日税FPメルマガ通信 第318号

 <消費税増税は景気を落ち込ませるのか> 2019年10月21日発行 

 

 2019年10月に予定されている消費税増税は、景気の落ち込み予想される人が多いのが現状です。
実際過去2回の消費税引上げ時(1997年4月、2014年4月)は、いずれも景気落ち込みが見られました。

それでは今回の消費税増税も同じように景気を冷やすのでしょうか?
そこで今回の記事は、
・消費税増税を行う背景
・過去2回の消費税増税の影響
・今回の消費税増税のポイント

以上について解説していきます。

1.消費税増税を行う背景

  財務省によると今回の消費税増税は、急速に進む少子高齢化によって増え続ける社会保障費の財源確保が主目的だと述べています。
また消費税で社会保障費の財源を確保する理由は、税金負担を特定の人に偏重させず、高齢者を含めた全ての国民にも負担させるべきとの考えによると説明しています。

 2019年の一般会計の歳出総額は101兆4564億円で前年に比べ、3兆7437億円増加しました。
このうち、社会保障費は34兆587億円で各項目の中で最も多い歳出
となっています。

【図1】

消費税増税 (1).jpg

注:平成27年まで…「社会保障費用統計(平成27年度)
  令和7年度…「社会保障に係る費用の将来推計について《改定後(平成24年3月)》(給付費の見直し)」
 
【図1】は日本の社会保障費をグラフ化したもので、年々増え続けているのがわかります。
これは少子高齢化が原因で増え続ける社会保障費が国の財政を圧迫しているためです。そこで財政赤字を解決するために、今回の消費税増税が実行されることになりました。

 

2.過去2回の消費税増税の影響

 1997年4月と2014年4月の消費税増税時の景気への影響を以下で詳しく見ていきましょう。

■1997年4月の消費税増税
 1997年4月に消費税が3%から5%に引き上げられました。

 この時の消費税増税は駆け込み消費に勢いがあり、増税前の1997年1~3月の実質GDPは前期比+2.0%でしたが、増税後の4~6月は前期比-2.8%に落ち込みました。
 
 この増税時、政府は消費税増税に対する対策を講じていません。

 消費者心理としては、バブル崩壊で所得が上がらない中、消費税が上がってしまったらこの先どうなるのか?という将来への不安を抱えていました。

 結果的に将来に対する不安が勝ったことで、消費が大きく落ち込むということとなりました。
 
■2014年4月の消費税増税
 2014年4月は消費税が5%から8%に引き上げられました。

 消費税増税前の2014年1~3月の実質GDPは前期比+1.6%でしたが、4~6月は前期比-1.8%に落ち込みました。
 
 2014年の消費税増税の際、政府は前回の駆け込み消費の影響などを踏まえ、「すまい給付金」や「住宅エコポイント」、「自動車重量税の見直し」などの対策を行いました。
 その結果、増税後のGDP(いずれも4月~6月)が1997年は前期比-2.8%、2014年は前期比-1.8%へ落ち着きました。

 2015年10月に税率10%へのさらなる増税を予定していたものの、駆け込み消費の反動減が長期化し、2017年4月1年半の延期を決めました。(その後2019年10月に再度延期)

3.今回の消費税増税のポイント

 1997年4月と2014年4月の消費税増税は、いずれも想定外の外部要因が起きました。
今回(2019年10月)の消費増増税においてもその様な外部要因が発生することは充分に考えられます。

それに対して現在政府が予定する施策は以下の2つです。

①軽減税率の導入
②キャッシュレス決済のポイント還元

①軽減税率の導入
軽減税率とは、日常生活において必須となる食品や日用品に対し消費税が10%に上がっても、8%のまま据え置く制度です。

軽減税率は欧州などの先進国では導入されている制度で、イギリスの標準税率は20%ですが、食品や新聞などの税率は0%です。
これらをお手本に今回日本でも消費税増税のタイミングで軽減税率を取り入れる予定です。

軽減税率の対象品目は下記の国税庁の資料で確認できます。

②キャッシュレス決済のポイント還元
日本の産業全体では人手不足が続いており、とりわけ小売・サービス業では顕著に影響が現れています。
そこで政府はキャッシュレス対応による生産性の向上や消費者の利便性を考え、2019年10月の消費税増税のタイミングで、キャッシュレス決済を行った場合に限り消費者にポイント還元を実施します。

決済手段はクレジットカード、デビットカード、電子マネー、QRコードなどの電子的な取引で、期間は2019年10月~2020年6月の9ヶ月間の限定の措置です。

つまり現金以外の決済手段で支払えば、5%または2%のキャッシュバックを受けることができます。

4.今回の消費税増税における懸念事項

 今回の消費税増税で上記2つが施策予定ですが、これらが与える影響は未知数です。
また前回の消費税増税同様、思わぬ外部要因による影響も懸念されます。

 米中の貿易摩擦については、すでに日本経済にも影響が出ており、消費税増税後も影響が続く可能性があります。
すでに製造業などは生産が落ち込んでおり、それにより雇用者の減少や、給料の減少も懸念されます。

 一方で来年は東京オリンピックが開催されるため、オリンピック需要が期待できます。
 前回の消費税増税の時期に比べ、オリンピックという好材料があることや、税率上昇が前回3%に対して、今回は2%に留まることから、前回以上の落ち込みは少ないと考えることもできるでしょう。

5.まとめ

 いかがでしたでしょうか?
今回の記事のポイントは、

●過去2回の消費税増税時後の景気はいずれも落ち込んでいる
●今回は軽減税率やキャッシュレス決済のポイント還元策が予定されている
●米中の貿易摩擦の長期化により、景気を冷やす可能性は残る

でした。

来年はオリンピックが開催されていることなどから、今回の消費税増税は前回ほどの落ち込みとはならないと期待されます。
ところが、前回同様、米中の貿易摩擦の影響が残るため、景気への影響は懸念されます。

 

<著者プロフィール>

福田 猛

ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役

大手証券会社を経て、2012年に金融機関から独立した立場で資産運用のアドバイスを行うIFA法人ファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。資産形成・資産運用アドバイザーとして現役活躍中。 2015年楽天証券IFAサミットにて独立系アドバイザーとして総合1位を受賞。 東京・横浜を中心に全国各地でセミナー講師としても活躍し、大好評の「投資信託選びの新常識セミナー」は開催数240回を超え、延べ8,000人以上が参加。新聞・経済誌等メディアでも注目を集める。著書に『投資信託 失敗の教訓』(プレジデント社)等がある。

 

■■■■■ 著 作 権 な ど ■■■■■

著作権者の承諾なしにコンテンツを複製、他の電子メディアや印刷物などに再利用(転用)することは、著作権法に触れる行為となります。また、メールマガジンにより専門的アドバイスまたはサービスを提供するものではありません。貴社の事業に影響を及ぼす可能性のある一切の決定または行為を行う前に必ず資格のある専門家のアドバイスを受ける必要があります。メールマガジンにより依拠することによりメールマガジンをお読み頂いている方々が被った損失について一切責任を負

わないものとします。

 

本記事のダウンロードはこちら

 

参考

経済金融情報メディア「F-Style」:https://fstandard.co.jp/column/

“F-Style”とは?

人々のくらしと密接に関わる「お金のヒミツや仕組み」を、より分かりやすくお伝えする経済金融メディアです。

その他関連サービス

研修一覧:https://www.nichizei.com/nbs/seminars/

 

このページの先頭へ
  • 税理士報酬支払制度
  • 各種研修会・セミナー
  • 会員制サービス
  • コンサルティング支援サービス
  • 情報提供サービス