリングにかかる決定では、今後数ヶ月間程度の労働市場の動向(雇用関連:特に失業率)が、より重要になることを示唆していると考えられます。
    今後の会合、おそらくは次回の2021年7月27~28日の会合(1年間に8回開催されます)において、より集中的な議論を開始することで合意に達しました。
    そのため、世界の株式市場は、一時は動揺しましたが、投資家は冷静でした。

4.FRBの政策は、「新型コロナで危機対応」から正常化の方向に

米景気回復の順調さの表れであります。「カネ余り」環境は、即座に解消するわけではないとの見方が背景にあると思われます。

  1. 米国の株式市場
    足元では、景気敏感株が利益確定売りに押される一方、出遅れ感のあったハイテク株が買われ、米国のナスダック100指数は約2ヵ月ぶりに最高値を更新しました。
  2. 2021年の後半の見通し
    金融政策の転換点を前倒しで織り込んだということは、2021年の後半のリスクがその分低下したということでもあります。
    今後、連邦準備制度理事会(FRB)が、予想よりも遅い労働市場の回復を構造的なものと判断すれば、テーパリングのプロセスを早めるかもしれません。今回6月の政策声明は、比較的小幅であり、主に足元の情報を反映しています。全体として、今回の決定は、FOMCが利上げ開始時期に関連して、市場の予想以上に過去のインフレ率の推移に影響されやすいことを示唆しています。
    FRBは早期のテーパリングや利上げは否定しつつも、長期金利の上昇を容認しています。FRBは期待インフレをある程度維持することで、実質金利の急騰を抑えつつ、金融環境をこれまでの緩和状態から正常化へ緩やかに戻そうとしていると考えられます。
    何れにしても、今回の日米の6月中旬のマーケットの大きな動きは、一時的な調整であります。企業業績や業況感の回復は今後も続くと予想されますので、調整を経た後に再度盛り返していくと考えられます。
  3. 過去の統計:米国の急な金利上昇の分岐点
    米国の過去数十年の統計では、1カ月で0.37%以上の金利上昇が発生した際には、米国株式市場は明らかに悪影響を受ける傾向がみられます。

Ⅱ. 日本の株式市場

1.日本株相場は一進一退の展開であろう

今後の日本の株式相場は、一進一退の展開を想定します。FOMCの開催後は、日米株ともに利益確定の売りが優勢となっています。一方で、下値での買い意欲も強いとみられます。当面は、日経平均株価は29,000円を挟んでもみ合う動きとなると思われます。
一方、TOPIXが底堅く推移しており、個別株の物色意欲は衰えていません。特に、半導体や脱炭素など堅調な推移が続いていたテーマ株にも注目しても良いと思われます。もっとも、日本市場はワクチン接種のスピードが想定以上に速いことや、東京オリンピック・パラリンピック開催も確定的となり、市場心理の好転が期待できそうです。こうした日本特有の好材料が株式相場を支えるとみられて下値は限定的といえます。
なお、日本の場合には、インフレ率は低位にとどまる可能性が高く、緩和的な金融政策は当面継続され、 現行の金融政策の持続可能性を高めるために日本国債の買い入れ額を減額するなどの動きがみられるものの、引き続き10年国債利回りの上昇は、抑制される見通しです。
また、FOMCの6月の会合の後は、ドル高円安となりました。日本の輸出企業は為替の影響が薄らいでいるため、以前ほどの円安メリットは見込めないですが、今後の業績面でも特に、自動車関連やハイテク関連には追い風となりそうです。

2.日米の株価の現状

(1)日経平均株価(最近の2年間)         (2)ニューヨークダウ(最近の2年間)
(3)日米の株価の現状

3.日本銀行の金融政策について

  1. 日本銀行のコロナ対策のコメント【6月17~18日の日銀金融政策決定会合で企業の資金繰り支援策の期限延長が、決定されました。】
    6月17~18日の日銀金融政策決定会合で、長短金利操作などを中心とした現行の金融緩和政策の現状維持を決定しました。現状の景気については、輸出を中心に回復が見られていることから『引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している』との判断を維持しました。
    また、先行きについても『回復基調をたどる』を維持しました。
    日銀は、今後ワクチン接種の進捗状況と経済活動への効果を確認しながら、これまでの各種政策の効果を当面の間、見極めていく方向であります。
  2. 日銀の資産買入れの方針【現行の金融政策(資産買入れ方針)については、維持する】
    ETFは1年間で約12兆円、J-REITは1年間で約1,800億円に相当する残高増加を上限に、コロナ感染収束後も必要に応じて、買入れを継続する。

4.良い金利上昇と悪い金利上昇 【今回は良い金利上昇です】

  1. 良い金利上昇とは
    景気の回復が見込めて、株価が上昇し、一方で債券が売られて債券価格は下落(逆に、利回りは上昇)、企業の設備投資などが活発化し、資金需要が増えるなどのケースでの金利上昇が該当します。
  2. 悪い金利上昇とは
    例えば、政府の財政が拡大し、国債価値が下落する恐れがある、あるいは、景気の過熱によってインフレ率が急伸して、それを抑制するために中央銀行が引き締め政策をとるなどのケースでの金利上昇が該当します。
    なお、良い金利の上昇なのか、悪い金利の上昇なのかを判断するのは難しい面もあります。例えば、実質GDP成長率と財政赤字の対GDP比の市場の予想を見ますと、最近では、2021年1月以降は、米国のバイデン政権ではコロナで大型の経済政策が発表されたため、いずれの予想も大きく上昇しました。
    このように成長期待と財政悪化懸念が同時に進行する場合もあります。こういったケースでは、最終的に株価が堅調に推移するのであれば、市場は良い金利上昇とみなします。また、株価の調整が長引けば市場は悪い金利上昇とみなします。

※データの出所:ブルームバーグ社の許諾はとっております。



<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建主任者、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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