具体的には、不動産価格の下落、働き方や雇用問題、IT人材不足などによって私たちの生活が脅かされ、負担やリスクが大きくなるという問題です。
ここでは、安心・安全な生活をしていくうえで重要な衣食住の1つ「住」の不動産について、不動産価格の下落が2020年に起こる要因はあるのかについて検討します。
2020年に不動産価格が下落すると予測されるのは以下の6つの理由があるからといわれています。
1.投資目的のマンション増加に対して人口減少による空き家の増加
国道交通省発表の2016年度の「マンションの供給戸数(竣工ベース)」によるとマンションの在庫戸数はマンションの耐用年数が長いこともあって右肩上がりで増加しています。
2016年度末の在庫戸数は633.5万戸にのぼります。なお2010年からの新築マンション供給戸数は、ピーク時と比べると半減しており在庫数の伸びはやや緩やかになっています。
しかし、以下の理由で投資目的や減税目的でタワーマンションの人気が高まってこれらのマンション戸数は増加しています。
一方、少子高齢化による人口減はすでに始まっており、今後空き室の増加は構造的に避けられません。
そのため以下に述べるような2020年を契機に起こると予測される価格下落の要因とあいまって下落すると考えられています。
2.マンション価格だけが2013年以降継続上昇しバブル状態?
国土交通省が発表する不動産価格指数(2008年4月から2017年12月)によると宅地や戸建て住宅の価格は、2008年から2017年まで10年以上にわたって微減から横ばいでの推移です。
しかし、マンション価格だけは(2013年2月までは微増・微減しながら横ばいでの推移でしたが)2013年3月からは右肩上がりで上昇を続けています。上昇幅は、全国平均価格で2013年3月以降の価格に対して約4割弱です。
エリアによっては約8割弱も上昇しています。宅地や戸建て住宅が横ばいで推移していることを考えるとマンション価格の上昇は、バブルと考えられます。バブルは必ず破裂することから、その時期が2020年ころではないかと懸念されています。
3.空室の増加によるマンションの管理・運営の困難さが増大
少子高齢化の進行に対して、マンションの供給は減少しておらず、結果として空室が増加します。
空室が増加してもマンションは、その価値を維持するためには必要な修繕や管理が十分に行われねばなりません。修理や管理は、居住者が加入する管理組合で合意を得て実施されます。
しかし空室が多いと修繕費や管理費が不足し、マンションの価値を維持するための修繕や管理が十分に行われにくくなります。
また、空室の所有者が前に居住していた高齢者の子どもに移った場合、マンションの修繕や管理に関する合意も得られにくくなります。こうして、必要十分な修繕や管理がおろそかになるとマンションの価値が大きく落ちて価格も下落するリスクが大きくなります。
4.省エネ基準が2020年に義務化
2020年に新築住宅を対象とした「省エネ基準」が義務化される「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が施行されます。
住居には、「耐震性」「省エネ性」「耐久性」の3つの重要な性能が求められます。
このうち地震国である日本は「耐震性」の基準強化は1981年に行われ、旧耐震基準を大きく上回る新耐震基準が定められました。
現在は新耐震基準でない建物は違法建築として新築できません。
省エネ基準が定められることで、耐震基準と同じことが起こることが予測できます。
それは、省エネ基準を満たしていない建物が売買の対象にならない、あるいはなっても大幅に価格を下落させないと販売できなくなるリスクです。
2020年以降に省エネ基準を満たしていないマンションや戸建て住宅の価格は、下落するリスクが高まります。
5. 2019年10月の消費税増税(予定)による下落
2019年10月に消費増税が予定されています。不動産は価格が高いため、わずか2%の増税ですが駆け込み需要が起きると考えられます。
このときは需要の増加によって、一時的に価格が上昇することも考えられますが、需要の一巡後には購入が落ち込み、価格上昇前よりもさらに下落する可能性があります。
特に、販売業者が需要見込みを誤って売れ残ると在庫処分販売するため価格が下落し、その影響が既存のマンション価格にも波及して下落が連鎖反応を起こすと考えられます。
6.東京オリンピックによる不動産バブルの崩壊
2020年の東京オリンピック開催で現在は競技場開発やその関連業務で首都圏の人口が増加し、消費が増えて経済に好影響を与えています。
しかし、これらのオリンピック関連の人たちや関連特需が、2020年以降に首都圏からなくなります。その影響は住居ニーズの減少だけでなく地域の消費を減少させ経済にも影響を与えます。
この景気の沈滞ムードは首都圏以外の地域にも影響を与える可能性があり、これがマンション価格の下落を生じさせると予測されています。
2020年不動産問題として懸念される不動産価格の下落が起きる理由はマンションに多く関係しています。そのため不動産価格の下落の傾向はマンションにより早く訪れると考える専門家も多いようです。また、バブルのように一気に価格の下落が起きるかどうかは別にして、人口減による空き家の問題はすでに地方を中心に社会問題化しており、各地方自治体は空き家対策に苦慮しています。
マンションも同様に空室の増加で十分な修繕や管理ができないことから老朽化が促進され、いずれ空き家と同じようなマンションの廃虚問題が起こると考えられます。
また、人口減は物理的に空き家・空室が増加するだけでなく消費減少による経済悪化が貧富の格差を生み、全体の購買力を縮小させる方向に進めます。すると不動産を購買できる層が少なくなり、新築不動産価格の下落を招きます。
同様に賃貸不動産も需要に対して空き家・空室が多いと家賃が下落し、家賃の下落は不動産価値の下落につながります。2020年に不動産価格が下落するのは、限定的かもしれませんが、構造的に下落する要因があり、ここが解決されない限り下落が進行することは間違いありません。
なお、2020年を契機に不動産の価格が下がる可能性が高いのは、省エネ基準に合致していない古いマンションや戸建て住宅です。これらの不動産は2020年までにできるだけ早く処分するなどの検討をしたほうがいいという専門家が多くいます。
2020年に社会・経済の構造変化によって起こると予測されている問題の1つとして不動産を取り上げ、不動産価格の下落が2020年に起こると考えられる理由について解説しました。
2020年を前に不動産への投資を考えている人は、先のニーズをよく考慮して判断する必要があります。逆に、将来のニーズが期待できない物件に住んで買い替えなどを検討している人は、早めに決断をするほうがよい結果になると考えられます。
なお、不動産価格の下落が起こる要因は細かなエリアによって様々です。若者が多く集まりワンルームマンションのニーズの高い地域もあれば、子育て世代に地方自治体の子育て支援が充実し、また環境も子育てによくて人気の高い地域もあります。そのような地域では、ファミリー向けマンションや戸建て住宅へのニーズも多く、価格が大きく崩れない可能性があります。不動産の購入や売却の判断は、慎重に検討する必要があります。
<著者プロフィール>
福田 猛
ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役
大手証券会社入社後、10年間、1,000人以上の資産運用コンサルティングを経験。2012年IFA法人であるファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。独立系資産運用アドバイザーとして数多くのセミナーを主催し、幅広い年齢層の顧客から支持を受け活躍中。
著書に「金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託」(幻冬舎)がある。
2015年楽天証券IFAサミットにて独立系ファイナンシャルアドバイザーで総合1位を受賞。
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