日税FPメルマガ通信 第299号

オーストラリア経済のリスクと豪ドル見通し 後編 

平成30年9月26日発行

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本記事の前編<オーストラリア経済のリスクと豪ドル見通し ~【前編】コチラ 

 

■7.豪州住宅市場

 
 豪州の住宅価格は世界でも上昇度合いが目立っています。07年-09年の金融危機発生時にも目立って下げることもなく、2010年以降は5割近い上昇となっています。それに伴って家計の借入も急激に増加しており、対GDP対比で見た家計の債務比率は主要国では最高になっています。

何を以ってバブルと見るかに正確な定義はありませんが、日本では85年-90年で50%→70%へ4割上昇、米国では01年-09年で70%→100%へ5割弱上昇、で深刻なバブルを形成しました。豪州は資源バブルの始まる03年-現在で80%→120%へ上昇しており、変化率でも絶対水準でも危険水域にいるように見えます。
【世界の住宅価格動向】
*総じて上昇傾向だが豪州の上昇ぶりが目立つ

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【世界主要国の家計の抱える負債状況】
*カナダ、豪州共に負債増加が目立つ
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■8.世界でも際立つ豪州不動産の割高さ

 また米国調査会社Demographiaが公表する世界主要293都市を対象とする住宅価格調査に拠れば、豪州からシドニー、メルボルンの2大都市がトップ10にランクインしています(豪州総人口の約半分がこの2都市に集中)。この調査は各都市の住宅価格(中央値)を各都市の所得(中央値)で割った数値に基づいて作成されており、一般的な家庭が一般的な住宅を取得する場面を想定しています。

平均値を使わない理由は、平均値が一部の超高額物件の影響を受けてしまうため、その要素を排除するために敢えて中央値を用いています(ランキングの丁度中位にある数値を用いる)。トップは香港の19倍となっています。全293都市の中央値は5倍前後となっており、これを超えてくると一般家庭が住宅を取得するのが困難になるとされています。豪州における住宅価格は決して一様に上昇している訳ではなく、シドニー、メルボルンで生じている局所現象に近く、大都市に居住する(または居住したい)若い世帯を中心に、大きな不満が社会問題になりつつあります。

【住宅価格の国際比較】
*年収倍率で5倍を超えると一般家庭による住宅取得が困難になる
*東京が安く見えるが、上位都市が割高過ぎるだけ
*豪州主要都市は世界でも有名な住宅価格の割高地域

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■9.バブル否定論の理由は?

 
 これだけ住宅価格が上昇しているにも関わらず、豪州では住宅価格上昇はバブルではないという見方も存在しています。その理由は移民です。前述した通り、豪州には年間20万人以上の移住による人口増加があり、自然増を加味すれば年間30万人程度のペースで総人口が増加しています。1世帯平均2名程度と仮定しても、これだけで年間15万戸程度の住宅需要が存在することになります。年間の住宅着工数は15-20万戸程度で推移しており、足元に住宅着工は実需に即したもの、と理解することも可能です。

 但し、2014年以降は4年連続で住宅着工数は20万戸を大きく超えており、住宅価格が急上昇したタイミングと一致している点には注意が必要です。豪州国内の住宅価格は一様に上昇している訳ではなく、価格高騰はシドニー、メルボルンの2大都市に集中しています(豪州人口の4割はこの二大都市に集中)。

 シドニーにおける中古住宅の売買価格(中央値)は2013年頃から急激に上昇しており(約5割上昇)、相当数の投資目的の売買が含まれている可能性があります。豪州統計局の住宅ローン統計(投資目的)に拠れば、急激にローン残高が伸びているのも同時期に当たります。やはり2013年以降の一部大都市における住宅価格高騰には、相当程度の投機が含まれている様に見えます。

 筆者は15年頃豪州を訪問する機会に恵まれましたが、当時の現地不動産デベロッパーのコメントを振り返ると、シドニー/メルボルン等の大都市圏におけるマンション需要は半数弱が投資目的と推定されています。外国人による豪州不動産の取得には様々な制限が課されており、豪州当局も投機熱を冷ますのに必死です。本格的に不動産バブルを潰してしまうことも出来ず(マクロ経済悪化要因)、だからと言ってバブル形成の放置も出来ない、といった難しい舵取りに直面しているようです。投資目的でマンションを取得した場合、賃料収入を支払いローン金利が上回るケースが散見されており、投資需要を支える要素は将来の値上がり期待と思われます(買って保有するだけなら赤字になる)。

■10.豪州の人口増加

 【住宅着工数と移民】
*05-08年は人口増加に住宅着工が追い付かず(住宅の過小供給)
*13年以降は漸く人口増加に住宅着工増加が追い付いた状況

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【豪州の主要都市別住宅価格の推移】
*13年頃から豪州2大都市(シドニー/メルボルン)で住宅価格が急上昇
*その他の都市は総じて静かな値動き(値上がりは一部地域のみの局所現象)

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【シドニー中古住宅取引価格の推移】
*やはり13年前後から急激な上昇が始まる

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【豪州における住宅ローン新規実行額】
*13年前後から住宅ローンが急激に伸び始める
*投資用物件向けローンも同様の伸び

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<著者プロフィール>

福田 猛

ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役

大手証券会社入社後、10年間、1,000人以上の資産運用コンサルティングを経験。2012年IFA法人であるファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。独立系資産運用アドバイザーとして数多くのセミナーを主催し、幅広い年齢層の顧客から支持を受け活躍中。

著書に「金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託」(幻冬舎)がある。

2015年楽天証券IFAサミットにて独立系ファイナンシャルアドバイザーで総合1位を受賞。

 

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参考

経済金融情報メディア「F-Style」:https://fstandard.co.jp/column/

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