現代の金融市場を分析する上で欠かせないと言われる行動ファイナンス理論。
従来の経済理論は、「人は利益を追求して常に合理的な行動を選択する」という考え方が主流でした。行動ファイナンスは、伝統的な経済論の中では取り上げられていなかった、人間の感情や心理が、市場や経済へもたらす影響を検証する比較的新しい学問です。
今回は、あなたの投資戦略に、無意識のうちに影響を与えている人間心理の“ワナ”を解き明かす行動ファイナンス理論を知り、賢い資産運用へ応用するヒントをお伝えします。
古典的な経済学のなかでは、自己の利益を最大限に考え、常に一貫した行動を取り、合理的な判断を下せる“経済人”という人間をモデルとして、金融市場や経済の動きを説明してきました。
投資家は正しい情報と知識を持っており、常に正しい行動をとることを前提に仮説を立て、投資家の心理や感情についてはカバーしていなかったのです。
しかし実際には、「底打ち感」「狼狽売り」といった言葉に代表されるように、投資家の心理が市場に与える影響は無視できませんし、理論的な裏付けのない季節性要因や経験則(アノマリー)が、為替の値動きを予測する判断材料として活用されることは珍しくありません。
そして、株価が上がり続けることを前提にして高値買いを行うような「非合理的」な投資家の行動が招くバブルの発生も、古典的な経済学だけで説明することは困難です。
人間は、必ずしも合理的な行動を取るとは限りません。それは、経済活動においても同じことです。冷静に考えてみれば理にかなわないとわかることでも、感情に流されてつい行動に移してしまった…。そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか?
行動ファイナンスは、こうした経済を動かす、生身の人間の心の動きにもスポットを当て、心理学や統計学も援用しながら金融市場や経済の動きを解き明かそうとする新しい学問です。
人の感情や心理的な動きが、どのようにマーケットに影響を及ぼすのかを探るため、人が投資判断をするときに陥りがちな「心のワナ」を分析し、パターン化して科学的な検証を試みています。
つまり、行動ファイナンスについて学ぶことは、投資家が知らず知らずの間に非合理的な行動パターンに陥りやすい心理上の“ワナ”を知ることにも繋がるのです。
もし、あなたの資産運用の戦略が上手くいかないなら、行動ファイナンスの理論の中にその原因を探るヒントがあるかもしれません。
1980年代の前半から米国プリンストン大学のダニエル・カーネマン博士と故エイモス・トヴェルスキー博士が提唱し、2002年にはノーベル経済学賞を受賞した「プロスペクト理論」は、行動ファイナンスの代表的な理論のひとつです。
このプロスペクト理論の元になった有名な心理実験として、次のような質問があります。
Q1:もし、どちらかが選べるなら、あなたはどちらを選びますか?
① あなたに、確実に100万円をあげます。
② コインを投げて表なら200万円あげます。でも、裏なら1円もあげません。
Q2:もしあなたが今200万円もの借金を抱えているとしたら、どちらを選びますか?
① あなたの借金を、無条件で100万円減らします。残りの借金は100万円です。
② コインを投げて、表ならすべて借金をチャラにします。でも、裏なら200万円のままです。
あなたは、どちらを選びましたか?
一般的に、Q1の質問では、確実にお金がプラスになる①を選ぶ人が多いそうです。
どちらも100万円を確実に手に入れるか、二分の一でゼロか200万円かになる選択を迫られる質問ですから、理屈の上ではQ1で①を選んだ方は、Q2の質問でも同じように堅実にプラスになる①を選ぶ可能性が高いようにも思えます。
しかし、実際には、Q1で①を選んだほぼすべての人が、「借金」というマイナスがある場合は負債をゼロにする可能性のある②を選択することが実験で実証されています。
同じ人が、同じ金額を得るチャンスでも、元手がゼロの場合は確実に利益になる選択を選び、借金という損失がある場合は、負債をゼロにする“賭け”に出てしまう傾向が見られるのです。
余裕があるときはクレバーに振る舞えるが、負けが大きくなってくると合理的な判断は出来にくくなるのでしょう。
損切り、ロスカットは、いかに小さな損失で収めるかが勝負です。
しかし、そのまま持ち続けていれば反転する「可能性」が残されます。
でも、損が出た段階で手放せば、確実な「マイナス」の結果が待っています。
仮に1,000万円の投資をして、200万円の含み損が出たとき、自分で200万円を切り捨てるような、適切なリスクを取る判断を、常に下すことができるでしょうか?
次の選択肢ならどちらを選びますか?
① コインを投げて表なら1000円あげます。でも裏なら1円もあげません。
② あなたに、確実に400円あげます。
合理的に考えると、①の選択肢は期待値が500円ですので、②より有利です。この場合多くの方が①を選びます。金額が小さいと人間は合理的な判断が出来ます。
では次の選択肢はどうでしょうか。
① コインを投げて表なら10億円あげます。でも裏なら1円もあげません。
② あなたに、確実に4億円あげます。
この場合、①の方が合理的に正しい選択と分かっているが、②を選ぶ人が多くなります。これは自分が①を選択して外れた時の後悔が大きいと感じるからです。
人間の選択は後悔しなさそうな方を選ぶ傾向があるということです。
また、人間の判断は相対的に行われる傾向があります。
(例えば、70点合格のテストがあるが全く勉強しなかったとします。テストを受けて69点で不合格になるのと、30点で不合格になるのでは69点の方が後悔は大きくなる。
他には
A 自分の年収は800万円で自分以外の社員の年収は600万円の会社
B 自分の年収は1000万円で自分以外の社員の年収は1200万円の会社
この場合、年収は上がっているのにAよりBのほうが満足度は低い、などの例があります)
<著者プロフィール>
福田 猛
ファイナンシャルスタンダード株式会社 代表取締役
大手証券会社入社後、10年間、1,000人以上の資産運用コンサルティングを経験。2012年IFA法人であるファイナンシャルスタンダード株式会社を設立。独立系資産運用アドバイザーとして数多くのセミナーを主催し、幅広い年齢層の顧客から支持を受け活躍中。
著書に「金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託」(幻冬舎)がある。
2015年楽天証券IFAサミットにて独立系ファイナンシャルアドバイザーで総合1位を受賞。
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経済金融情報メディア「F-Style」:https://fstandard.co.jp/column/
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