日税FPメルマガ通信 第298号

  

 

 

  

オーストラリア経済のリスクと豪ドル見通し 前編 

平成30年9月15日発行

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  本稿のポイント
(1)豪ドル安は米ドル高の裏返しの側面がある。したがって豪ドル固有要因も重要だが、それ以上に米ドル要因の重要度が高い。
 

(2)米国利上げ局面ではドル高、資源安(資源国通貨安)とよく言われるが、その根拠は薄い。投資家が投資対象として米国or新興国、どちらを選択するかの問題であり、それは局面毎に大きく異なる。18年年初以降は、北朝鮮、貿易問題等のイベントが多く、足元の投資家は新興国を避けているようには見えるが、今後は全く分からない。

 

(3)豪州固有の問題として不動産バブルへの懸念が根強い。こちらの懸念は杞憂ではないように見える。

 

(4)結論。上記(1)、(2)に明確な見通しが無い限り、(3)の要素を重視した方が良いのではないだろうか。

 

尚、豪ドルを含む高金利通貨に投資した際の一般的なリスクに関しては、別のコラムで詳細を説明したいと思います。高金利通貨投資で長期リターンを残すのは非常に難しいことを示したいと思います。

■1.はじめに

 豪ドルは日本人個人投資家にとって人気通貨の一つですが、今一つ冴えない状況が続いています。
「鉄の価格、大暴落!? 理解のカギは中国とオーストラリアの関係?」でも指摘した通り、世界の資源価格は底値からは若干反発しましたが、依然として低迷が続いています。

 特に豪州最大の貿易相手国である中国の経済成長率が鈍化したままであり、直近では15年中国ショック以降(人民元の切り下げ)、豪ドル安がもう一段進みました。また豪ドルは高金利通貨として日本人にも人気がありましたが、今や米国金利と大きな差がなくなりつつあります。

 リーマンショック以前の豪州経済は資源輸出で潤っただけではなく、各種資源を生産するための設備投資ブームでも大きく潤いました。鉄鉱石・石炭の鉱山開発、それを輸出するための港湾・鉄道設備、LNG採掘プラント等、名だたる巨大プロジェクトが続いていたからです。

 裏返せば、リーマンショック以降は資源輸出ブームが去っただけではなく、これらの設備投資ブームも終焉してしまい、その反動に苦しむことになりました。もちろん、豪州当局もこの状況を静観していたわけではなく、豪州中央銀行(RBA)が積極的な利下げを行い、経済底入れを図ってきました。

■2.移民も重要な経済政策

 また豪州は積極的に移民を受け入れる国として有名です。

 今、世界では移民政策から距離を置く国が増えており、移民=国内の労働機会を奪う存在、という見方が増えています。米国トランプ政権が典型ですが、英国EU離脱の背景にも移民問題が存在します。また貧しい移民の増加はテロ活動の温床という見方が一部にあります(一部の欧州国)。

 豪州国内にも移民反対の声が出始めている点には要注意ですが、それでも世界の中では移民に寛大な国と言えます。なぜならば、豪州は国内経済のテコ入れ策として、移民政策を有効に活用してきた経緯があるからです。

 後ほど詳しく述べますが、豪州の総人口は2400万人程度であり、過去30年で1.5倍に増えています(年率+2%強)。過去10年で見ても、年間20-25万人の移民が増加しており(年率1%前後の総人口増加要因)、これは大きな経済成長のドライバーになります。

 豪州への移民は米国と異なり低所得者の移民ではなく、豪州が求める各種条件を満たした人々です(技能毎に条件が存在)。豪州は人道的移民(難民)とその他移民を厳格に区別しており、政府は移民を経済成長の有力な手段として位置付けています。

■3.豊富な移民が住宅需要を生み出す

 ある程度の所得と技能のある移民の増加は付随する住宅需要(10-15万戸/年)を生み出すため、更なる内需押し上げ要因になります。

 このような住宅需要の顕在化に加えて、リーマンショック以降は金利低下が加速したため、投資目的の不動産需要も加速しています。結果として資源輸出、資源関連設備投資の減速をある程度これらの不動産投資で相殺できた格好になっています。

 感覚論ですが、同時多発テロ後の米国に類似しているように見えなくもありません。当時の米国はITバブル崩壊等で経済が鈍化しているタイミングにテロ勃発が重なり、経済は危機に直面しましたが、グリーンスパン議長が率いるFRBの迅速な利下げにより、住宅投資が活性化した経緯があります(08年リーマンショックの遠因へ)。結果論ですが、グリーンスパン議長は株ではじけたバブルを住宅バブルに付け替えたと後に批判されることになります。昨今の豪州も非常に似た状況に見えてしまいます。

■4.最大のリスクは住宅市場?

 今回のコラムでは、「豪州住宅市場」にスポットライトを当てたいと思います。

 豪州経済、豪ドル等を考える場合、一般的なイメージとして資源価格や中国GDP成長率との連動をイメージすることが多いと思います。また過去の米国利上げフェーズでは、ドル高(資源国通貨安)になる傾向もあり、足元でもある程度その通りになっています。一方、豪州には不動産バブルへの懸念が根強く存在しており、投資を考える際には避けられない論点になっています。豪州住宅価格はグローバル比較でも目立っており、特に大都市部のマンション価格が高騰しています。前述した通り豪州には移民流入が多く、移民による住宅需要が不動産価格高騰を正当化する一つの要因として考えられています。

 但し、この見方には大きなリスクがあります。住宅価格上昇自体が経済を押し上げる効果があり、好調な経済は移民を惹きつける要因になります(移民と経済成長には正の相関)。そして移民増加が不動産価格上昇の理由ならば、移民→経済成長→不動産価格は相互に循環していることになります。

 したがって、一旦住宅価格が大幅に下落すれば、全てが同時に逆回転するリスクが出てきます。経済低迷→移民低迷→不動産価格低迷です。この場合は深刻な経済危機に陥ることになります。また経済危機に陥れば、豪州でも移民反対運動が強まるリスクがあり、悪循環に更に輪をかける可能性があります。バブルがいつ弾けるかは誰にもわかりませんが、以下の述べる通り、豪州に大きなバブルの火種が存在することは、ほぼ間違いのない事実であると見ています。

■5.豪ドル安の裏側では?

 豪ドル安の背景として、資源安との関係が指摘されることが多いと思います。実際、豪州からの輸出には多くの天然資源(鉄鉱石・石炭・天然ガス・農産物)が含まれています。天然資源の主要消費国は中国であり、弱い中国経済が天然資源価格低迷の背景の一つと理解されています。

 一方、豪ドル安を考える上では、米ドルとの関係も考える必要があります。直近米ドルは世界の通貨の中で上昇が目立っており、豪ドル安は米ドル高の影響を強く受けている可能性があります。実際、豪ドル安が急速に進んだタイミングと米ドル高のタイミングは重なっています。代表的な為替であるドルユーロ相場を観察すると、13年後半頃から急速にドル高が進んでいることが分かります。丁度米国で量的金融緩和が縮小し始めたタイミングと重なっています。

 つまり、短期的なドル高の背景には金融政策が大きく影響している可能性があります。18年末には欧州中央銀行による量的金融緩和が完了する予定であり、これがドル相場にどのような影響を与えるのかが今後の大きな焦点になります。そのタイミングにドル高が修正されるようなことが起これば、豪ドル安が反転する可能性も残っています。
【コモディティー価格と豪ドルの関係】
*各種一次産品価格(CRB指数)と豪ドル(対米ドル)には一定の関係

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【ドルとユーロの為替動向】
*13年以降の米ドル高が目立つ状況
*こうなった背景には両地域の金融政策の違いが反映された可能性

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【米国・欧州の量的金融緩和】
*ドル高が進んだタイミングは米国量的緩和が縮小・終了したタイミングと重なる
*ドル高はFRBが緩和縮小に言及したタイミングで始まる(13.5月:実際の縮小は年末)。
*欧州の量的緩和は18年末で終了する予定

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【豪ドル(対米ドル)の絶対的な水準】
*通貨の実力と言われる購買力平価に極めて近い水準(決して割安ではない)
*13年以降の豪ドル下落は「割高の修正」という見方も可能
*その修正の契機としてドル高進展が存在

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【米ドル(対ユーロ)の絶対的な水準について】
*豪ドルと同じく、米ドルに関しても購買力平価に近い水準にある

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■6.米国利上げ=ドル高に根拠なし?

 米国利上げ局面では、新興国通貨安になりやすいと指摘されることが多いですが、過去のデータを見る限り、必ずしも正確な表現とは言えません。

 90年以降の過去30年間で見れば、米国利上げ局面は4回ありました(94年、97年、99年、04年)。その4回のうち、明らかにドル高となったのは97年、99年の2回だけです。04年のケースでは、以後17回に及ぶ利上げを行ったにも関わらず長期金利は上昇せず、ドル安基調も継続したため、当時のグリーンスパン議長は「コナンドラム:謎」と表現したのが有名です。

 米国利上げ局面で新興国通貨安を想定するということは、利上げ局面では投資家がドルを選好する世界を想定するということです。通常利上げは経済が好調な局面で行われるため、そのタイミングで米国資産が選好(=ドル高)される現象は、一見自然に見えます。

 但し、投資家はあらゆる資産を比較しながら投資対象を決めるため、米国利上げ局面でドル高になるには、「他国に比べてもドル資産が相対的に魅力的」となる必要があります。利上げ局面でドル高になった97年はアジア危機(アジア通貨暴落→ドルが選好)、99年はITバブル(米国IT企業が暴騰)とそれぞれ米国が他国対比で選好される明らかな理由がありました。一方、04年では中国を始めとするBRICS経済が急成長する局面に当たり、新興国資産に投資家の人気が集中しました。

 以上のように米国利上げ=ドル高、とは必ずしもならない局面が存在することには注意が必要です。世界の投資家は急速にグローバル化しており、儲かる対象を血眼になって探しています。米国の利上げは投資家にとって米国関連資産を選好し易くする現象であることに間違いはありませんが、その観点だけで投資家は投資対象を探しているわけではありません。

【米国利上げ局面とドルの動向】
*ドルの主要貿易相手国に対するバスケット価格で表示(ドル指数)
*利上げ局面でもドルが下がる局面が存在(図中の矢印の局面)

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<オーストラリア経済のリスクと 豪ドル見通し 後編>(第299号)に続く

 

<著者プロフィール>

福田 猛

ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役

大手証券会社入社後、10年間、1,000人以上の資産運用コンサルティングを経験。2012年IFA法人であるファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。独立系資産運用アドバイザーとして数多くのセミナーを主催し、幅広い年齢層の顧客から支持を受け活躍中。

著書に「金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託」(幻冬舎)がある。

2015年楽天証券IFAサミットにて独立系ファイナンシャルアドバイザーで総合1位を受賞。

 

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参考

経済金融情報メディア「F-Style」:https://fstandard.co.jp/column/

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