本記事の前編<なぜ日本では長期国際分散投資が普及しないのか Vol.2>はコチラ。
日本の名目GDPは95年以降あまり増加していません。GDPが増加していないということはその国の経済が成長していないということになります。ですから大企業の株価の平均指数であるTOPIXは上昇していません。
それに対して米国はGDPが増加し続けているためS&P500などの平均株価指数も上昇し続けています。GDPが増えない国の株式インデックスへの投資は不利ということが分かります。
では今後も日本のGDPがあまり上昇しないと考えるならポートフォリオから日本株を外すべきなのでしょうか。その考え方は成長性から株式投資を考える投資家にとっては当たっているといえるでしょう。
投資家は馴染みがあるという理由だけで自国の株を買いたがる傾向があります。日本人は日本株の保有割合が高いですし、米国人は米国株、英国人は英国株の保有比率が高いのが実情です。しかしいわゆる自国バイアスには論理的な理由は存在しません。自国よりも成長性の高い国があれば、その国に投資するのは理にかなった行動でしょう。
最近、20代30代の投資家から積立に適した商品は何かと質問されることが多くなっています。よく若い世代は、長期間の運用が可能なためハイリスクな運用をしてもいいというアドバイスが見受けられます。期待リターンから考えると(GDP成長率が相対的に日本よりも高い)新興国や外国株式中心のポートフォリオが良いということも理解できるのではないでしょうか。
別の視点からも考えてみましょう。では日本株式でリターンを上げることは出来ないのでしょうか。
規模に着目すれば日本株でも利益を上げることは可能になるでしょう。大企業に比べて中小型株は利益成長率が高いため、高めの期待リターンが得られる可能性があります。
つまりGDPが上がらないと考える国の株式ファンドには利益成長率の高い銘柄を集めたアクティブファンドを活用したり、インデックスにしても中小型株式インデックスなどを活用したりすることは有効な手段となります。GDPが拡大する国の株式ファンドは株式インデックスファンドを選択し、GDPが増えない国はアクティブファンドや中小型株式インデックスに投資するといった組み合わせなら納得できるという投資家も多いのではないでしょうか。
長期投資をするためには投資家が自分のポートフォリオに納得をしている状態である必要があるため、こうしたプラスアルファの戦略を加味することが有効ではないでしょうか。
このように期待リターンをもとに運用戦略を考えると、戦略の論理性や納得性が深まるのではないでしょうか。
では実際に長期国際分散投資を続けて大きな利益を上げている米国の個人投資家は期待リターンやリスクについてしっかりと理解したうえで投資を行っているのでしょうか。2017年9月に米国のIFAを訪問し、現場視察をした際に複数件確認したところ、おそらく米国の個人投資家の多くはこうした金融理論を理解はしていないだろうという印象を持ちました。
ではなぜ米国人は期待リターンを理解していなくとも長期投資を実践できるのでしょうか。おそらく彼らはこれまでの世界的な株価上昇によって“株価は上がるものだ”と考えられるようになっているのではないでしょうか。つまり成功体験から期待リターンの原理を理解していると考えられます。(日本とは真逆ですね)
また、行動ファイナンスの考え方が投資の実務レベルで進んでいるという点も大きいといわれています。投資家にストレスを与えない形・選択肢を奪わない形で長期投資を促す(ナッジ)手法が進んでいることは個人投資家の長期投資の一助となっていることでしょう。
そして米国では資産運用においてファイナンシャルアドバイザーが果たしている役割が大きいと考えられています。長期投資をしている間には何回も大きな景気後退・相場下落局面に遭遇することになります。投資家は不安になり、長期投資を続けられなくなるかもしれません。そうした時に投資家を支え、長期投資を促していく伴走者のような役割を果たしています。投資は知的作業である前に精神的作業であるといわれます。ですから迷ったときに不安を解消するための手段としてアドバイザーを活用し、成果を上げているのです。
では長期投資を行うためには一体どうすればいいのでしょうか。
この2点が理解できないのであれば、あなたの運用は相場に翻弄されることになるでしょう。それは投資ではなく投機です。
しかしどうしても相場が気になってしまうというなら、
1.積立投資を活用する
2.イデコを活用して60歳まで使えないようにする
3.アドバイザーをつける
などの手段が考えられます。
「どうしても期待リターンの考え方が腹落ちしない」とか「運用の目標設定をどのようにすればいいのか分からない」ということならアドバイザーを利用することも手段の一つでしょう。しかし頻繁に売買を進めてくるアドバイザーには注意が必要です。頻繁な売買により投資家には税金と売買コストがかかり、利益が少なくなっていくことでしょう。
またせっかくiDeCoを使っているのに期待リターンが低く、変動幅の少ない債券ファンドを組み入れてしまっては、積立投資の利点を活かすことが出来なくなりますのでもったいないことです。
投資は長期間にわたる作業であり、良い時ばかりではありません。ですから疑心暗鬼になる時期も多いことでしょう。そうした時に運用の目的(ゴールベースアプローチ)や期待リターンの考え方を思い出し、すぐに売却をしてしまわない長期投資を実践してください。
<著者プロフィール>
福田 猛
ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役
大手証券会社入社後、10年間、1,000人以上の資産運用コンサルティングを経験。2012年IFA法人であるファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。独立系資産運用アドバイザーとして数多くのセミナーを主催し、幅広い年齢層の顧客から支持を受け活躍中。
著書に「金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託」(幻冬舎)がある。
2015年楽天証券IFAサミットにて独立系ファイナンシャルアドバイザーで総合1位を受賞。
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