日税FPメルマガ通信 第295号

 

<株式投資における新興国・先進国のリスクとポテンシャル> 

平成30年7月25日発行

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 先進国との比較では新興国経済は依然として堅調に推移しており【図表1】、世界経済に占めるGDPシェアも4割を超えてきています。
今後もこのまま推移すれば、新興国の存在感はますます大きくなることが想定されます。

一方、新興国の株価は過去数年出遅れており、PER(株価収益率)で見た指標面でも割安感が出てきています【図表2】。
株式への長期投資を考える場合、新興国や先進国へ投資するリスク、ポテンシャル等様々な観点から悩まれる投資家も多いのではないでしょうか。

本日のコラムでは、新興国株式へ投資する場合のリスクについて、その一部を説明したいと思います(今回は新興国経済そのもののリスクや為替リスクを除外)。
また先進国株式に投資する意味合いが近年変わりつつある点についても触れたいと思います。

先進国株式にはグローバルで活動する大企業が多数含まれており、結果として新興国経済から受ける影響が大きくなりつつあります。
先進国株式へ投資した場合でも、新興国経済が成長する恩恵を享受できるようになっており、その度合いが近年増しているということです。
この先進国株式投資に付随するポテンシャルに関して、以下追って解説してみようと思います。

【図表1】世界の経済成長率の推移

図表1.jpg

(IMF:World Economic outlook データよりファイナンシャルスタンダード作成)

【図表2】

図表2.jpg

【先進国と新興国株価】

2-1先進国と新興国株価.jpg

(Bloombergデータよりファイナンシャルスタンダード作成)

■1.グローバル企業とは?(大手自動車会社の例)

【図表3】は大手日系自動車会社の連結販売台数の地域別内訳(17.3期)を示したものです(決算開示資料より)。
海外販売台数が全体の75%近くに達しており、企業活動のグローバル化が進んでいる様子が分かります。

この企業の場合、アジアとその他地域(多くは新興国)で売上の3割以上を占めており、当該地域だけでも既に日本市場を超えています。
先進国株式にはこのようなグローバル企業が多く含まれており、上場している国・地域と企業の実態が大きく乖離するケースは珍しい現象ではなくなってきています。

【図表3】

図表3.jpg

(大手自動車会社決算開示資料より抜粋)

新興国株式の株価と利益の動向
【図表1】の通り、新興国経済は先進国との比較では好調に推移しています。
リーマンショック以後はその成長率格差が若干縮小しましたが、未だ高い水準を維持しています。

一般論としては、経済成長率が高い国・地域の企業業績は同じように高い成長イメージがありますが、両者は必ずしも直接リンクするわけではありません。

【図表4】はMSCI新興国指数の企業業績とMSCIワールド指数(先進国株式)の企業業績を対比したものです。
確かに過去17年間における新興国の企業業績は、対先進国では好調に推移した様子が分かります。
但し、両地域の成長率に大きな格差が出たのは04-08年の短い期間に集中しており、リーマンショック以降の時期においては、必ずしも大きな差があったわけではありません。
新興国の経済成長率はリーマンション以前・以後も対先進国では好調に推移しており、この間経済成長率(相対格差)に大きな変化が生じたわけではありません。

【図表4】先進国と新興国の企業業績

図表6.jpg

(Bloombergデータよりファイナンシャルスタンダード作成)

更に、【図表5】はMSCIワールド指数とMSCI新興国指数の一株当たり利益(EPS)の推移を比較したものですが、こちらはリーマンショック以降急速にその格差が縮小している様子を示しています。

過去5年の新興国株式は先進国相対では軟調に推移してきましたが、ある意味当然とも言えます。
新興国経済成長は相対的には堅調に推移していますが、企業業績面ではその差が縮まり、EPSに至っては新興国企業が出遅れる結果となっているからです。

業績とEPSになぜこのような差が出るのか疑問を持つ方も多いと思いますが、新興国では企業の資金調達意欲が強く、株式を新規で発行するケースが多いことが主たる理由と思われます。
また割高に評価されている新規上場企業が多い場合にも同様の傾向となります。

【図表5】先進国と新興国のEPS推移

図表5.jpg

(Bloombergデータよりファイナンシャルスタンダード作成)

このように、新興国の経済成長率が先進国対比で好調に推移していても、新興国企業のEPS成長率が先進国企業を継続的に凌駕するか否かは別の話であることが分かります。
また新興国株式には経済成長や企業業績の振れ幅が大きくなる特徴があり、未発展なコーポレートガバナンス、国によっては不安定な政治体制、等様々な新興国特有のリスク要因が存在します。
したがって、先進国株式との比較ではリスクが高い投資対象と言えそうです。
現状PERは先進国との比較では低い水準に留まっていますが、ある程度割安に評価されてしまうのは、正当な理由があるということです。
また過去17年の推移を見る限り、新興国株式のPERは上限近傍にあり、歴史的にも大幅に割安とは言えない状況にあります。【図表6】

【図表6】先進国と新興国のPER推移

図表4.jpg

(Bloombergデータよりファイナンシャルスタンダード作成)

 

■2.先進国の企業業績について

 冒頭に述べた通り、上場企業のグローバルな企業活動は広がっています。
東証一部上場企業全体では海外売上比率は3割を超えており、米国S&P500指数構成銘柄では4割を超えています。

例えば、MSCIはMSCI ACWI指数(先進国・新興国を幅広くカバーする代表的株価指数)を用いて、面白い分析を公表しています(14.10月付「Economic Exposure in Global Investing」より)。
同レポートに拠れば、新興国株式の指数内時価総額構成比は11%に過ぎませんが、
同指数を構成する個別企業の地域別売上高を集計すると、売上高の35%が新興国地域からもたらされています。
同様の分析を代表的な先進国株式指数であるMSCIワールド指数で行うと、新興国地域の時価総額は定義上ゼロですが、同地域からの売上高は21%を占めています。

このように、新興国株式を直接買わなくても、先進国株式へ投資すれば間接的に新興国経済成長の恩恵をある程度享受できるようになってきています。
先進国株式には政治不安も少なく、コーポレートガバナンス等の整備も進んでおり、相対的な安心感もあります。

図表6-1.jpg

 

図表6-2.jpg


(MSCI「Economic Exposure in Global Investing」よりファイナンシャルスタンダード作成)

■3.グローバル企業の特性

 
 冒頭で例に挙げた自動車会社は日本の上場企業であり、日本に本社を置く純粋日本企業であることに間違いはありませんが、企業活動面ではもはや日本企業とは言えない存在です。
世界では法人税を引き下げる動きが継続しており、足元では米国で法人税率引き下げの法案が議会を通過しました。
米国の法人税率は世界でも高い部類に入っており、今回の引き下げで世界標準程度まで低下することになります。
先ほどの自動車会社がどこに本社を置き、どこで生産するかを意思決定する場合、もはや日本は多くの候補地の一つに過ぎません。

このような企業が米国に工場を建設し、米国で雇用や利益を拡大すれば、結果としてこの自動車会社の株価は上昇するでしょう(日本株上昇へ)。
但し、そのことが日本経済にとってプラスなのか否かに関しては、全く別の話になってしまいます。
自動車会社の利益が増加し、株価が上昇しても、日本国内の雇用や税収が増えるとは限らないからです。
また海外生産が拡大し、結果として利益が膨らんだ場合でも、日本国内の生産活動に従事する従業員の給与・賞与が増加するかも微妙なところです。
利益が増えたのは米国事業であり、日本事業ではないからです。

このように、グローバルで活動する企業が増加すると、日本株と日本経済が少しずつ乖離していく要因になります。
法人税引き下げ競争の背景には、このようなグローバル企業の誘致合戦という側面がありそうです。

 

<著者プロフィール>

福田 猛

ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役

大手証券会社入社後、10年間、1,000人以上の資産運用コンサルティングを経験。2012年IFA法人であるファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。独立系資産運用アドバイザーとして数多くのセミナーを主催し、幅広い年齢層の顧客から支持を受け活躍中。

著書に「金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託」(幻冬舎)がある。

2015年楽天証券IFAサミットにて独立系ファイナンシャルアドバイザーで総合1位を受賞。

 

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参考

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